コスプレポリス

「裏アキバ特命派出所」の空気が重い。というよりヒンヤリしている。


 薄井幸男、一言でいえば「情報屋」さん。私たちポリスにとっては心強い協力者。もちろん、情報料は払いますけど。  

 その雰囲気が寒い。ボロボロの作務衣みたいな服を着て、しかも草履。

 髪はボサボサ、顔色は真っ青。


 どう見ても妖怪じゃん。


 まあ、しゃあない。あれは「死事」いや「仕事」用の制服なんだから。


 この人は近所で「冥土メイド喫茶」を経営している。店内は線香の香りが満ち、BGMとしてお経が流れている。ウエイトレスたちはみな、白い着物を着てフワリフワリと歩いている。

 こんな怪しげな店でありながら、こだわりの自家焙煎コーヒーと、冷気たっぷりの「骨壺パフェ」は特に人気とのこと。


 さて、今日の情報は?


「最近、JKリフレ店で働いている女の子が続けて行方不明になっている。店側でも必死に捜したが見つからないんだ」


 ギョギョギョ、やばいんじゃない?

 え、なんですか?この視線は。


「メグ」


 や、やっぱり……、私ですか?


「よかったな、仕事ができて」


 貴教さんの満足げな笑み。


「これって、すごく危ないんじゃ……」

「ああ、すごく危ない。でも危険な任務をやり遂げれば、評価は爆上がりだ」

「と、いうことは……」

「そ、俺が出世できる」

「ですよね」

「ごめんな。俺、自分のことしか考えてなくて」


 そんなにはっきり言われると、ちょっと胸が痛む。

 でも、貴教さんが大好き。

 だから役に立ちたい。


 JKリフレ店では、JKとおじさんが「個室」でお話したりする。そういうサービスをする店だ。風俗店ではないからエッチなサービスはないと聞いた。

 オッケー。それならできる。


「メグちゃんは、こういう店は初めて?」


 潜入した店で店長に聞かれた。まあ、割とまともそうなおじさんだ。


「はーい」

「なんか、慣れてないっていうか」

「えへへ」

「おじさんたち、そういうウブな子が好きだから」

「そうですかぁ?」

「いやー、清純そうで、処女っぽくていいねー」


 ピキッ


「ちょっと。なんすか、それ」

「へ、なに怒ってるの?」


 店長は必死に笑いをこらえている。


「ま、メグちゃんもおじさんたちと楽しんじゃってよ」

「はーい」


 どんな話をしようかな。やっぱり猫ちゃんの話かな?おじさんもモフモフが好きならいいな。うふふ、楽しみ。


「メグちゃーん、お客さんだよ」

「はーい」

「コスプレのオプションが付いてるから着替えていってね」


 コスプレ?

 げ、ポリスじゃん。

 超ミニすぎて、見えちゃいそう……


「メグちゃーん、一号室ね」

「はーい」


 超ミニの裾を気にしながら部屋の前に立つ。


「こんちは、メグでーす」

「お、待ってたよ。あれれ、似合ってるね。ホンモノのポリスみたいだ」


 本物ですけど。


「いやー、カワイイね。あのセリフ言ってくれる?」

「あれですかぁ?」

「うん」

「じゃ、いきますよぉ。ハートをタイホ!」

「おお、おおぉぉぉ。たまんねぇ」

 

 ブキミな笑みを浮かべて転げまわる。

 キモいな、このオヤジ。マジで逮捕してやろうか?


「ねえ、もっとお金ほしいと思わない?」

「うーん、ショップとかで買い物したいし、遊ぶお金はもっと欲しいですぅ」

「じゃあさ、もっと稼げる店があるんだけど……」


 おや、これは「引き抜き」というやつ?


「えー、でもアブナイお店じゃないんですかぁ?」

「そんなことないよ。とっても楽しいよ。おこづかいもいっぱいもらえるよ」

「ほんとですかぁ?」

「ほんとさ。今夜おいでよ」

「うん」


 その夜、おやじの言う店に行った。


「いらっしゃい、来てくれたんだ」

「はーい」

「じゃ、さっそくだけどこっち来てくれる?」


 あれー、なんか撮影スタジオみたいだけど。


「とりあえず、このコスチュームで撮影しようか。着替え部屋はこっちね」


 鏡のある小部屋に入る。

 まずはメイド服ね。

 クルクルと着替えて撮影部屋に戻る。


「あのー、これって何に使うんですかぁ?」

「ま、プロモーション映像、かな?」

「プロモーション?」

 その服でスチール写真と動画を撮る。


「じゃ、次はナース服ね」


 それでまた撮影。

 で、その次は。

 こ、これは、セクシーランジェリーでは……


「あ、あのぉ」

「ん、なに?

「これはちょっと恥ずかしすぎますぅ」

「ああ?おこづかいほしくないの?」

「ほしいですぅ」

「じゃ、さっさと着替えて。ほら、仕事なんだから」


 なんだか、怖いんですけど。

 貴教さん、そろそろたすけて……


 着替え部屋で固まっていると、ドアをガンガン叩かれる。


「おーい、早くしろよー。ナメてんのか」


 うわー、ドア蹴ってるよ。

 と、そのとき。


「はーい、警察でーす。動かないで」


 貴教さんの声だ。


「いかんなー、女の子を脅した上に盗撮までしちゃ」


 え、盗撮?


「はいはい、おとなしくして。余罪についても署でたっぷり聞かせてもらうからな」

「きゃあ」


 男の一人が、私を羽交い絞めにする。


「この女、ぶっ殺してもいいのか、ああん?」


 これは私の得意の展開。

 クルリと体勢を入れ替えて、手首をクイっとひねる。


「うわぁ、い、いてぇ」


 弱すぎるんだよ、エロおやじ。


「はーい、公務執行妨害の現行犯で逮捕!」

「げ、ポ、ポリスだったのかよ」

「さすがだな、メグ」

「どーも」

「安心しろ、動画ファイルもすべて押収した」


 でも、盗撮って?


「着替え部屋に鏡があっただろ?あれマジックミラーなんだよ」

「て、いうと?」

「そ、向こう側から丸見え」

「え、えー」


 それ、知ってたんですか?


「ってことは……」

「下着なんか脱いでたら、無修正ビデオにデビューするところだったな。それをネタに脅されて、あとはドロドロ。そこまで泳がせて動かぬ証拠をつかもうと思ってたんだが……」

「ひ、ひどい……」

「だから、そうなる前に助けてやっただろ?」

「私には、まだ他に使い道があるからですか?」

「ま、そんなところだ。ごめんな、出世のことしか考えてなくて」


 ああ、切ない。

 これは仕事なんだから、そう思えば何でもないのかもしれない。

 でも、ただ利用されてるだけっていうのは、やっぱり辛い。

 貴教さんを愛している、けれど。





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