アリストクラートと少女リドル①
『
われらの世界と法則を逸する別の世界からフレニールを発生することにより、双子の矛盾を解決するエレガントな召喚魔術として生み出されたが、
多用されることによってこの世界の文化と実相をきわめて大きく変えてしまった。いまでは使用できる者もごく限られており、古の禁術と同じ扱われ方をしている。
しかしこの術は厳密には古の禁術と違い、存在そのものが伝説であったり再現する
第8証言 アリストクラートと少女リドル
それから数日間、ファミリア王宮殿の社交界ではまことしやかな噂が流れた。「『救世の王』は落馬事故で頭を強打したことによってこれまでの記憶を喪失し、
政治的な判断をくだすことが困難となったので、摂政として全権をモーアに譲与し、しばらくは政治の第一線から退くことになった」と。
これは無論シンディが根回しして流したカバーストーリーにすぎなかったが、内容としては宰相派の全面勝利に等しかった。
もとから宰相派なるグループは、先王の平穏な意志を半ば利用する形で
趨勢が一変したのは2年前、温厚すぎるほど平穏な先王が予言を授かり、『救世の王』なる少年を養子とし、その王位を継承させみずからは退くことになってからだ。
お察しするまででもないと思うが、この少年というのこそ当時14歳だったチェンジリングの俺である。そいつは聖なる予言とかいう世界の縛りに従い、滅びかけていたファミリア国の改革に着手しはじめた。
具体的にまずそこからはじめたことは、民から悪辣視され嫌われていた貴族政治を打破する王政を敷くこと……別にこれが謬っているだのとむかしの俺に対して思うことはない。今の俺だってそうするし、誰だってそうする。
ところがばってん、これが宰相モーアとの永久なる確執のはじまりだったわけだ。まさに不倶戴天。それから数年、俺はもうほとんど暗殺される寸前だった(無駄にラップ調)。
この顛末をシンディに聞いてから、俺は
それを平穏に実行に移せたのはひとえにシンディの手回しのお陰である。これで心置きなく月乃捜索の旅に出かけることができる。いまさら王城にあってもやることは何もないので、帰る予定はない。
途中で新たな手掛かりが見つかれば何ヶ月、いや何年だって旅程を延長してもいい。未知なる探検を前にして、心は晴れ上がる空を吹き上がる風のように躍っていた。
まあその風は少しばかり冷たすぎたので、俺は城門の前で小刻みに震えていたわけだが。
見送りにきたスノウはこの気候にもう慣れているのか、その
ちなみにシンディは城門まで見送りには来ないようだった。馬車を手配してくれたのも、食料を積んでくれたのも、たぶんシンディ付きの従者だっただけに、礼のひとつぐらいは改めて言っておきたかったのだが。
「タッタ・ユピ・セスタ・エスタ・アルマ・メルデ――…」
「ホア? エレ・コ・タ・ユピ――?」
スノウは臣下の騎士ランスロットになにやら現地語で話しかけていた。ランスロはそれに返答している。出発の餞の挨拶でもしているのだろうか?
それにしてもだ。こうしてまじまじ眺めてみると、ランスロットはほんとうに華奢な女騎士だ。白き
だが、これで剣の腕前は結構立つらしい。彼女が腰から提げている
これを軽やかに刺しこなすランスロットは平均的な屈強なる兵士のなんと3人分の戦力に相当するという(もろ本人の受け売りだが)。
またランスロットは少しだけなら日本語で疎通することができるので、旅では護衛だけでなく現地語の通訳も任されてもらう予定だ。
俺は後ろにいるスノウに手を振って、帰りを待っていてくれなんて表情を浮かべた。
スノウはハンカチを噛んで「待つのが恋」みたいなポーズをしている。だが俺は興味がないし、大げさに言えば嫌われてもどうとも思わないので好きにして欲しい。
米
さて、もう先頭の馬車は城門の外にいて、あとは笑顔で見送る臣下たちに手を振り返しながら、この良き朝に出立の號令を告げるだけという段になって、突然城の方からひとつの叫び声が上がった。
「待ちなさいよぉ!!」
なんだこの金切り声は? 子供か? ふりさけ見るとやっぱり子供がいた。梳き通った天来なる
可也思いつめた表情を浮かべているんだが、その訳は知る由もない。
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