第55話「風俗っす!」

 異世界へ導く、細い階段と白亜。

 重厚な扉を開け、角を曲がる演出をしたあと、ひらけた空間を見せる。

 ロココ調の戸棚には高級な洋酒。

 天井には幾重の○ワロフスキーのシャンデリア。

 テーブルは使いまわしだが(※キャバクラは新規オープンをくり返すが、改装して改名するだけで古参の従業員や嬢も多い)、張りかえたソファーの生地は上等だ。

 それらのコストが反映してか?熟キャバにしては客単価の高い店だった。

 店長は言う。

「二万円以下のドレスは着ないでください」

 だが、自腹も自腹で店の補助はない。

 あとあと経費で落とすとて、高価なドレスは刺繍やビーズやスパンコールなどの事情で重く、身体的負担になった。


 ちょっとした高級店だったからか?

 珍しく新進気鋭のボーイを見つけた。

 背筋は伸びて清潔感があり、絶妙な歩幅と速度でフロアを横切っていく。

 トレンチの扱いがうまく、酒を頼んでも、

中身をこぼされたりグラスを倒されたりする懸念がない。

 お陰で接客に集中できた。

 コースターに新たなドリンクを設え、空いたグラスを回収し(※客のじゃまにならないように嬢が自分側によけておく)、灰皿やアイスペールを交換する動作は、実にスムースで美しかった。

 その間、客に話しかけられれば、愛想よく答える余裕もある。

 ふた言み言交わして一礼する。

 去り際も心得ていた。


 興味があったので訊いてみた。

「なんか、すごく上手だよね」

「あざっす!」

「前職、ホテルマンだった?」

「いや、ぜんぜん!風俗っす!」

「えー!そうなの?」

「はい!風俗、接客厳しいんっすよ!」

 なんとも、すがすがしかった。

 当時、ほんの十九歳。

 今ごろ、どこかで大物になっているに違いない……。

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