第10話 シスターボーイ

 初来店のとき、彼は上司といっしょだった。

 小娘が外されてセカンドかサードで私がついた。

 ファッションや音楽や映画の話をして、彼の仕事の話を聴いた。

 場内指名(フリー客から取る指名)されてドリンクを何杯か頂いた。

 小柄で身綺麗な好青年で、またしても庶民派ぼんぼんだった(笑)。

 両親が遅い子持ちで周囲が大人ばかりの環境で育った彼は、キャンキャンした小娘が苦手だった。

「今度は一人できます!」

 LINE ID を交換して、その夜はお開きとなった。


 次の週、彼は宣言どおり一人で来店した。

「一人で飲みにきたのは初めて!大人の遊びを教わりにきました」

と、はにかんだ。

「初めて着てみたんだけど……どうかな?」

 前の週、私が愛用していると話したブランドのシャツを着ている。

「いいね!似あってる!」

 サイズのチョイスが上手だ。

 正直、レスポンスの早さに驚いた。

「やっぱり探したらあったよ」

 学生時代DJをしていた彼は三千枚のCDやレコードを所有していた。

 私の最愛のディーバのCDをジャケ買いした記憶があり、確かめたらしかった。

『なんだか素直な人だな』

と思った。


 それから、彼は毎週店にやってきた。

 指名料やドリンク代を含めると一晩のお会計は三万円程度。

 両親と同居していて経済的に余裕があるにしても、二十代のサラリーマンには安い出費ではない。

「今日は貯金を下ろしてきた」

「えーっ!無理しなくても大丈夫よ!お給料が出てからでいいよ!」

「そうなんだけど、さ。○○(私の源氏名)ちゃんといると楽しくて」

 可愛いことを言う。

 ならば、あいだを取ってと、滞在時間を短縮することで手を打った。


 ある夜も来店お礼のメールを送ると

『こちらこそありがとう!今夜も楽しかった!』

と即レスがあった。

『余韻に浸りたいので歩いてます!』

 なんとも、可愛らしい。

 他愛ない往復を何度かしたあと

『この世にたった一人でも自分を理解してくれる人がいるのは幸せ』

と意味深な文面が……。

 終わりに

『シスターボーイより』

と、あった。

 音楽好きの彼から、私はUKの象徴的なミュージシャンを連想した。

 思いかえせば、思いあたる節がいくつもあったのだ。


 以降、彼がそれについて触れることはなかったし、私も追及しなかった。

 私たちは、ほどよい距離感で秘密を共有した。

 彼が私を信頼して告白してくれたのは、とてもうれしかった。


 それにしても、恋愛対象ではない私によくぞ大枚を叩いてくれた!(笑)。

 あれからずいぶんたつけれど、幸せに暮らしているだろうか?



 








 

 

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る