第40話 隠れていた才能
「ランクは?」
ジュリオの問いに、ルカは首を振る。
「君も冒険者なんだろう?」
「俺は、鎧鍛冶だよ」
「鎧鍛冶……?」
冒険者でない青年が、騎士との手合わせに名乗りを上げる。
しかも、上級冒険者たちとの攻防を見た上で。
状況が分かっていないのか、それとも『差』を計ることすらできないのか。
おふざけとしか思えない立候補に、騎士たちが微妙な顔をする。
「ぜひ彼の力も見て欲しい。必ずその価値があると思う」
しかし首を傾げるジュリオにユーリがそう言うと、流れが変わる。
「まあ、君がそこまで言うんだったら試してみてもいいけど」
「意外な掘り出し物かもよっ」
ナディアも承諾の背を押してくれた。
「分かった。もちろん君も全力でいい。僕を殺すつもりで来てくれ」
ルカはただ、うなずくことでジュリオに応える。
「――――インベントリ」
その身体が、一瞬で白銀の全身鎧に包まれる。
緊張に震えるルカ。
夢に見た、憧れてやまなかった騎士を目前にして。
こうして、オマケのような形とはいえ自らの剣を受けてもらえるなんて……これほど嬉しいことはない。
思い出すのは、かつて望んだ英雄への道のり。
『いつか、世界を救うような騎士に――――』
儀式で強力なスキルを得て、祝福されるまま騎士として活躍を始める。
そんな輝かしい道とは、まるで違う。
それでも。遠回りをしたルカにもう一度機会はおとずれた。
一方、突然現れた全身鎧を前に嘆息するジュリオたち。
フルプレートなんて、今はもう儀式の際にしか使われない。
そのめずらしさに一瞬驚きを見せたものの、「一方的に攻撃していい」という状況下で重い全身鎧を身につける必要はまるでない。
常識外れの装備をまとった、ランクを持たない青年。
強いはずがない。
「冒険者でもない人を試すなんて想像もしなかったな――――どうぞ」
そう告げて、ルカに攻撃を促すジュリオ。
すると、次の瞬間。
「ッ!?」
ダンッ! と強烈な破裂音が鳴り響いた。
恐ろしい速度で飛び込んで来た白銀の鎧が、見えぬところから取り出した大剣を振るってくる。
「なッ!?」
直前にユーリの速い攻撃を受けていたのが、幸いだった。
ルカの攻撃にどうにか魔槍を合わせ、防御に成功する。
……しかし。
「な――――ああああああああッ!?」
止まらない。
その威力が、まるで止まらない。
槍を手にしたまま、ジュリオは消し飛ばされた。
土煙を上げるほどの勢いで地面をバウンドし、転がり、木の幹にぶつかったところでようやく止まる。
「うそ……」
「そんな……ありえません」
ランクを持たない鎧鍛冶の放った一撃に、呆然とする騎士たち。
「…………僕が、たった一撃で?」
これまで余裕を見せていたジュリオも、驚愕の目でルカを見る。
一変する状況。
しかしすでに『知っている』冒険者たちは――。
「はあー、ルカはすげえな」
「大したもんだ。騎士相手でもあれだけやれんのかぁ」
驚くでもなく、ただ感嘆の息をもらしていた。
「君は一体……何者なんだ?」
足をよろめかせながら、ジュリオが戻って来る。
「騎士を一撃で倒す鎧鍛冶なんて、聞いたことがない」
「実は最近、スキルのレベルが上がって」
「ぷっ、あはははは」
ナディアが笑い出す。
「さ、さすがにそれは嘘だよっ。いくらなんでもこんなレベルの上がり方ありえないって。あははははっ」
それを冗談と取ったナディアは、腹を抱えだした。
クールなレイも唖然とする。
騎士が鎧鍛冶相手にヒザを突く。
こんな事態、普通に考えればあり得ない。
それでもジュリオは、むしろ「見つけた」とばかりにレイに視線を向けた。
「貴方の名前、教えていただけますか?」
レイが真面目な顔で問いかけてくる。
「ルカ・メイルズ」
「ルカ、ぜひ貴方にも力を貸していただきたく思います」
「ただ、俺は冒険者ってわけではないんだけど……」
「問題ありません。その件に口を出すものがいた場合は、私の方で押さえます」
力強い口調で告げるレイ。
「やー、すごいね君っ」
そう言ってナディアはルカの腕を取り、人懐こい笑顔を向けてきた。
「その力、頼りにしてるよ」
最後に現れた大物新人。
強烈な印象を残したルカを含めて、今度こそダンジョン踏破への人選が始まった。
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