第57話 旅路
ガタゴトガタゴト………。
たゆんたゆん……もみっ……。
ガタゴトガタゴト………。
たゆんたゆん……もみっ、もみっ……。
「あっ、ン。……あのぉ、リョ……リオンちゃん?」
「なぁに?」
「そろそろ、降りてもいいかなぁ?なんて……。」
「ゆいゆいは私のこと嫌いなの?……そうよね、ずっと嫌われてたもんね……私は仲良くしたいと思っても、嫌われてるんじゃしょうがないよね……くすん。」
「いえ、好きですよ。リオンちゃん大好きですぅ。」
「だったら、何の問題もないよね?」
たゆんたゆん……もみっ……もみっ。
「ぁんっ……だからぁ……っん……。ソレ、やめてぇ……。」
「だって、押さえておかないと暴れるし……それとも、もいどく?」
「もがないでっ!あと、揉まないで……。」
ここは馬車の中。
リオンの膝の上にゆいゆいが座り、背後から抱きかかえられている。
そして、その身長に似合わぬ豊満な胸が、馬車が揺れる度に、たゆんたゆんと揺れ動く。
最初は抱きしめているだけのリオンだったが、その揺れ具合が勘に障り、揺れないように手で押さえ、ついでに揉みだしたのだった。
「えっと、……ぁん……そもそも……ッン……なんでこんな事に………。」
「だって、ゆいゆい、前回馬車酔い酷かったでしょ?今回の馬車は、揺れが軽減されてるとはいえ、揺れないわけじゃないから、私がこうしてクッションになってあげてるの。多分に誤解があったとはいえ、SLOの時迷惑かけてたみたいだからそのお詫び。」
「リオンちゃん……。」
感動で、瞳に涙を浮かばせるゆいゆい。
「と言うのは建て前で………。」
「へっ?」
「単にゆいゆいとイチャイチャしたかっただけ。」
「私の感動を返せぇ~!何なのよっ!イチャイチャしたいって。」
「えー、だって、ゆいゆいはリョウの愛人で、ハーレムの雌奴隷なんだよね?」
「私、そんな立場だったのっ!?」
「そうだよ、知らなかったの?」
「知らなかった……。」
がっくりとうなだれるゆいゆいの頭を撫でて、慰めるリオン。
「だからこうして可愛がってあげてるの。どうせリョウの時は、裸で迫られてもヘタレて逃げ出すか、理性が吹っ飛んで、本能の赴くままに襲いかかるかのどっちか、だろうしね。」
「で、でもニャオちゃんが……ぁん、ダメ………。」
「大丈夫、ニャオとクレアは昨晩たっぷりと可愛がって上げたがら。」
「そうなんだ……でもリオンちゃん……。」
「いいから、もう黙りなさい。」
リオンはそう言って、自らの口でゆいゆいの口をふさぐ。
「安心して。私の気持ちはリョウの気持ち…リョウもこうしたいって思っているんだからね。なんなら今夜、リョウのところに来る?」
リオンは唇を離すとそう囁く。
「リョウ先輩、リオンちゃん………、好き……。」
今度はゆいゆいから唇を求める。
ゆいゆいの心がリオンで占められていく……。
◇
「その……リョウ様………あんまり見ないで下さい……恥ずかしいですよ。」
アリスはそう言いながら身を捩る。
本当は、何も身につけていない、自らの身体を覆い隠したいのだが、手足を拘束されている状態ではソレもままならない。
「そんな事言って……身体の方はすでに準備ができているみたいだぞ。」
そう言いながらリョウがアリスの敏感な場所に触れる。
ビクッと背中に衝撃が走る。
「アンっ……。」
知らずの内に声が漏れる………。足を閉じたくても、無理矢理開かされているので出来ず、その事実が、アリスの羞恥を煽る。
「だって、ずっとあんなの見せられていたら………。」
アリスが奥に目を向けると、先程までリョウと愛し合っていたニャオとクレアが、ゆいゆいとじゃれあっているのが見える。
当然の事ながら、三人とも何も身につけていない。そしてゆいゆいはアリスと同じように拘束されている。
「ん?何だ?もっと見ていたいのか?じゃぁゆいゆいを先にしようか?」
リョウが、胸の先を指先で弾くとアリスから離れる。
「アッ………。」
身体への刺激が無くなると、急に寂しさが募る。
「いや……いかないで………。」
思わず、リョウを引き留める声がでる。
