第16話 メンヘラ沼

 平凡なサラリーマンの客だ。

 周囲の人間は、彼がおっぱい星人だとばかり思っていた。

 おっぱいの谷間を露出した指名嬢が退店するたび、似たような新人を後継に指名していたからだ。

 彼が指名するおっぱいちゃんは漏れなくトラブルメーカーで、入店しても早々にクビになるか辞めるかしてしまうので、彼は長いことおっぱいとおっぱいのあいだを転げまわっていた。

 そんなある夜、何を血迷ったか!?彼は被覆系まな板ちゃんを指名した。

 露出系おっぱいちゃんとは対照的だったので、周囲の人間はザワついた。

 だが、それで真相が解明されたのだ。

 これまで彼が指名してきた露出系おっぱいちゃんたちには、もうひとつ共通点があった。

 メンヘラだ。

 その頂点とも言うべきが、まな板ちゃんだった。

 まな板ちゃんは長袖のドレスを着て、にゃんにゃんにゃんにゃん彼に迫った。

 彼はすぐに彼女を指名した。

 何よりかにより、メンヘラ好きなのだった。

 なぜって?

 メンヘラに依存されることで“頼りになる男らしい俺”という幻想を生みだし、自己の存在証明をしていたからだ。

 傍から見ればちゃちな共依存でしかない。

 

「毎日毎日、朝昼晩メールがくる」

「『どこかに連れてけ!連れてけ!』うるさいんだよ」

と、まんざらでもない。

 まな板ちゃんの欠勤日にフリーで入店しても、結局、のろけて帰った。

 まな板ちゃんはスッポンだ。

 愛に似て非なる何かを追及する。

 まな板ちゃんを指名するようになり、彼の来店頻度も増えた。

 目の焦点がおかしい。

 まな板ちゃんのそれと同じだ。

 気の毒だが、ビジネスの現場で彼を助ける者はいない。

 首がまわらなくなって初めて、我に返るだろう。

 

  


 

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