第2話 塚本先生の真意
「先生、どうしてここに?」
先生は不敵な笑みを浮かべた。
「涙で可愛いお顔がぐしゃぐしゃじゃない。」
先生のペースに乗ってはいけない。理性がそう判断した。
「先生とは色々と話をしたいので、喫茶店へ行きましょう」
「いや、山崎さんは化粧がとれかかっているのでご自宅の方が良いんじゃない?」
先生はエレベーターの方を向いた。
「私が嫌なんです!先生を自宅へ案内するのが!顔は洗ってくるので、先生はここにいてください」
「泣いたり怒ったり忙しいわね。わかったわよ」
私はエレベーターに乗り、小走りになってドアを開けて顔を洗った。
(怒ったり泣いたりしているのは、誰のせいだと思って…。)
私は化粧を落としてロビーへ戻り、先生と一緒に近くの喫茶店へ向かった。
ドアを開けるとカランコロンと音がする。
先生と私は奥の席へ座った。
「山崎さん、話ってなに?」
「私に告白してくれた野村先生を横から取ったり。私のバッグに盗聴器をつけたり。一体何なのですか?」
また、先生は不敵な笑みを浮かべた。
「あなたは野村先生を取られたのが悔しかったの?それとも、私が離れていった事が苦しかったの?」
私は目を見開いた。何を言っているんだ先生は?私をからかっているのか?
「小川係長も寝取っちゃおうかしら。でも、そんな事をしたらあなたの心は壊れてしまうかもね。」
私は悔しくて嫉妬の炎が渦巻いて。
目から大粒の涙が頬を伝って流れ落ちた。それを必死になってタオルハンカチで拭いた。
「あはは、冗談よ」
「先生、せめて人と付き合う時には連絡をください。いきなりシャットアウトされると、何がどうしてかわからなくなってしまって。」
先生は不思議そうな顔をした。
「何で?山崎さんと私とはただの他人でしょ?」
今日の私は涙腺が緩い。
先生の一言一言が私を苦しませる。
このまま話していても良い事はない。
「先生、私はもう帰ります。意味のない会話はしたくないので。」
私は自分の会計を済ませた。
外へ出ると寒い。
白い息が出る。夜ももう遅い。早く帰らないと。
すると背後から、誰かがふわっと私を抱きしめる。良い香りがする。
私を抱きしめたのは先生だった。
「何してるんですか?」
「山崎さんの心が壊れそうだったから、愛を供給しているの。」
「離してください、先生。離してってば!!」
先生は私から体を離した。
「私の事、嫌いになった?」
返事をする前に…。寒い。手がかじかむ。私の身体はガクガク震えた。
「私の家へおいで。暖かいよ」
先生は自分の車を出した。
私は吸い込まれるように先生の家へ行った。
温かいココアが用意された。そして、先生がルームウェアを貸してくれた。
「ありがとうございます」
体がぽかぽかする。
「私はね、ずっとあなたに振り向いて欲しかったのよ。温泉旅行でもおうち時間でもそういう気配なしで、ずっと我慢していたわ。だから、あなたの知らないところでよその人と体の関係を持っていたのよ。でも、ただ虚しいだけだった。」
先生は私の頭を撫でた。
「色々と悪かったね。ところで、もしよければ私と元の関係に戻らない?」
私は頷いた。
私は先生と一緒にいないと幸せになれないのだろう。
先生は私の頬に両手を当てて、私の目をじっと見た。
「温泉旅行やおうち時間でも、抱きしめてもいい?」
私は頷いた。先生と私がそれで幸せになれるなら。
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