戦略窃盗のテーマ②



「一緒に自由な国を作ろうって約束したのに、どうして……ぅぅ……どうしてよぉ。なんで忘れちゃうのぉ?」


→涙ながらに訴えかける少女リドルを見て、俺は困っていた。子供に泣かれるのは苦手だから。


「うーん、俺は国のためを思ってこの城を出ていくんだが……」


なんとか言い訳しようとする。俺とリドルとはさっき出会ったばかりだが、向こうとしてはそうでない。当然として何か複雑な事情があって、それでこんなことになっているのだ。

俺はさりげなく目線でスノウに助けを求めた。いわく、


「貴族の風上にも置けない、ただの勉強嫌いのわがまま娘ですわ。こんな蓮っ葉の言うことに惑わされるだけ無駄ですのよ、陛下様」


スノウはどちらかといえば軽蔑の眼差しでリドルのことを見ていて、俺には気にするなと忠告する。うーん、だがしかし。どうもやりきれなくなって、俺は本当のことを伝えることにした。


「俺は月乃の消息を追いたいんだ。一ヶ月もあれば帰るよ。な? わがままを言わずに、おとなしく待っててくれよ」


それを聞いたリドルは信じられないといった表情を浮かべて怒った、ように少なくとも見えた。


「閣下、あの女ことがまだ忘れられないの!? ねぇ、あんな女もうどうでもいいでしょ!? あたしを助けてよぉ!!」


俺は月乃のことをもうどうでもいいなんて思わなかったので、大人気なく黙って馬車に乗り込むことにした。もしかしてこいつが月乃を殺した犯人なんじゃ……ってことはないか。

いくらなんでもリドルは年幼すぎて、一年前の暗殺事件に関われるような奴じゃないだろう。それより一刻も早くレーテーへ向けて出発することだ。


「待ってぇ! 待ってよぉ! 閣下がいなくなったら、あたしまた独りぼっちになっちゃうよぉ! 学校になんて戻りたくない! みんなあたしのこといじめるんだ!」


リドルは張り叫んだ。学校、学校か。ものすごくテキトーな意見を述ぶれば、下級貴族も上級貴族もみんなで集まって平等に学ぶのは普通に良いことだと思う。

けど、いじめられてると言うなら難しい問題だな。それなら一旦休学するのもありだし、それかスクールカウンセラーにでも相談すれば良いんじゃなかろうか。

いずれにせよリドルを長旅に連れて行くという選択肢はない。学校の勉強をちゃんとしなければいけない年頃だろうし、何よりこれは俺が月乃を探し出すための旅だ。ほかの王妃を連れては行けない。

それから凶暴な声をあげがむしゃらに駆け寄ってくるリドルをスノウ付きの従者がふたりがかりで押さえつけた。この一幕に城郭は少し騒然となったが、馬車が止まるほどではない。

俺は出発を命じることにした。スノウが小さな声で


「計画通り、ですわ」


と呟いたような気がしたが、それも定かでない。そのスノウの姿もどんどん遠ざかってゆき、やがて大きさのないひとつの点になる。とうとう旅がはじまった。

これからこの広いフォークの大地の上で、月乃が失踪した手がかりを探す物語がはじまるんだ。


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