「何だ?どうして欲しいんだ?」
リョウがまた身体に触れてくる。
しかし今度は焦らすように、刺激の強いところを避けているため、何とも言えないもどかしさが、アリスの心を支配していく。
「切ないのですぅ……いじわる……しないで……。」
「何が切ないんだ?はっきり言えよ。」
「いじわるぅ……。」
「そうさ、意地悪だよ。だからこのまま放置してもいいんだぜ。」
そう言って離れるリョウ。
「待って、行かないで。アリスを………。」
アリスは慌ててリョウを呼び止め、切ない身体に急かされるように要望を口にする。
「ちゃんと言えるじゃないか。じゃぁ、お望み通りに……。」
乱暴に触られ、今まで感じたことの無いほどの衝撃が、アリスの身体の中を駆け巡る。
「いやぁ……お願い……優しく………。」
アリスの言葉は、リョウの唇によって口を塞がれたため、最後まで言うことが出来なかった。
しかし、言葉とは裏腹に、身体を占める快感の渦に身を委ね、この先のことを思い瞳を輝かせるのだった。
◇
「うーん、リオンちゃん……そこはダメですぅ………。」
「リョウ様ぁ、早くぅ………いじわるですよぉ……。」
「二人共、どんな夢見てんだ?」
リョウの肩に頭をもたれかせて眠る、ゆいゆいとアリスの口から、漏れ聞こえる寝言を聞いて呟く。
「まぁまぁ、乙女の夢の詮索はNGだよ。でも二人とも気持ちよさそうに寝てるねぇ。見てるとこっちも眠くなってくるよ。」
「そうね、でも気持ちは分かるわ。この陽気と微妙な揺れ具合が眠気を誘うのよね。」
ニャオの言葉に受け答えしながら、クレアは窓の外を見る。
穏やかな田園風景が遠くまで広がり、青空から暖かな日差しが降り注いでいる。
「平和ね。」
「そうだな、このあたりには被害が無いみたいだな。……しかし人の姿が見えないな?」
そろそろ刈り入れ時だというのに、畑に人の姿が見えない。
「ヤッパリ先の戦争の影響があるのでしょうね、それと……。」
クレアが口ごもる。
「何か気づいたのか?」
「気づくも何も……ねぇ?」
「だよねぇ………。」
クレアとニャオは顔を見合わせる。
「何があるんだ?勿体ぶらずに教えてくれよ。」
「センパイ、本気で言ってる?本当に分からないの?」
ニャオが呆れたように言うがリョウには全く心当たりがなかった。
「この馬車の所為よ。」
クレアが諦めたように、ボソッと呟く。
クレアが言うとおり、細々と畑作業をしていた農民達は、リョウ達の乗る馬車が視界にはいると、慌てて逃げ出し、物陰からそっと様子を伺っていた。
誰がどう見ても貴族が使うような高級な装いの馬車に、ソレを牽く異様なモノ。
ウマの頭をした、筋骨隆々な男二人が、汗まみれで馬車を牽く姿は、異様以外に表す言葉がない。
そんなモノを目撃した農民が、我が身を守るために隠れるのは当然のことだった。
「………近寄ってこないってのは防犯上いいことだな、うん。」
「モノは言い様ね……。」
「まぁ、そんなことはいいじゃないか。それより、ソロソロアリスを起こさないと……どこに向かえばいいか分からんぞ。」
「ごまかした?」
「ごまかしたわね。」
「キミタチ、うるさいよ。それより起こしてやってくれよ。俺は動けん。」
両隣からもたれ掛かられているため、少しでも動けば、バランスを崩して、どちらかが転がり落ち落ちる可能性がある。さすがにそれは可哀相だと言うことで、リョウは動かずにいた。
「変なところで優しいのね。」
「それがセンパイだよ……ほら、アリスちゃん起きて。」
ニャオがアリスの身体を揺さぶる。
「うーん、リョウ様ぁ………もっとぉ……。」
寝ぼけたアリスが両腕を首に回ししがみついてくる。
「ちょ、まっ………アリス起きろって………。」
「はい、そうですぅ~。アリスはあなたの奴隷ですぅ~………。」
起きる気配のないアリスが、ぐっと引き寄せ、顔がより身近に迫ってくる。
「もぅ……意地悪ですぅ。わかりましたよぉ………私から……ん、ちゅ……ちゅっ………。」
突然のことに固まるリョウ………アリスの唇の柔らかさが、コレが現実だと訴えている。
「何やってんのよぉっ!」
スパァーンッ!スパァーン!
