第14話 あなたはの素性は
オリヴェイルがうんうんとうなずく。
「地上の権力的に、私では弱すぎますし。年齢的にも離れ過ぎて、説明がつきません。そしてジュリアンなら、陛下を脅すこともできますから」
(脅す?)
私にはよくわからない話が出て来る。
ジュリアンが脅せるとは……国王にとって、彼は重要な人物なのか、それとも相当な秘密を握られているの?
「陛下は王子殿下にも王妃にも甘いでしょうが、ジュリアンが関わるなら、精一杯抗ってくれるでしょう。隠居をしているものの、王太后陛下もあなたには甘い」
何か複雑な事情がありそうだ。
そう思っていたら、ジュリアンが自分から教えてくれた。
「不思議そうにするのも無理はありません。幼少期から魔術師協会にいるので、あまり顔は知られていませんが、一応ローダシオン侯爵の位を持っているのです」
私は驚きのあまり、目を見開いてしまう。
ジュリアンという上の名前だけではわからなかった。そうか、彼は……。
「陛下の姉君の……ご子息でしたか」
「そうです」
ジュリアン・レイ・グレイル・ローダシオン。
彼は王家の血縁者だ。
現在の国王アンドラーシュには姉がいた。
隣の鉱山を持つ小国に嫁いで子供が生まれたものの、国が侵略され、父である王子は惨殺。嫁いだ王姉は子供とともに行方不明。
生死は絶望的と言われていたけど、ジュリアンは発見され、保護された。
母親は逃げる途中に亡くなり、一人放浪していたジュリアンが見つかったのは、本当に幸運だったと聞いている。
王太后と国王アンドラーシュは、戦の直前に幼い彼に会っていたため、顔をよく知っていたので、疑う部分など全くなく、彼を認めた。
会ってから見つけるまでの間、数か月しか経っていなかったのが幸いだったようだ。
父母と国を亡くした彼は、ローダシオン侯爵位と多額の年金を約束され、ひっそり暮らしていると聞いていたけど。
(まさか魔術師になっているとは)
私は、彼との結婚なら国王も王太后も無理やり引き裂けない、とオリヴェイルが判断した理由を察した。
王太后は、王姉の忘れ形見をいつも気にして、年に何度も会いに行っていると耳にしたことがある。王太后なら、ジュリアンを誰よりもひいきするだろう。
姉の子供をすぐ保護できなかった後悔がある国王アンドラーシュも、彼には甘いに違いない。
おおっぴらに私が結婚するのならまだしも、誰にも知られずにひっそりとジュリアンの伴侶になるのなら、騒ぎにはならないからと口を閉ざすことを選ぶ可能性は高い。
「ご納得いただけたようですね?」
ジュリアンが微笑む。
「はい、その……お世話になります」
彼以上の結婚相手はいない。
私が厄介ごとの種を持ち込むことになるので、全く問題が起きないわけもないだろうけど、警戒するべきはオルフェ王子だけ、という状況になるのは間違いない。
オルフェ王子は……人格的にも問題がありすぎて、彼の生まれだけで引いてくれるとは思えないので。
(だけど、国王もすすんで王子に教えたりはしないはず。もし発覚しても、あの王子ならジュリアンがやすやすと対処してくれそう)
その後は、この砦だと私まで住むのには不便すぎるので、私は村に一時的に居住することが決まった。
後日、砦の中に居住場所を作り、ここで暮らせるようにしてくれるらしい。
「では、お疲れでしょうから、家に案内しましょう」
ジュリアンの言葉にうなずき、歩こうとした。
でも考え事をしていたせいか、足がもつれてつまずく。
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