第47話  お風呂とGirls Talk

 ……目覚めたら、女の子になっていた。

 何を言っているんだと思われるだろうが、実際リョウ自身何を言ってるんだと思わなくもないが………。

 リョウは視線を落とす。

 胸元には無いはずの膨らみが……。

 何の気なしに触れてみると、ビクッと体中に電流が走ったかのような衝撃を受ける。

 更に視線を下方へ……。

 そこにあるはずの膨らみ………特に朝だから目立つはずの膨らみが無い………。

「マジですか………。」

 ここは衣類を脱いで、実際に確かめるべきなのだろうが、怖くて行動を移す気になれない。

 突然の出来事に思考がついて行かず、ボーッとしているとニャオがテントの中に入ってくる。

「センパイ、起き………た?」

 ニャオが立ちすくんでいる。

「あ、ニャオ、コレは……。」

 なんて説明すればいいか躊躇うリョウ。

 そもそも、リョウ自身何が起きているか判らないのだから、ニャオが驚くのも無理はない。

「きゃ………。」

「きゃ?」

「きゃわわぁ~!センパイきゃわわだよぉ。何、どうしたの?リオンちゃんのコスプレに目覚めた?」

 ニャオが抱きついてくるが、その違和感に気づき、身体を少し離す。

「ねぇ、センパイ?」

「なぁに?」

「背、縮んだ?声もなんか高いよね?それに……。」

 ニャオがリョウの身体の一部をじっと見つめる。

「ニャオ?」

「……えいっ!」

「ひゃっ!」

 思わず変な声がでてしまう。

 ニャオがリョウの胸を鷲掴みにしたのだ。

「ヤッパリ!何でセンパイにおっぱいがあるのっ!しかも私より大きくないっ?」

「ヤ、ヤメテ……。」

 ニャオが執拗に胸をまさぐり、その度に変な声が漏れそうになるのを我慢する。

「何でなのよぉ!」

「だ、だから………ひゃんっ………ダメ……。」

 ニャオが落ち着いた頃には、リョウは息も絶え絶えになっていた。


「中々出てこないと思ったら……。」

「ほぇ~~。」

「クスン……。」

「あ~、もぅ、悪かったってばっ。センパイ泣かないでよっ。」

 リョウの周りを、クレア、ゆいゆい、ニャオが取り囲んでいる。

 アリスはまだめざめていないらしい。

「一体どういうことなのかしら?……本当に女の子になってるの?」

「リョウ先輩、今から一緒に水浴びに行きましょ!」

 興味津々という眼で見てくるクレアとゆいゆい。

「やだよ。恥ずかしい。」

「いいじゃないですかぁ。女の子同士なんだし。それに実際ちょっと汚れてきてるから、身綺麗にしたいんですよ。」

 ゆいゆいに言われて、リョウは彼女たちが森に来てから、毎晩水浴びに行っていた頃を思い出す。

 それが昨晩はアリスやリョウが倒れたためにそれどころじゃなかったのだろう。

「そういえば……。」

 そこまで考えたところで、リョウはある物の存在を思い出し、アイテムボックスから取り出す。

「センパイ、ソレって……。」

「あぁ、ウン、存在を忘れてた。」

 ニャオとクレアがジト眼で睨んで来るが、まぁそれも仕方がないと受け入れる。

 なにしろ、コレがあれば冷たい水浴びなどせずに済んだ訳なのだから……とリョウは目の前の五右衛門風呂をみてため息をつく。

「折角だし、今から交代で入っちゃおうか?」

 ニャオがそんなことを言い出すので、「じゃぁごゆっくり」と外へ出ようとするリョウ。

「どこ行くの?センパイも一緒だよ?」

どうやらニャオは逃がしてくれる気はないらしかった。


「はぁ、本当に女の子なのねぇ。」

 女の子になったリョウの裸を、マジマジと見つめるクレア。

「恥ずかしいから見ないでよ。」

 両腕で身体を隠そうとするが、動きが鈍い。

 さっき、逃げ出そうとした時、ラビちゃんに電撃を浴びせられ、まだその痺れが取れていないためだ。

 リョウが痺れて動けないのをいいことに、3人掛かりで裸に剥かれ、身体を洗われて、今こうしてクレアと一緒に湯船に使っているというわけだ。

 ちなみにニャオとゆいゆいは、すぐ目の前で身体を洗っていて、この後は交代でリョウと一緒の湯船につかるらしい。

 のぼせるんじゃないだろうかと心配になってくるが、体の自由が利かないこの状況では、彼女達の言い成りになるしかない。

 ちなみに、言うまでもなく皆全裸だ。

「皆恥ずかしくないの?」

「「「何で?」」」

 リョウがそういうと、何故かキョトンと首を傾げる三人。

「だって、俺男よ?それなのに、そんな裸を晒して……。」

 そう言いながら自分の中の違和感に気付く。

 美少女たちの全裸に囲まれるというシチュエーション、普段なら卒倒物で理性が吹っ飛びかねないはずなのに、今は比較的冷静でいられる。

 裸を見て、見られる恥ずかしさはあるものの、やましい感じがしない。

 はっきり言えば、男の時にあった性的興奮という衝動がとてつもなく薄くなっている。

「だって、今は女の子同士じゃない?」

「そうだよぉ。何も恥ずかしいこと無いでしょ?」

 そんな事を口々に言われると、そんなものか、という気になってくるから不思議だ。

 何か魔法的な力が働いているんだろうか?

