第57話 スルースキル+α

「賢いねー!」

と言われた次の席で

「バカなの?」

と言われる。

「真面目かよ!」

と言われた次の席で

「遊んでるでしょー?」

と言われる。

「優しいんだね……」

と言われた次の席で

「冷たい女……」

と言われる。

「色っぽいね」

と言われた次の席で

「男っぽいね」

と言われる。

「色白さんだね」

と言われた次の席で

「顔色悪いな!」

と言われる。

「痩せすぎだよ!」

と言われた次の席で

「体格いいなぁ!」

と言われる。

「ひとまわり若く見えるよ」

と言われた次の席で

「普通のオバサンだね」

と言われる。

「お嬢様がきたよ!」

と言われた次の席で

「スナックのママみたいだね」

と言われる。

 朝令暮改もなんのその。

 たった一晩、数時間のうちに、通りすがりのフリー客に言われる。

 客という立場を利用し、自分のことは棚に上げ、彼らはきわめて個人的な基準をぶつけてくる。

 ほんの、軽口だ。

 そこに思慮や観察眼はない。

 なので、一喜一憂する価値もない。

 何を言われようが

「ありがとうございます」

と微笑みかえせば、誉めた客は誉めつづけ、けなした客は固まる。

 たとえ誉められたとて、承認欲求を消費するにふさわしい相手ではない。

 放っておけばいい。

 流れ作業に徹すればいい。


 それでも、女性蔑視や職業蔑視につながる発言には黙っていられなかった。

「失礼だな!」

「えっ!言っちゃ駄目なの?」

 初めてたしなめられたのか?小僧(と言っても四十代)がハッ!として訊く。

「駄目だね。慎んで」

「……」

 素直に謝れなくても、無知の知で引きさがれるなら可愛いほうだった。

 たしなめられると、薄ら笑いで頷くオッサンや、反論に転じるオッサンがいた。

 こちらの尊厳を踏みにじっておきながら、己の自尊心は死守したいらしい。

 薄ら笑いで頷くオッサンは看過したが、反論に転じるオッサンには応戦した。

『謝れねーなら黙っとけ!セコいんだよ!』

 鬼、発動。

 その卑しい思考について、オッサンが閉口するまで、懇切丁寧に説明して差しあげた。

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