第4話 相手は誰でも良かった
私の夜勤は9時過ぎに終わった。
自宅まで徒歩15分くらいだが体力の消耗以外にも悩み事もあったため、私はいつもよりふらふらと歩いていた。
自宅マンションのエントランスに入った。
「先日お見えになった塚本由紀様が今日もお待ちです。」
塚本先生も当直で疲れているはず。
それに、普段は私の自宅には来ない。
「お疲れ様!」
「先生お疲れ様です。ところで、先生は何故私の自宅へ?」
先生は目力が強い。
ギョロリと私の足から顔にかけて眺めた。
「上書きよ。」
「何のですか?」
「あなたを汚すものを放ってはおかないつもりよ。」
ふと、小川係長の笑顔と真剣な顔が頭をよぎる。
「先生、今日はもう自宅へ帰ってください。」
「タクシーを呼ぶから、温泉と岩盤浴、寝床が一緒にある場所へ行きましょう。」
なし崩しで私は頷くしかなかった。
スーパー銭湯だが源泉かけ流しもしくは加水しており、高濃度炭酸泉や寝湯などたくさんの種類の露天風呂があった。
「ん〜!気持ち良いね。」
「ところで、先生は私のどこが良いんですか?」
何の気なしに聞いてみた。
先生からの返答に驚く。
「あなたでなくても誰でも良いのよ。私がコントロールしやすいのがあなただったと言うだけ。」
私でなくとも、誰でも良い。これは衝撃の発言だった。私はショックで源泉かけ流しの岩風呂から出られない。
「何泣いてるのよ…。子供みたい。湯あたりするわよ。ほら出て。」
先生は手を差し出したが、私は手を出さなかった。
「もう放っておいてください。」
先生が目をギョロっとさせて私を見る。
「あの主任ね。入れ知恵をされたのね。」
先生の視線に私は負ける。蛇に睨まれた蛙だ。
私は別に涙もろいわけでもなく、気が小さいわけでもない。先生の前だとそういう事が起きる。そして、どんな事があっても先生を求めてしまう。とても苦しい。この苦しさから解放されたい。
同僚から元気がないと言われた。 地に足がついていないと。
自分では気がつかない。
私は小川係長にメールをした。すると、昼食の時に話をしてくれると。
いつもは食堂で食べるのだが、今日はお弁当を買ってきて屋上で食べる事になった。
「何があったんですか?」
小川係長が声をかけてくれる。
私はスーパー銭湯での出来事を話した。
「かなり山崎さんは追い込まれているね。共依存しているのに誰でも良いというのは酷い言い方で、物凄い攻撃力だよ。しばらくは、僕の周りにいた方が安全じゃないかな。」
「ですが、それでは小川係長が…。」
「僕なら問題ないよ。変な事はしないし。約束するよ。」
以降、送り迎え・食事の他、あらゆる面での先生との接触を断ち切った。自宅マンションのエントランスでもコンシェルジュに先生の出禁をお願いした。
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