第17話 同じ力
ディゼを追いかけソロバトルタワーの外まで走ってきた。間もなく88戦目が始まってしまうためこんなところで道草は食えないのだが、私と同じスキルを持つディゼのことをライバル視しているため放ってはおけなかった。
「ディゼッ!」
呼び止めると、追っていた背中がピクリと止まる。
「ディゼなんでしょ?」
「あー? だったらなんだよ」
ディゼは振り返ると面倒臭そうに大きく口を開けてあくびをした。
「アーノンは、ザコなんかじゃないわ。あの試合を見ていたならわかるはずよ?」
私の言葉を聞いたディゼは数度目をパチリとさせてから、うるさくて下品な笑い声を上げる。
「アハハハハハッ!! 何だお前、そんなどうでもいいこと言うためにわざわざ追ってきたのかよ!? ご苦労なもんだなァ!?」
「私のやり方を非難しておきながら試合の観戦をしているだなんて何のつもり?」
「あー? 見ちゃ悪りぃのかよ。見られたくなかったら最初からレートなんて出るな。アホかよ」
舌を出しながら目を見開いたディゼは私を舐め腐ったように睨む。口を開けばポンポンと馬鹿にしたような言葉ばかりが出てくるし、話し方のイントネーションひとつ取ってもそうだ。数回言葉を交わしただけでこれだけイラつかせられるのは彼の才能とも言える。
「そんなに見たいのなら、大人しく見ていればいいじゃない。一々アーノンを悪く言って私に突っかかってきて、その態度が気に入らないのよ」
「だーかーらー! どんな態度であれそれを見るのは俺の自由だ。見られたくなきゃ最初からやらなきゃいい。それが全てだろう?」
「それは……そうだけどさ」
言葉が詰まる私を前にディゼは急に真面目な雰囲気で切り出した。
「……マジな話、親友の行方もわからない中でこんなくっだらねぇゲームに呆けてていいのかよ?」
「な、なんで七瀬のことをあなたが知っているのよ!?」
「はぁ……」
長々話すことに嫌気を感じ、頭を掻きむしりながら、ディゼは面倒くさそうに話す
「俺は……ディゼ。ギルド、afternoonのギルドマスター、ディゼだ」
「afternoon?」
「ダチが行方不明ってんなら、黒の財団の話は聞いてんだろ? afternoonは黒の財団から援助を受けている。具体的には特殊なスキルや必殺技の提供だ。その代わりに俺たちは財団に協力をしている。そういう関係だ」
「……え?」
ディゼの口から黒の財団という言葉を聞き、私の口から声にならない音が漏れる。やはり、あのときの男が言った通りだ。このシティ・モンスターズというゲームは黒の財団と大きく関係があるらしい。
「お前の固有スキル、【操獣】。アホみてぇに強いだろ? それはな、財団が開発した特殊なスキルだ。デパートには売ってねぇオリジナルってやつだな。そして、遠目からしか見ていないから何とも言えんが、さっき使ってたその武器も恐らくは財団製だ。威力と追加効果がどう考えてもおかしい。この性能の壊れ方は財団のそれだ」
「カメロケラスランスが……?」
私の中で黒の財団とあの人が重なる。彼は財団のメンバーなのだろうか。
「悪いことは言わねぇ。財団とは関わるな。お前、冗談じゃなく死ぬぞ」
ディゼははっきり、私の耳でも聞こえるようにそう言った。
「一応聞くけど、その『死ぬ』って、ゲームオーバーだなんて笑えるものじゃないんだよね?」
「ああ。そのままの意味だ。お前の場合、ゲームで死ぬことはねぇ。ただ、奴らの意向に沿わない事をしでかしたら現実世界で殺されかねない。あいつらは危険だ。財団と接する以上、常に死ぬ危険があるってことをまず自覚しろ」
「じゃあ、どうしてディゼは財団の援助を受けたりなんかしたの!?」
私の当然な問いにディゼは目を瞑る。
「アイツは自然に近づいてきた。虫も殺さぬ顔をして俺たちに色々なスキルを与えてくれたよ。それで俺たちの実力はみるみるうちに上がっていった。その結果がギルドランク一位。程なくして俺自身もプレイヤーランクで一位を取った。笑えるだろ。俺の仲間はみんなアイツを信用しきっている。実質、今のギルドマスターはアイツに成り代わられてしまっているし、もう俺一人ではどうすることもできないんだ」
ディゼは悔しそうに唇を噛み締める。黒の財団の恐ろしさを知っているから、同じ財団製のスキルを持つ私を心配して試合を見てくれていたのか。口は悪いが、彼はいい人なのかもしれない。なんだか、不器用な人なんだな。
そして、私には彼の言うアイツに心当たりがある。カメロケラスランスを渡してきた人であり、優しそうな雰囲気の人。
「……ウィズダム」
「やはりお前もソイツと繋がっていたか。気をつけろよ。アイツは容易く人を殺す」
ディゼは私にそう忠告をして、足早に去っていった。【操獣】はもともと七瀬が持っていたスキル。ということは、七瀬もウィズダムと繋がっていた。一方で、ウィズダムは七瀬を弱いと言っていた。
「だから七瀬は黒の財団に誘拐された……。確かに辻褄は合うわね」
七瀬、カズハさんと黒の財団の関係。シティ・ゲームと黒の財団の関係。ディゼのafternoonと黒の財団の関係。気になることは沢山あるけれど、今は目の前のことに集中しよう。七瀬を探すために、できることはランクを上げて注目されることなんだ。
ソロバトルタワーに戻り、数歩歩いて私は気づく。
「え……じゃあ、七瀬はもう殺されてる……?」
途端に不安になる。同時に88戦目の開始5分前の放送が鳴った。アーノンも待ってる。今は戦うしかない。七瀬はまだ死んでいない、男の人が言う通りこのゲームの中に隠れているんだ、私はずっとそう唱え続ける。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます