第4話 裸の王様

 万年フリーの社長御一行が来店した。

 持ちまわりなので仕方なく社長につく。

 つきしな、いつもどおり自慢話が始まった。

 前回は確か……

「女はみんなサプライズが好きだから、こーして、あーして、そーすれば喜ぶんだよ!」

と、なかなかリサーチ不足な偏見を熱弁していた。

 延々と続く大味な独白は記憶に残らないものだ。

 成りあがりらしく香水は例の銘柄で、スーツは例の仕立て屋で、腕時計は例のブランドだった。

 社長だし、神経質だし、自尊心も相当高いので、誰も何も指摘しない。

 ドリンクを一杯頂いて

「へぇー」

とだけ相づちを打ち、退席したのだった。


「○縄旅行のときの」

 唐突にファーストクラスの室内写真を数枚、見せられた。

「へぇー」

『なんのこっちゃ!』

 次に白亜の大豪邸が写った航空写真を見せられた。

「やっぱり、すごく大きいですね!」

 すかさず、部下がフォローアップする。

 社長がスマホの画面をピンチアウトした。

「俺の家」

「へぇー」

『なんのこっちゃ!』

 視線を外し、頂いたドリンクに口をつけた。

 社長の香水がキツすぎて酒がまずい。

「へぇー」

「へぇー」

「へぇー」

 いろいろ、ひたすら自慢されるので、適当に相づちを打ちつづけた。

 つけまわし(嬢を客席につけたり、客席から外したりする係。俯瞰力が試されるため、ある程度のキャリアを要する)に抜かれたので、ごちそうさまをして退席しようとすると

「君ね!もっと頑張って指名を取らないと駄目だよ!」

と、ぷんぷん!された(笑)。

『へっ!?この席で?俺様に興味を持て!俺様にへつらえ!と?だって、お前万年フリーじゃねーか!』

「はーい!頑張りまーす!ごちそうさまでしたー!」

 面倒だったので、グラスを合わせて早々に退席した。


 誉められたいという承認欲求はわからないでもないが、自慢話にもほどがある。

 相手がうんざりして軽蔑しているのに気づかないようでは、誉めてもらえる機会も逃すだろう。

 無から有を生みだしたタフガイだ。

 幼稚だがバカではない。

 せせこましいネズミのようではあるが、それを補って余りある金と地位がある。

 それでも、すり寄る女すらいないのは、ロジックが間違っているからだ。

 ビビってないで身内がガツン!と教えてやれないものか?

 イエスマンに仕立てられた部下たちに愛はないのか?

 それも社長の業なのか?

 可哀想に。

 裸の王様だ。



 


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