第90話 玄米茶

 キャバクラに、お盆休みはない。

 同窓会組やレジャー上京組の二次会・三次会に重宝されるからだ。

 冷やかしの一見客が増すのも、この時期。

 在京のぼっち君(指名客)なら通年来店だ。

 遊び金欲しさからではなく、生計のために働いている熟キャバ嬢は嬢で、出勤要請を拒まない。

 だが、ふだんの客層とは毛色が異なり、次回につながる成果も上がらないので、私は指名客の来店予定がある日のみ出勤していた。


 にしても、ニッパチ閑散は否めない。

 その夜も終電を待たず、親しい嬢と帰路についた。

 残念ながら空席はない。

 隣り合って吊り皮につかまった。

 指名客の前後についた冷やかしの一見客の愚痴をこぼしていると、唐突に彼女がつぶやいた。

「○○(私の源氏名)さん。玄米茶……」

「ん?」

「玄米茶好き?」

「玄米茶!?なんで!?」

「私はあまり飲まないんだけど。今、口の中が玄米茶の味になったから……」

 私は度肝を抜かれた。

 その二日前、コンビニで1リットルの紙パックの玄米茶を見とめたからだ。

 ECサイトでダース買いしている2リットルのペットボトルの緑茶を切らせてしまい、緊急でコンビニに駆けこむと、1リットルの紙パックの緑茶の隣りに玄米茶が並んでいた。

『珍しいな……』

と思いつつも緑茶を手に取った。

 なので、彼女のつぶやきにハッ!とした。

 私は失念していたのだ。

「お婆ちゃんが好きだった!二日前コンビニで見た!その日誕生日だった!」

 覚えていたのは誕生日まで。

 無論、彼女は祖母の好みも誕生日も知らない。

「飲みたがってるんだと思う。代わりに飲んであげて」

 祖母が故人だと伝える前に、彼女は当然のように言った。

「そうだったんだね!買って帰る!」

 それから毎年、八月になると仏壇に玄米茶を供えている。


 彼女はいわゆる“スピリチュアリスト”だ。

 宇宙が好きで音叉が好きで半貴石が好きだ。

 だが、奇抜さや自己顕示欲や承認欲求は微塵も感じさせない。

 心霊体験を誇示されたなら、私は

『注目が欲しいの?』

『個人的な脳内作用でしょ!』

『集団ヒステリーでしょ!』

などと、突きはなすだろう。

 心霊現象の写真や映像や音声は、科学や物理学の不完全さの証明ぐらいに思っている。

 だが、その一方で、眼前の人の想念を読みとる能力がある人がいるのではないか?と疑ってもいる。

 彼女は祖母の想念ではなく、私がいだく祖母への想念(※深層心理を含む)を読みとったのではないか?と。

 言わば、テレパシーのような?


 余談だが、想念読みとり系の熟キャバ嬢が皆、巨乳(天然物)なのは偶然か?

 ぽっちゃりさんの

「ほかの人の分まで食べさせられちゃうんだよね」

には、さすがに賛同できなかった(笑)。


 




 








 





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