第3話
「それでね、アシュリはもうすぐ配信の時間だから帰らなくちゃいけないの」
「あ、そうなんですか……」
アシュリの言葉に、メイちゃんがションボリとした顔になる。
でも。
それは最初に見た時の今にも泣き出しそうな顔とは違って、悲しいっていうよりも残念って感じにアシュリには見えた。
「ごめんね。でも今日の配信を待ってくれているリスナーのみんながいるから。だからアシュリからメイちゃんに1つ提案♪」
「提案……?」
「この後、メイちゃんにアシュリの配信を見て欲しいの」
「アシュリさんの配信をですか?」
「ここでのお話は終わっても、アシュリとメイちゃんは繋がってるから。離れていても繋がることができるのが、VTuberなんだから」
「離れていても繋がることができる……」
「そうだよん♪ VTuberには距離なんて関係ないの。地球の裏側にだってシュババ!って配信しちゃうんだから」
「うん……」
「それでね? 今日は新曲を披露する予定だからメイちゃんにも聞いて欲しいなって思ったんだけど、どうかな?」
「ええっと、つまり……同接数稼ぎですか?」
「結構きついこと言うよねメイちゃん!? いつも笑顔のアシュリも、これにはさすがに泣いちゃうよ!? ギャン泣きしちゃうよ!?」
「えへへ、ごめんなさい。今のはちょっとした冗談です」
「冗談!? ほんとに!? ほんとのほんと!?」
言葉の刃がアシュリの乙女な心のど真ん中に、ぐさっと突き刺さっちゃったんだからね!?
ま、まぁでも?
裏を返せば、こんな冗談が言えるくらいにはメイちゃんも元気が出たってことだよね?
だよね? ね?
「『
「うわっ、ほんと? ありがとメイちゃん! じゃあアシュリも急いで帰らないとちょーっとヤバい感じだからもう帰るね? メイちゃんも安心安全でおうちまで帰るんだよ?」
「はいっ。今日はありがとうございましたアシュリさん。配信は絶対見ますので。それでは」
「うん、じゃあね、おつしゅりっ♪」
嬉しい言葉を置き土産にくれたメイちゃんが公園から去っていくのを、お別れの言葉とともに手を振って見送ってから、
「ええっと、ぶっちゃけかなり時間やばいんだよね。アシュリも急いで帰らないと……」
アシュリは全力ダッシュ(でもあまり速くない)でマンションに戻ると、既に配信準備が完了している簡易防音スペースに入る。
お水を飲んで、深呼吸をしてなんとか息を整えると。
22時30分。
予定時刻ギリギリでクリスマス配信をスタートした。
「リスナーのみんな、もう来てくれてるかな~? ……あ、コメントがついたぁ。ありがとう。じゃあみんないるみたいだから、そろそろ始めるね~」
アシュリはそこで軽く間を取ると、とびっきりの笑顔で言った。
「リスナーのみんな、メリークリスマ~ス♪ 愛と癒しを届ける世界樹の精霊VTuber、
そうして始まったクリスマスライブ。
クリスマスということで、今日はいつにも増して来てくれる人が――少なかった。
うん、仕方ないよね。
クリスマスはたくさんの配信が行われる超激戦区だもん。
リスナーのみんなが、人気VTuberのクリスマス配信を優先して見にいっちゃうのも当然だし。
でもそんなのはアシュリには関係ないんだ。
だって今繋がっているリスナーのみんなを幸せにすることが、今のアシュリの目標なんだもん。
クリスマスの話題、雪の話題、サンタさんの話題。
アシュリが生まれる前の古い歌の話題(←全然知らないのでついていけなかった)。
トークはまだまだ発展途上でぜんぜん上手じゃないんだけど、途中でクリスマスソングを歌ったりしながら、みんなと一緒に盛り上がる。
すると、
「初見です。苺ショートケーキ美味しかったです」
そんなコメントが書き込まれた。
書いた人の名前を見ると「メイ」。
あ、さっきのメイちゃんだ♪
「メイちゃん、配信見にきてくれてありがとう~。えへへ、嬉しいな~。モンブランも美味しかったよ~」
それを切っ掛けにケーキの話題で盛り上がる。
メイちゃんも時々コメントをくれた。
ちょっと控えめな感じが可愛いね。
それにリアルのアシュリを知ってるのに、身バレするようなことは一言も書かないのも素敵だ。
メイちゃんってもしかしてアシュリよりも頭良かったりしない?
そしてメイちゃんが、リスナーのみんなが。
アシュリの配信を楽しんでくれているのが画面越しにも伝わってくる。
うんうん、今日の配信は今までで一番にいい感じじゃないかな♪
見てくれているリスナーさんの数は、今はまだ多くはないけれど。
でもいつか、世界中のみんなにアシュリの歌と配信を届けるんだ。
顔が見えなくても繋がることができる。
一緒の時間を過ごすことができる。
励ますことができる。
元気にすることができる。
VTuberはそんなことができる素敵な存在なんだから。
アシュリは今日、そのことを改めて感じることができたから。
「えっと、それじゃみなさんに、そろそろ新曲をお披露目しようかなー。冬にピッタリな曲を用意したんだぁ♪」
今日一番に盛り上がるコメント欄を見ながら、アシュリは新曲を歌い始める。
何度も練習を重ねたメロディーに、今感じてる最高に素敵な気持ちを乗せて――
~~~~~
おつしゅり~♪
読んでくれてありがとう♪
(注)この作品は
リスナーのみんな、おはしゅり♪ 駆け出しVTuber「潤主アシュリ🌳💖」クリスマスライブ配信~聖夜の贈り物~編だよ♪ 「離れていても繋がることができる。それがVTuberだから――」 マナシロカナタ✨2巻発売✨子犬を助けた~ @kanatan37
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます