第91話 朝食海苔
薄着の季節になると気になるムダ毛。
ムダ毛はムダ毛か?
外的刺激から皮膚を保護する大切な役割を担ってくれているのではないか?
そんな、そもそも論を失念してしまうほど、私には現代的美意識のバイアスがかかっている。
男性の体毛はさほど気にならないが、女性の体毛(とりわけ、玄人である嬢の体毛)はエチケット違反にすら思え、己の体毛はしごく醜く感じてしまう。
それでも、思うところあって、永久脱毛は避けてきた。
今でも、国産の高性能な脱毛器は手放せない(※ただ脱毛するだけの放っておけば生えてくるやつ)。
「脇は絶対やめたほうがいいよ!」
だいぶ前に永久脱毛した嬢は力説してまわっていた。
「ずっと変な臭いがするの!大失敗だった!」
彼女がニードル脱毛の施術を受けた都心のエステティックサロンは潰れ、店長・スタッフもろとも行方知れずになった。
自由診療は慎重にクリニック(医療機関)を選別せねばならないと、考えさせられる話だった。
「一生、朝食海苔ですよ」
また、別の嬢は嘆いていた。
施術を受けた当時、とうにハイレグの流行は去っていたが、何を血迷ったか?必要以上に下の毛を“整えて”しまったそうだ。
「若気のいたりです」
美しい横顔が歪む。
彼女と手合わせした殿方らの
『???』
な様子が目に浮かんだ。
小銭を持つと外見を弄りたがる嬢は少なくない。
永久脱毛や整形は最たる行為だ。
痛みに弱い私はピアスホールさえ開けられない珍種だ。
整形においては、何より、人工物に近づく精神的苦痛が外見的コンプレックスに勝っていた。
外見を弄る代用かどうかわからないが、旅行用の○スポートサックを買いあさった。
ハイブランドの誇示消費は、とうに卒業していた。
純粋な?コレクターで、毎月、新柄が発売されるのが楽しみだった。
だが、その行為は、心理学(の一説)によると
『ここから脱出したい!』
『新天地を目指したい!』
と言う、深層心理だそうな。
確かに。
当時は不可抗力なジェットコースターのような人生に疲れていた。
そうして、癒しを求めた旅先で朝食海苔の袋を裂くたび、嬢の美しい横顔を思いだしたのだった。
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