タイムマシンは発明されたが黙殺された
お集まりの記者諸君、どうぞ近くへ寄ってごろうじろ。
これが、私の開発したタイムマシンだ。
何? ただの中古車にしか見えないだと?
そりゃそうだ。中古車を買い取って改造したんだから。
しかし中身は全然違う代物だ。
見なさい、このエンジンルーム。君たちには到底理解出来ない高度な機構が詰まっているだろう。
これはただの電卓ではないですか、だと?
失礼なことを言うんじゃない。これこそ実現不可能といわれていた時間旅行を可能にするメインエンジン、名づけてメビウス機構だ。
反陽子数値を計測し対象者の存在軸をゆらぎ理論に基づいた非定理体へと変換……まあ、説明は後にしよう。とにかくこれから世紀の大実験を行うのだ。
私は1・5億年前の地球へ行き、かつここへ戻ってくる。
記者諸君、見ていてくれたまえ。
さあ、行くぞ!
おお、あそこに見えるのは巨大なシダ植物。
あれは首長竜の群れ。
おっ。翼竜が空にはばたいている。
なんてきれいな空の色だ。こんな澄んだ青は見たことがない。
素晴らしい、大成功だ。
しかし元の場所へ戻れなければ話にならない。
さあ、うまくいくかどうか。頼むぞ、メビウス機構!
……やった、成功したぞ。元の場所もとの時間に戻れた!
どうだ記者諸君どうだどうだ。早速全世界にこの科学の勝利を配信してくれたまえ――何だ。妙な顔をして。
別に何も起きていないじゃありませんか、だと?
車もあなたもずっとここにいたじゃないですか、だと?
そりゃそうだ。私はもとの時間もとの場所に戻ってきたのだから、君たちにはずっとここにいたように見えて当たり前だ。
というかむしろ、そうでなくてはいかんじゃないかね。もといた時間、もといた場所を離れて出現したら、非定理体と化したままになるのだよ。
具体的にどうなるんですかって?
そりゃあ、時間と空間の中から存在が消滅するなあ。
おい、なんだね君たちにやにや笑いおって。
とても信じられないお話ですってなんだ。
過去へ行ったなら何か証拠となるものを持って帰ってきてくださいよ、だと?
馬鹿な、そんなこと出来るものか。
君たちだって知っているだろう、過去にわずかでも干渉したら、現在が変わってしまう恐れがあるんだ。もとの場所、時間が存在しなくなるかもしれないんだ。私の存在のみならず君たちの存在も、いや人類自体が最初からなかったことになるやもしれんのだぞ。そうなったらパラドクス理論に従って、過去に移動している私も消滅してしまうのだぞ。
ああ、そうだ。過去に行っても何も持ち帰れない。見るだけだ。見て帰るだけ。元の時間もとの場所に。
未来?
あのねえ、タイムマシンで未来へ行くことなんか最初から出来ないよ。未来というのはまだ存在していない時間と空間のことなんだから。いくら私が天才でも、頭の中で想像するという以外、そこへ行く方法を見出せないね。
あ、こら、どこへ行くんだ諸君。
帰るだと。
科学の勝利の配信はどうするんだ。
全部あんたの妄想でしょうだと。
そんなわけあるかっ! 私は確かに今時間旅行をしてきたんだっ!
百歩譲ってあなたのいうことが本当なら、時間移動なんてつまらないものですね、世間に伝える価値もないですよ。だとう。
よくもそんな……おいっ、おーい……行っちまった。
なんだ畜生。もののわからん奴らめ。
私はなあ、本当に時間旅行をしてきたんだ、今、この目で見てきたんだ十万年前の地球をっ。
なんだよ……畜生……信じてくれよ。
タイムマシンは発明されたんだ。今、本当に!
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