第94話 奢られたがり

 開店前。

 待機席で待機していると、新人嬢から相談を受けた。

「同伴(買い物や食事などをして客と嬢がいっしょに入店すること)って私がお金出したほうがいいんですか?」 

 飲食店の支払いのことだ。

 彼女は、そこそこの年齢。

 腰かけだが水商売の経験もある。

『なんたる愚問か!』

と思う。

「指名なんだから客が出すよね(笑)」

「それが折半ってニュアンスなんです」

「はぁ!?なんの冗談(笑)。『折半なら同伴できません』ってハッキリ言ったら?足が出るんじゃ同伴する意味ないでしょう」

「そう……ですよね」

 キャバ嬢がビジネスである以上、客からの搾取には敏感であったほうがいい。

 なんとしてでも、売上表の棒グラフを伸ばしたがる負けずぎらいな嬢は別だが。


 私は客質をふるいにかけていたが、恵まれてもいた。

 年下君の誕生日を、こっそり祝おうとしたときでさえ

「女性に奢らせるほど落ちぶれてません!」

とキャッシャーまで追いかけてこられ

「僕が落ちぶれたら面倒見てください」

と笑われた。

 そのあとで、彼は

「正直(奢るのは)優越感もあるんです」

とも言った。

 それは、キャバクラの指名嬢という限定的な価値がもたらす自然な流れだった。

 なので、いったん仕事を離れて一般人に戻れば、飲食代は折半でいい。

 仕事ではなく、私事で好意のある人と集うのだから、支払いはこだわらない。

 なので、昨今の奢られたがりが不思議でならないのだ。

 玄人でもない素人が奢られて当然!と、ほざくのが。

 君らに玄人のホスピタリティーがあるか!?

 化粧し、髪を整え、いい服をまとい、下着を新調し……って、それがなんだ???

 自己満足を相手の要求と誤認しているだけだろーよ。

 己のコストが相手のコストとは限らない。

 相手にとって、己が“有価値”だと大前提で話すので、浅見や厚かましさが露呈してしまう。

 キャバ嬢の指名に値するものを得たか?

 相手から支持されているか?

 なんの愛着もないに女に奢りたがる男性がいると思うか?

 このご時世、虚栄心で奢る男性は減る一方だ。

 なんなら、明言してみるがいい。

「奢りじゃなきゃつき合えないな」

と。

 相手がグズったり別の要求をしてくるならら“無価値”判定だ。

 身のほど知らずということだ。

 


 


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