第13話 趣味と実益

 特別上手ではないが、料理が好きだ。

 特別苦手だった母からは学べずじまいだったので、若いころは脚本家○田邦子氏の料理本や、私淑する料理研究家○上昭子氏の出演する料理番組(※今では子女が引きつがれている)を手本にした。


 料理は瞑想と似ている。

 素材とその特徴、切り方や下ごしらえ、調味料の比率や投入する順番と時差、加熱時間や火加減の微調整や冷ましなど、基本を覚えると作業工程にゆとりが生まれる。

 そのうち勝手に手が動くようになり、いつの間にか一品二品できあがっていることがある。

 フロー状態に入って己や世の有象無象から解きはなたれているからだ。

 その感覚が好きで、私は日々スーパーや八百屋をはしごする。

 素材や調味料を選ぶところから瞑想の入り口は始まっている。


 料理好きは仕事で功を奏した。

 グルメなおじ様とスパイスの談になり、花椒をホワジャオと、クローブを丁子と答えただけで?場内指名(フリー客から取る指名)を頂いた。

 それからは、おじ様の関心事の豆知識に先まわりしていれば、来店と指名は担保された。

 地方でカフェをオープンすると言う兄さんからメニューの相談を受けたときは、パンケーキに○焚糖という砂糖を使ってみてはどうか?と提案した。

 加熱に適した100%国産原料の砂糖だ。

 私が長年愛用している食器メーカーもいくつかお伝えした。

 兄さんは東京を離れるまで何度か指名で通ってくれた。


 料理の談になると

「じゃあ今度ごちそうしてよ!」

と自宅に上がりこもうと画策する不届き者が現れたりもするが、そんなときは

「タッパーに詰めて(店に)持ってきましょうか?」

と即答。

 季節が春夏なら

「(持ちあるくと痛むので)もう少し寒くなったらね!」

と。

 まぁ、実現しない(笑)。

 厚かましい客ほど、指名で金を落とす財力がないからだ。

 こちらも、そうとわかって軽口を叩いていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る