第45話 お役人様
団体フリー客が入店した。
“某歴史的建造物”からやってきた、若き役人たちだ。
着席するやいなや
「ババクラ(ババアのキャバクラの意)だ!ババクラだ!ここはババアしかいねぇよ!なあ?」
と、うるさ型に同意を求められたので
「なんだよクソガキ!ケツの青いクソガキ!年長者敬えよ!」
と相打ちにしてやった。
『どうだ?言われると不愉快だろ?少しは人の気持ちがわかったか!?』
クソガキは、きょとんとして私に背を向けた。
その素早さに負けん気の強さを感じたが、同時にただならぬ動揺も感じた。
私は酒を作りながら、担当の素直そうな青年に向きなおった。
「すみません……」
青年がフォローした。
クソガキとは同期だと言う。
「彼はいつもこんな感じなの?」
私が尋ねると、青年はばつ悪そうに笑った。
「考えものだね……。でもあなたのせいじゃない。楽しく飲もう!」
「はい。あの、よかったら一杯どうぞ……」
青年がごちそうしてくれた。
「ありがとう!頂きます!」
観れば、クソガキ以外の青年は皆、熟女と歓談中だった。
「『ババア!ババア!』うるさいな!しつこいんだよ!」
担当の嬢がクソガキと揉めている。
チャラチャラした嬢で圧が弱い。
ターゲットを見つけたクソガキの“口撃”は収まる気配がない。
飲み屋でのモラルハラスメントは治外法権だとでも思っているのか!?
だが
「ここはババア好きしかきちゃいけないんだよ!嫌なら帰りな!」
ついに嬢が最後通告を放った。
がぜん、押しだまるクソガキ。
かと思うと、鞄から財布を出して札を抜き、テーブルに投げて店を出ていってしまった。
五千円札一枚ぽっきり。
キャッチ(客引き)が“お試し料金”で上げたのだ。
冷やかし客が混ざるのも仕方ない……。
同僚は横目に見ただけで我かんせずだった。
担当を失くした嬢はあきれ顔で中座した。
機嫌は人の心の成熟度を体現する。
己の傍若無人にしっぺ返しを食らったからといって、ぷいっ!として逃げてしまうのは、あまりにも稚拙だ。
失敗して詫びることは、負けることではなく、学ぶことだ。
エリート意識や負けず嫌いに囚われず、持ち前の向学心でEQ(感情指数)やSQ(社会指数)を獲得すれば、今よりずっと生きやすくなるだろう。
高い知能と論理的思考で、感覚的には理解できないEQやSQを獲得しようとする人たちだって、少なからずいるのだから……。
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