ニャオが手にしたハリセンでニャオとリョウを引っ張叩く。
「何で俺まで………いえ、何でもないです。」
文句を言おうとしたリョウだったが、「フーッ!」と威嚇しているニャオを見て言葉を飲み込む。
「あれっ、リョウ様………いつの間に服を着たのでしょうか?」
衝撃で目覚めたアリスだったが、まだ夢と現実の乖離が出来ていないようだ。
「いい加減にするのっ!」
ニャオが、アリスとの間に割り込んでくる。
「あー、ニャオさんずるいですぅ。ニャオさんはさっき散々愛して貰ったんだから、今はアリスの番なので………って、えっ?」
「フー、フーッ!」
「……えっ!」
威嚇するニャオを見て、ようやく目が覚めるアリス。
「そんな………夢だったのですか?」
胸と下腹部を押さえながら真っ赤になるアリス。
どうやら、かなり過激な夢を見ていたらしい。
「うぅー、リョウ様酷いですぅ!」
「俺っ?」
「あんなことされたら、もうリョウ様以外のところにお嫁にいけません。責任とって下さいよぉ。」
アリスの言葉に、キッ!っとニャオが睨んでくる。
思わず首を逆側に背けると、そこにはゆいゆいの顔が………。
「リオンちゃ~ん、私も好きですよぉ……もっとぉ……。」
ゆいゆいが唇を押し付けてくる。そしてその舌がリョウの口内に無理矢理割り込んでくる。
甘美な刺激にリョウの背筋がゾクリとする。
いや、ゾクリとしたのは別の………。
「センパイの……バカァ~ッ!」
護身用に渡していた炸裂弾が、リョウの足下で閃光を放った……。
「えっと、ニャオ……。」
「うー、うーっ!」
リョウの腕をとりしがみついたまま離れないニャオを見て、説得を諦めたリョウは、助けを求めるようにクレアをみる。
しかし、クレアも黙って首を振るだけだった。
「それでアリス、取り合えずばどこに行けばいいんだ?」
「とりあえずは、この先のミランの村で一泊しましょう。」
リョウは、諦めて現状を受け入れた上で、アリスに今後の予定を聞くとアリスからそんな答えが返ってくる。
「いいのか?」
「えぇ、急ぐ旅でもないですし。」
今回はアリスの……と言うよりクライン家からの依頼で、マクスウェル領にいる、アベルとジョゼフィーネに会うことになっている。
先日のザコバの乱で、アルバ砦から辛うじて逃げ帰ったザコバを待っていたのは、ジェムズを占拠した「反ザコバ派」によるザコバ派狩りだった。
執拗な狩りにより、反ザコバ派によって捕らえられた、元領主ザコバはそのまま王の元へと送られる。
反ザコバ派の中には、ザコバに対して恨みを持つ者が多く、処刑しろとの声が大きかったが、仮にも王が定めた領主を勝手に処刑などしたらどんな沙汰が下されるか分からない、と宥めたのがアベルだった。
アベルは、ザコバの罪状と共に、反ザコバ派の主張とその正当性を添えて王都に行き、ジョゼフィーネと共に沙汰を待ち、ようやく諸々のことが片づいたのが10日程前のこと。
ザコバ及びその一族は、貴族籍剥奪され国外追放となった。
しかし、ジョゼフィーネに関しては、ザコバの乱を収めた功績もあり、相殺して無罪となっている。
そしてマクスウェルリョウの処遇に関しては、アベルが新領主となり、ジョゼフィーネを娶って、その子が成人したら領主を譲る、という、クライン側にもマクスウェル側にも配慮が為された形で落ち着いた。
「配慮ねぇ。」
リョウがそう呟くと、アリスは唇に人差し指を当てる。
「リョウ様、王が配慮と言ったら、それは配慮なんですよ。」
「ふん、まぁ俺には関係ないことだな。それで俺達は何で呼ばれたんだ?アリスの護衛って言うのは建前なんだろ?」
「リョウ様のその察しのいいところ、好きですよ。」
アリスはそう言いながら抱きつこうとして……ニャオに威嚇されて諦める。
「でも、メインは護衛なのですよ。ただ色々起きるかもしれないので、その都度お力を貸して貰えたら……って感じです。」
アリスが今回呼ばれたのは、ザコバの嫡男の後始末の為だった。
血統魔法の事があるため、嫡男と関係を持った女性を、保護という名の下に監視をするべく集めるために謝罪金を出すというおふれを出したのだが、当然の事ながら、嘘をついてお金だけもらおうとするものも出てくる。
また、表沙汰にしたくないため、名乗りでない者もいる。
そんな女性達の真偽を見極めるために、アリスが呼ばれたというのだ。
「そんな事の為に、と思わなくもなかったですけど、やつれたアベル兄様の顔を見たら、可哀想で……決してリョウ様と旅が出来るって喜んだ訳じゃないですよ?」
「うー、アリスちゃん、嘘つき。」
「ぅ、嘘じゃないですよ……ホントにそんな事は……ちょっとしか思ってないです。」
慌てふためいて、ニャオに言い訳するところを見ると、ちょっとどころか大部分を占めているのかもしれない。
「と、とにかくですね、ミランの村に泊まるのも訳があるんです。あのクズが御執心の女性がいたって噂なんですよ。だからお仕事なのですぅ……う~、ニャオ様、いい加減威嚇しないで下さいよぉ。」
「フーッ!」
騒ぎ出したアリスを無視して、リョウは窓の外を眺める。
窓の外ののどかな風景とは違い、領都及びその周辺では、見えないところに、ザコバの起こした爪痕がまだまだ残っていると言うことらしい。
いつになったらスローライフに入れるんだろうと思いながら、無意識にニャオの頭を撫でるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます