第59話 懲りない女

『今〇〇(私の源氏名)の店の子がきてるんだけど?』

 勤務中に以前在籍していた店の嬢からLINEがあった。

 彼女とはプライベートで遊びにいく仲だ。

 無防備な体入(体験入店)が現勤務先をぺらぺら喋ってしまったらしい。

 無防備ちゃんは四十代で熟キャバデビューした素人で、保証期間(店により、一ヶ月程度)にもかかわらず、出勤調整(出勤時間や出勤日数を削減される)された問題児だ。

 彼女は出勤日を週5から週1に激減されたうえ、閑散日の出勤を余儀なくされたので、勤務時間は3時間ほど。

 店長が見きりをつけたのだ。 

『そいつ〇リマンで干された奴。素人の“荒らし”だから気をつけて!』

『りょ!店長に伝える!』


 終業して新着のLINEを開いた。

『お疲れー。〇リマン不採用になったよ。ふつーに働いてたけど(笑)。ウチの店には必要ありません!』

 裏事情をそれと心得てぺらぺら喋らなければ、私にチクられず採用されたかも?しれないのに。

 もっとも、営業中でさえ

「荷物まとめて帰って!」

とクビになる嬢を何人も見てきた、厳しい老舗ではあったが……。

 保証期間を過ぎた〇リマンは跡形なく消えた。


 キャバクラでは日々クビになる嬢があとを絶たない。

 私の感覚では請負業務不履行(※そもそも、業務委託契約は結んでいないが……)により干されるのであって、不当解雇(※そもそも、雇用契約は結んでいないが……)に相当する事案はなかったように思う。

 ホステスは労働基準法の“内か外か”が曖昧なため、人により感覚が違うのだろう。

 個人的には、

・ヘアメイクしない

・売りあげない

・話さない

・笑わない(笑うふりができない)

・飲まない(飲むふりができない)

・歌わない

・協調性がない

・テーブルワークしない

・ヘルプ(指名嬢が同伴((買い物や食事などをして客と嬢がいっしょに入店すること))や指名被りの際に手伝いをする嬢)が務まらない。

・入店(面接通過)時より肥える

などは、請負業務不履行だと思うし、

・昼職の営業をする

・不潔

・寝る

・脱ぐ

・泣く

・叫ぶ

・暴れる

・〇リマン

・ほかの嬢の客に色目を使う

・ほかの嬢の客と連絡を取る

・ほかの嬢の客を寝とる

・同僚や店に対して暴言を吐く

・同僚や店に対して虚言を吹く

・同僚や店の内情を漏洩する

などは、(威力)業務妨害だと思う。

 被害妄想が募り、SNSでないことないこと連投されても、店が嬢を訴えることはない。

 割に合わないし、嬢を裁くほどホワイトでもないからだ。

 なので、無罪放免となった嬢は店から店を転々とする。

「あの子。またクビになったらしいよ」

「あー。だろうね(笑)」

 熟キャバ業界は狭く、風の便りは早い。

 働き口は直につきる。






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