第47話 飢える女

 小柄で、ちょこまかしている。

 実年齢より若いというより幼く見えるが、皺の深さは一丁前だ。

 ブスではないが、容姿に対して過度の自信がある身のほど知らずなので、同僚女性から嫌われている。

 それを同僚女性の嫉妬心だと他責しているので、たちが悪い。

 軽蔑を嫉妬と履きちがえる厚かましい女は同性から嫌われる。

 なので、彼女は体を提供すれば味方になってくれる異性に依存する。

「私すっごいんだよぅ!」

 御多分に漏れず、アニメ声だ。

「今も住んでるよぅ!」

 実家は○区(セレブリティ居住区)らしいが、礼節知らずで所作も汚い。

「パパの仕事の都合だったんだよぅ!」

 海外生活が長かったらしいが、周囲の人間が語学力を試そうとすると

「もぅ忘れちゃった!」

と一文も話さない。

「○の内だよぅ!」

 昼職はどこぞの秘書をしているらしいが、愛人手当を秘書経費で落とされているのか?フリフリの私服で出勤してくる。

 絵に描いたような“紛いもの”だ。


 私が指名客と歓談していると、こちらの席に弧を描くように近づき、フロアを横切っていく。

 尻をフリフリ……テーブルを撫でんばかりの勢いだ。

「今の何?(笑)」

 指名客と私は顔を見あわせた。

 ほかの指名客にも興味津々らしく

「(私の死角の)背後から(私の指名客を)観てました」

と黒服(男性従業員。黒いスーツを着用している)から報告がある。

「あの子すごい観てるんだけど!」

と指名客から直訴されたこともあった。

『そんなに欲しいならどうぞ』

と思う。

 上質な客と時事放談する会話力があるなら、彼らのニーズに私以上に応えられるなら、いつでも喜んでくれてやる。

 接客テクニックのなさを、今そこにあるやすい色気だけでカバーできると思ってるのが単細胞なのだ。


 そうこうするうちに、枕営業嬢の太客(大枚を叩く指名客)を、彼女が枕営業で奪った(笑)。

 嬢のあることないことを指名客に吹きこんだのだ。

 それが第三者に漏れてしまうのだから脇が甘い。

 人のものは欲しいが好きなわけではない。

 愛に飢え、称賛に飢え、刺激に飢え、競争に飢えている。

 演技性・自己愛性パーソナリティー障がい(尊大型)かもしれないし、ソシオパスやサイコパスがゲームを楽しんでいるだけかもしれない。

 トラブル続きで同僚女性からのクレームも多く、彼女がクビになるのは時間の問題だった。

 だが、自尊心の高さから、彼女は自主退店の道を選んだ。




 



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