9番目のQueeneのアノマリー②
やがて口をついて出た。
「なぁ。暫くひとりにしてくれないか。お願いだ。もう頭がどうにかなりそうなんだよ。こちとら月乃ひとりの死だって全然受け入れられないのに、ましてもうひとりの月乃が死んでるなんて……」
「わかりました……失礼します。あの、本当に申し訳ありませんでした……」
シンディはやがて悄然となって部屋から下がっていった。
役者が誰もいなくなって、俺はひとり心を痛めた。月乃がいなくなるはずはない。月乃がどこかへ行ってしまうはずがない……それはあの葬儀の最中に繰り返し捕らわれていた感覚だ。
必死に否定していた。ネックレスを目にしてからこっち、俺はその強い感覚に浸っていた。月乃はまだ何処かで生きている、きっとこちらの世界で元気にファンタジーを満喫しているんだ、そう感じずにはいられなかった。
シンディのもっていたネックレスが遺品でなければ、どんなにか素晴らしいことだろう。いや、信じなければいけない。信じろ、月乃はまだ行方不明なんだ。
きっと月乃はいまも生きていて、記憶を失ったかして知らない街をあてどもなく彷徨っていて、すごく寂しい思いをして過ごしているに違いないんだ。
俺が迎えに来るのを待っているんだ。でも、だったらどうしてもうひとりの俺は、フォークの月乃を見捨てて元の世界に帰るなんて行動を選んだんだ?
月乃がはっきりと死ぬさまをその眼で見ていたからじゃないのか? あいつにだって俺と同じくらいの執着はあるはずだ。その俺が諦めたということは、
つまり………そんな、嘘だ、嘘だ。 嘘だ ! ああああああああああああああああああ
「あーーー―――.......」
ひとりしきり大声を出したら、さっきよりは少し冷静になることができた。それよか、王女たちの中に暗殺犯がいるっていうさっきシンディが言ってたことも問題だろ。
問題だ。問題なんだけど……俺は鏡合わせになった月乃のイメージが頭から離れない。……今の状況は、まるで「猿猴月を取る」という中国の民話みたいだ。
空に浮かぶ月を取ろうとして、必死に手を伸ばす猿のこと。しかもその猿が手に入れようとしていたのは本物の月じゃなくて
手に入らないものを求めるってのは、つまりそういうことだ。ホーリーグレイルの探求。どうやら、そっちにかけるのは茨の道であるらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます