第6話

 フランボワーズを神崎と時間をあけて、出ることにする。一緒に出るところは見られない方がいいだろうし。ここの道を通る学生も多いから。


 ちょうど文庫本を読み終えて、日が沈んだ時間帯。そろそろ、出るか、とバックに本を仕舞おうとしていると、テーブルの近くに来る足音——。


「三ノ宮か」

「気づいていたの」


 すこし言葉にトゲを感じる。友人が変な男と付き合っていて、しかも別れていることが、気になるのは分かるが。

 実際は何も起きていない。それでも隠さないといけないか。


「一応は」


 少し読書への集中力が落ちているからな。神崎と入れ替わりぐらいで、同じ高校の生徒が喫茶店に来たときには、気づいていた。カウンター席に座って、アイスコーヒーを頼んでいた。

 おそらく俺のことをつけてでもいたのだろう。


「朝倉くん、渚沙は――」


 言葉を途中で止める三ノ宮。どうしたんだろう。

 近くに立ったまま――。


 近くで見ると、やっぱり運動部らしい体つきだな。スカートから伸びる脚とか、鍛えている体躯たいくのものだ。


「神崎がどうかしたか?」


「まだ、あなたのことが好きだったりするの」


「円満に別れている。後腐れなく」


 教室の雰囲気だと、たしかに俺が振ったかのようだったけどな。それを確認しに来たのか。


「そう」

もてあそんだりしてないから、安心してくれ。今日、ここで神崎と少し話したのは、教室でのことについてだけだから」


 つけていたのなら、神崎が、ここに来ていたのは、知っているのだから、弁明は先にしておいた方がいいだろう。


 実際は、弄ぶどころか、こっちが、いろいろと振り回されている。まぁ、そこまで嫌ではないが。ラブコメとかで、美少女に振り回されるのは、こういう感覚なのか、と。なるようになれ、と流されてるだけ。


「ちゃんと、別れてるのね。キープしてない」

「キープしてない」


 神崎の元カレへの敵意からか、やっぱり、少し口調が強いな。当たり前か。


「隠れてコソコソ付き合わないでね。渚沙は、可愛いから、ボディガードがいるの」


「……ストーカーの間違いでは」


「してないからっ。露払つゆばらいしてないと、変な男が付きまとってくるでしょ」


「だったら、彼氏いない歴イコール年齢とか煽るなよ」


 発端は、そのせいだ。

 まさか三ノ宮自身のせいで、いま、こういうことになっているとは思いもしていないだろうけど。


「挑発して確認しただけよ。元カレがいたら、襲ってくるかもしれないでしょ。嫉妬や恨みは、どこから来るか分からないし。おかげで、元カレが1匹明らかになったわけだし。まさかのダークホースだったけど」


「男をなんだと思ってるんだ」


「……性欲を抑えられない獣」


「偏見だ」


 もし、そうだったら、草食系男子も、全て羊の皮を被った狼だな。まぁ、神崎が本気でオトす気になったら、狼に変わりそうな草食動物は多いだろうけど。


「三ノ宮が、神崎のことを大事なのは分かったけど、何もない。誓って、なにもない」

「へー、本当かな。わたしは、渚沙にも確認できるんだよ。嘘はすぐバレるから」


 自分のスマホをこれ見よがしに見せてくる三ノ宮。

 現状、嘘はバレてはいないようだが。


「大丈夫そう・・・・・・かな」

「そうだな」


「・・・・・・淡泊すぎない」


「そういう重い感情は、今のところないんだ」


「昔はあったと」


「どうなんだろう。疎いんだ、きっと、いろいろとな」


「本を読むと、共感能力とかあがるんじゃないの」

 

 そうなのだろうか。あんまり、自分自身、共感能力があるとは思わないが。読書は、途中から、目新しさもなくなって、作業的になってきている。本当に、惰性だよな。やめられなくなってる習慣だ。


「うーん、朝倉って。絶対に、渚沙に告白とかしてないよね。ということは、渚紗から付き合って欲しいって言われたわけ」


 少し言葉が柔らかくなったな。無駄な心労だと理解してくれたか。一応のところ、関係を引きずってないと分かってくれたようだ。


「三ノ宮。あんまり詮索はしないでいいだろう。もう終わったことだから」


 一応のストーリーは用意していても、深掘りされれば穴が出るかもしれない。ガチガチに固めてあるわけでもない。ここで、俺から聞いて、すぐに神崎に連絡をされたりすると、矛盾が生じる可能性は高い。


「友人の元カレと、長話していていいのか」


「元カレでしょ、ただの――」


「そう、だが」


「ま、いいけどね。わたしも渚沙に変な勘違いされたくはないし」


 

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