第78話 捨てる女

「○○(私の源氏名)さーん!」

 たいして仲もよくない嬢に手招きされた。

「プレゼントがあるんです!ちょっと荷物になっちゃうんですけど……」

 古びた紙の手提げ袋を渡された。

 ナフタリン臭い。

「何?」

 上から覗く、私。

「プレゼントです!」

“プレゼント”の中身が剥きだしだ。

 ひと昔前のシールやら、錆びたスプリングノートやら、クロスステッチ一式やら……統一感がない。

『わしにフリーマーケットでもさせる気け?』

 額装(クロスステッチ用)のガラス板が、やけに重い。

「前にリリアンの話されてたので。好きかな?と思って……」

 記憶力はいいのだろうが、要か不要か、持参する前に訊いてほしかった。

「あー。そうね。嫌いじゃないね」

「使ってください!」

「あー。ありがとう。ノート?ノートは何?」

「片づけてたら出てきたんで」

 どうやら、断捨離の真っ最中らしい。

 そちらさんの都合だった。

 だが、何せ“プレゼント”らしいので、せっかくだけど……と断れる雰囲気でもない。

「あー。そうなんだ。ありがとう」

と受けとったものの、困った。

 全部、要らない(笑)。

 放置するわけにはいかないので、いったん持ちかえり、不燃ごみの日に出す手間をへた。

 私にしてみれば、断捨離の横流しをさせられた気分だった。


「ホットサンドメーカー!要りませんか!?」

 翌日も断捨離ちゃんに訊かれた。

「キッチンの下の棚片づけてたら出てきたんです」

「要らない(笑)。持ってるから大丈夫。ほかの人に譲って」

「そうですか……。じゃあ捨てちゃいます!」

 横流しは私限定らしい。


「クロスステッチ!やってくれてますか!?」

 しばらくして、断捨離ちゃんに訊かれた。

「あー。やってるよー。ありがとねー」

 こっそり捨ててしまったので、うそぶくしかない。

「見せてください!」

と催促されないのが幸いだった。




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