第28話 大地の魔法で薬草栽培
「大地の……力ですか?」
ジュリアンがうなずく。
「これはちょうど先日、北西部で隣国から流れてきた病に効く薬草です。この国では気候の関係なのかほとんど生えていないので、苗を取り寄せたのですが、育ちが遅くてダメになるかと思われていたのですが……。どうも、大地の力が通常よりも多く必要な薬草のようで」
指先でジュリアンが触れたのは、うす桃色の茎と葉の、色の珍しい薬草だった。
次に触ってみせたのは、隣の青い小花を咲かせた薬草だ。
「こちらは山岳地に生える高山植物の一つなのですが、気温を調節してもなかなか芽吹かず、この辺境地も比較的冷涼なので試し始めていた物です。芽吹いたものの、なかなか大きくならずにいたのですが……。おそらくこれが生える山というのも、大地の力が強い場所だったのでしょう」
そして一拍置いて、彼は結論を口にした。
「おそらくあなたの魔法は、大地の力を与えるものではないでしょうか?」
「草を生やすのではなく?」
ジュリアンがうなずく。
「すべてにというより、おそらくは植物に足りない大地の力を補充している感じなのかもしれません」
続いてそう思った理由を話してくれる。
「最初に成長させた薬草が、力強くあちこちに生えるものの、周囲の土の栄養を奪う物だったのです。特別必要ではない薬草なので、引き抜かれることが多いのですが……以前私は、あの薬草は大地の力を多く必要としているのではないか、という論文を見たことがありました。雑草もまた、大地の力をため込む性質があります。なので、セリナの魔法を我先にと吸収し、繁茂できたのではないでしょうか。結果として、今までは雑草ばかりがあなたの漏れた魔法を引き寄せてしまい、他の植物に影響が及ばなかったのではないかと」
「そういうことだったのですか……」
まさか、雑草にそんな特徴があったとは。
「では、大地の力を特別必要とする薬草なら、私の魔法がお役に立てるということでしょうか?」
「はい。特に北西の国からの病は、紛争の原因にもなっています。あちらの国に薬を渡す代わりに……と交渉を持ち掛ければ、おそらく紛争をも止められるでしょう。あなたの魔法で、沢山の人が助かるのです」
助かる、と言われた私は、感動で目がうるんでくる。
ジュリアンがびっくりした表情になる。
「え、何か変なことを言いましたか?」
「違うんです、こんな風に、素直に感謝してもらえたことがなかったから……」
自分が誇らしくなるような技術を手に入れられたことが嬉しい。
だから握りこぶしをつくり、ジュリアンに宣言した。
「私に、成長させられる薬草をなんでもいいですから栽培させてください!」
ジュリアンはそんな私を目を細めて見て、うなずいてくれたのだった。
※※※
その後、家から少し離れた森の中に、ジュリアンが薬草園を作ってくれた。
オリヴェイル先生に事情を話した結果、北西の国ではやっているうえ、この国にも流行しつつあった病に効く薬草を、急遽栽培することになったのだ。
「いいこと思いついたんだよジュリアン! だいたい察してくれると思うけど、どういう形にせよ君にとってもセリナ嬢にとってもいいことになると思うよ!」
そんな言葉とともに、土を操る魔法などが得意な人を呼んで整地をし、すぐに苗を植えられる状態にしてくれたのだ。
早速苗を植えて、それを増やす。
そして数本を残して成長したものを刈り取った。
最初の収穫は嬉しかった。
しかし問題が少しあって、大地の力を吸い取る量がすごいのか、薬草は同じ場所に生えてくれなくなったのだ。
迂回するように、広がって増えていく薬草の姿を見て、さすがにこれは対策が必要だとジュリアンと話し合った。
「大地の力というのは、補充できるものなのでしょうか?」
たぶんそのせいで、同じ場所に生えなくなってしまうのだろうと予測したのだ。
しかし問題はわりとすぐに解決した。
数日悩み、植物の育成について資料をあたり、肥料をやってみようとしたのが一週間後。
その頃には、大地の力が復活したのか、以前収穫した場所にもちゃんと生えてくれたのだ。
「竜が休む場所に決めたぐらいだから、きっと大地の力が強い場所なのでしょう、ここは」
少し試行錯誤する部分はあったものの、こうしてすぐに解決。
薬草を定期的に大量に茂らせることができた。
むしろ、それを刈り取るのはジュリアンと私の二人だけでは不可能だろうと、これまたオリヴェイル先生が人を呼んで、その薬草を刈り取って回収してくれたりもしている。
そうして薬草は、無事魔術師協会の手によって、必要な場所へ運ばれることになった。
どこまで流行したのか把握しにくかったこともあり、国の北西部にある教会に、病気の症状が出た人に与えてくれと、無償提供をしたらしい。
もちろん教会の司祭たちはびっくりだ。
「なんと、この貴重な薬草を無料で!?」
教会は、魔術師協会に感謝し、この薬草を育てた魔術師の名前を知りたがった。
「聖人として列聖いたしましょう!」
しかし魔術師協会長は、私が名前を知られるのは困るというのを理解していたので、やんわりと『極度に人見知りで、ずっと閉じこもっていた彼が、ようやくこの仕事に打ち込み始めたばかりなのです。彼のことを思うならそっとしておいてやってください』と言い訳したらしい。
人前に立つようなことになれば、薬草が育てられなくなるかもしれない、とも脅した結果、教会は私を列聖する話を辞めてくれたそうだ。
とにかくそうして、教会から市民へ薬草が渡り、病が治っていく。
同時進行で、教会経由で薬草をまとまった量預かった国王は、北西の国と交渉。
病に効く薬草は、あちらの国でもどこででも育てられるわけでもなく、たいへん高価なものだった。
それを大量に渡すと言われて、紛争に関して停戦し、この国に有利な形での幕引きができるようになったらしい。
ジュリアンは、これでますます国王が私に対して大きな顔ができなくなっただろうと喜んでいた。
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