第2話

「あ、そうだ。お近づきのしるしに、アシュリがメイちゃんにいいものをあげるよ♪」


「いいもの?」


「じゃじゃーん! ケーキだよー。さっきそこのコンビニで買ってきたんだぁ。今から一緒に食べよ?」


「いいの? 2つセットだけど、アシュリさんがカレシと食べるつもりだったんじゃないの?」


「うぐ……か、カレシはいないから大丈夫……」


 カレシ、なにそれ美味しいの?

 どこで手に入るの?(泣)


 あ、カレイは美味しいよね。

 個人的には焼き魚ではカレイが一番好きかなぁ。


 おっとっと。

 焼き魚の話はひとまず置いておいて。


 アシュリとメイちゃんはベンチにくっついて座りながら、一緒にケーキを食べ始めたの。


 好きな方を選んでいいよって言ったら、ユナちゃんは苺ショートケーキを選んだので、アシュリはもう一つのモンブランを食べ始めた――んだけど。


「アシュリさん、もしかしてこっちのケーキも食べたいの?」

「えっ? ううん? そんなことは全然? そんなことはちっとも……ないんだからね?」


「あはは、そんなこといっぱいある顔してるし。はい、あーん」


 メイちゃんは自分の苺ショートケーキを一口サイズに切り分けると、フォークで指してアシュリの前に差し出した。


 ううっ、今のアシュリってば、よっぽど物欲しそうな顔をしていたんだろうなぁ。


 でもでも、差し出されたケーキはとっても美味しそうだったので、


「もぐもぐ……うん、苺ショートも美味しっ♪」


 誘惑に負けてしまったアシュリは、差し出されたケーキをパクリと食べてしまったのでした、まる。


 そんなアシュリを見て、メイちゃんがくすくすと笑ってくれる。

 メイちゃんはもうすっかり元気を取り戻してくれたみたいだった。


 ふぅ、やれやれ。

 さすがアシュリ。

 今日もまた1人の女の子を笑顔にしちゃいました。

 えらいっ♪


 そうしてケーキを食べながらあれこれ2人でお話している内に、アシュリの配信の時間がやってきてしまった。


 お世辞にもまだ多いとは言えないけれど。


 大切なクリスマスに時間を作って待っていてくれるリスナーのみんながいる以上、配信をドタキャンするわけにはいかない。


 泣いている女の子を放っておけないのと同じくらい、みんなに配信を届けることはアシュリにとって大事なことだから。


 だからアシュリはこう言ったんだ、


「メイちゃん、アシュリの歌を聞いてくれないかな?」

 って。


「歌を……? アシュリさんは歌手だったの?」


「ううん違うよ、アシュリはVTuber。って言っても、まだまだ駆け出しなんだけどね。『潤主うるすアシュリ🌳💖』って知ってる? 歌う系Vtuberなんだけど」


 アシュリはちょっとだけワクワクしながら尋ねてみた。


「ごめんなさい、知らないです。ぺ〇らとかマ〇ンは知ってるけど」


 ぐはぁっ!?

 VTuber業界を代表するトップランナー様と比べるのはやめてさしあげて!?


 それは新人で個人勢の同接ギリ3桁な零細VTuberのアシュリさんにはあまりに酷というものですよ!?


「ま、まぁそうだよね。アシュリはまだまだ全然有名じゃないから知らなくて当然だし。き、気にしないでね」


「気をつかわせてしまってごめんなさい」


「べ、別に気なんてつかってないんだよ?」


「えっとその……アシュリさんの顔が引きつってます……」


「あ、うん……ごめんね。実はアシュリ、すぐ顔に出るほうなの。で、でもね? いつかアシュリも有名になって、アシュリの歌と配信でみんなを幸せにしたいなって思ってるんだから」


「うわっ、なんかすごいです、カッコいいです!」


 心が綺麗なメイちゃんは、まだまだ遥か遠い夢のかなたを語るアシュリのことを、目を輝かせて見つめてくる。


 その視線がちょっとくすぐったくて、でもすっごく嬉しかった。

 

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