第72話 パイコレ
いちゃいちゃ営業で売っている嬢の指名客の連れにつく。
めったにないが、そんな貧乏くじを引く夜もある。
年のころは五十代半ば。
接待を受ける側のオッサンだ。
自腹では飲まないし、飲める余裕もない。
地方リーマンだからといって差別するつもりはないが、下品で無礼なやからが多いのは事実だ。
オッサンもご多分に漏れなかった。
つきしな、頼んでもいないのに、全国津々浦々の“おっぱいの谷間コレクション”を見せられた。
自慢げにスワイプする、オッサン。
安易に撮影許可してしまう、程度の低いキャバクラで接待を受けているらしい。
たいした先方ではないのだ。
「あー。撮らせちゃう感じの子たちね」
私は冷笑しながら牽制した。
だが、愚鈍なオッサンは、私に唐突にスマホのカメラを向けた。
「駄目ですよー。肖像権侵害ですよー」
私は大腿に乗せていたグラス拭き用タオルハンカチを素早く胸元にあて、顔を横に背ける。
しつこく狙いさだめる、オッサン。
しばらく二人で固まっていると、ボーイが飛んできた。
「お客さーん。女の子嫌がってるんで。ご遠慮ください」
オッサンと私のあいだに割って入る。
「なんだよ!ケチ臭いな!これぐらいサービスしろよ!」
『んぁ?これぐらい、だと!?女性蔑視も時代錯誤もはなはだしーんだよ!!!』
私は心の中でオッサンをぶん殴る。
「すみませーん。ウチ“そういうの”ヤッてないんで」
ボーイが苦笑する。
「なんだよ!ほかの店は撮らせてくれたぞ!なんだよ!なんなんだよ!」
だだっ子と化したオッサンは席を立つと、そのまま店を出ていってしまった。
「ありがとう」
私は助けてくれたボーイに礼を言った。
「しょーもないっすわ」
オッサンの飲みさしのグラスをさっさとかたづけながら、ボーイがまた、苦笑した。
「どうしたの?」
「何かあったの?」
隣でいちゃついていた嬢と指名客が異変に気づいた。
「胸の写真が撮れないから拗ねて帰っちゃった」
私は、ままごとのような事実を告げた。
「「えー!」」
と顔を見あわせたが、すぐに二人の世界に戻っていった。
フォローされない先方、って?
相当、舐められている(笑)。
しかし、下品や無礼を謝れないオッサンほど醜い生き物はない。
生息数、多すぎじゃない?
こちらが婉曲表現してやってるうちに、どさくさに紛れて謝っておくのが賢明じゃない?
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