第3話 モテない女
週に何度も店に通う客がいる。
お目あての指名嬢がいるからだ。
彼らは仕事が終わると店に“直帰”する。
飲み友だちもなく、家に帰っても独りぼっちだったり、たとえ、家族があっても温かく迎えてもらえない人たちだ。
彼らは皆、無粋な長尻だ。
キャバクラは時間制なので、ちんたら飲めば飲んだだけ料金が加算される。
彼らは現金がつきると借金を重ねたり、親のクレジットカードを持ちだしたり、子どもの学資預金に手をつけたりする。
身なりはチープで、言動は下品で我儘で奇異で、ストーカー化する寸前だ。
そんな客ばかり拾う嬢を、同僚はひそかに“爆弾処理班”と呼んでいた。
“爆弾処理班”は優柔不断だったり、八方美人だったり、我慢強かったり、そもそも本人たちが狂っていて狂った客と共鳴してしまうので、ほかの嬢が眉をひそめるような客でも相手にできるのだ。
来店頻度が高い長尻の客がつけば、売上は保証されるので数字上は売れっ子だ。
「客を呼べるのが一番偉いんだから!」
周囲に迷惑をかけようが、店のレベルを下げようが、おかまいなし!ということらしい。
無防備に浅見を露呈してしまうのでタッグを組んでくれる嬢もいない。
それでも、痛客に憑依されたぐらいで承認欲求を満たして強気でいられるのだから、幸福なのだ。
どんなに多くの好意を向けられようと、それが短絡的なものならば、女としては1ミクロンも上がらないどころか女を下げてしまうと感じる私にとっては、なんとも羨ましい思考回路だ。
人数より人柄。
好意の数より好意の深さ。
私にとっては“誰にどれだけ好かれるか”が、女を上げる唯一無二の鍵なのだ。
ところで“爆弾処理班”は不思議なほど一般男性にはウケない。
多くの女性が好むような男性からは見むきもされない。
痛客にしかウケない嬢は、一般社会に放りだされてしまえば、単にモテない女だったりする。
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