「うふふっ、センパイと混浴~。男のセンパイだと恥ずかしいけど、今なら大丈夫~。」

 そういって抱きついてくるニャオ。

「お胸もきゃわわ~。」

 ご機嫌なニャオ。その理由の一つには、リョウの胸が、1cmニャオより小さかったこともあるに違いない。

「狭いんだから暴れないで。」

「狭いから引っ付いてるんだよぉ。」

「大体、男の俺だと恥ずかしいって……よく一緒に入ろうって誘ってきてたじゃない?」

「アレは、その……、どうせセンパイは入ってこないだろうってわかってるから、その……。」

 口元までお湯に沈み、ブクブクと泡ぶくを出すニャオ。

 そんな姿が可愛くて、思わず抱きしめたくなるが、まだ身体の自由が利かないため諦める。

「ニャオちゃんそろそろ交代だよ~。」

「えー、もぅ?まだいいじゃない。」

 声をかけてきたゆいゆいに、膨れ面を見せるニャオ。

「ダメだよ。リョウ先輩がのぼせちゃうよ?」

 ゆいゆいがそう言うが、実際リョウはのぼせかけている。

 大体そのような気遣いが出来るなら、人を痺れさせて一緒に風呂に入るなんて暴挙を止めて欲しかったと思う。

「うぅ、仕方がないなぁ。」

 ニャオが渋々湯船からでると、代わりにゆいゆいが入ってくる。

「もぅ、こんないいものがあるなら、早く出して下さいよぉ。」

「忘れてたのよ。」

「それなら仕方が無いですねぇ。」

 そう言いながら、マジマジと見てくるゆいゆい。

「な、なに?」

「いえ、どこかでみた気がして……でもアバターとは言え、マジに美人さんですねぇ。ベースがリョウ先輩だと思うと自信なくしますよぉ。」

「唯だって十分可愛いと思うよ。だから自信持って。それに唯が可愛くないっていったら、学園の女生徒の2/9を敵に回すからね。」

「また微妙な数値……微妙すぎて逆にリアリティがあるのがイヤだぁ。」

 がっくりと落ち込むゆいゆいを、ヨシヨシと宥める。

「ところでゆいゆい?」

「何ですか?」

「そろそろ、限界。」

「わわっ、リョウ先輩しっかりっ!ニャオちゃん、クーちゃんセンパイ助けてっ!」

 完全にのぼせたリョウをお風呂から引き上げて、介抱するのに大騒ぎをするゆいゆい達だった。


 ◇


「それで、何でこんなことに?」

 リョウは目の前のアリスに問いかける。

「だってぇ、皆ズルいじゃないですかぁ。私だってリョウ様とお風呂に入りたいんですぅ。」

 そう言ってぎゅっと抱きついてくるアリス。

 朝の一騒動の後、リョウの意識の回復とアリスの目覚めを待って、街への移動を開始した。

 とは言え、移動を始めるのが遅かったこともあり、街に着く頃には門が閉まっていて入れないだろうと言うことで、森の入り口で野営をし、明日の朝一番で街に入ろうということになった。

 道中、リョウが女の子に変わってることに気付かず、リョウが居ないと騒ぐアリスに事情を説明したり、リョウがリオンの装備を身につけた為に、ゆいゆいにリオンの正体がバレたりと、色々なことがあったが、それでも明日には無事に街に入れると言うこともあって、皆のテンションが上がりまくっていた。

 そんな折りに、ゆいゆいが口を滑らせ、アリスが寝ている間にリョウと混浴を楽しんでいたことがバレてしまい、今こうしてアリスとも混浴する事になったのだった。

「はぁ、でも本当に女の子ですねぇ。胸も私よりあるし。」

 ムニュ、ムニュと揉んでくるアリス。

「アリスは成長期でしょ?これからよ。」

 お返しとばかりに、アリスの胸を揉みかえす。

「やんっ、リョウ様のえっち!」

 アリスが身をくねらせながら笑う。

 男だったら犯罪になる行為が、女の子というだけで許されるという理不尽さを噛みしめながら、アリスとじゃれ合うリョウだった。


「えへっ。センパイと一緒。センパイもギュッてしてくれるしぃ。」

 その夜、「女の子同士なら問題ないよね?」とニャオが毛布の中に潜り込んできた。

 ニャオとじゃれ合うことに抵抗が無くなってきていたリョウは、そのまま受け入れ、ギュッと抱き締めながら眠りについたのだったが……。


「……で、何でこうなってるんだ?」

 目覚めたら男に戻っていた。

 それはいい。

 ただ、この腕の中でスヤスヤと眠るニャオをどうすればいい?

 甘い香りと柔らかな肌……昨晩は特に気にならなかったのに、今はとても意識してしまう。

 と言うよりこのままでは理性が吹っ飛びそうだ。

 それに加えて、今のリョウの姿………。

 寝ている間に着替える、なんて事はしないため、昨晩寝る前と同じ格好だ。

 つまり、女性ものの下着に、ニャオから借りた薄い夜着。

 ……はっきり言って変態そのものの格好だった。

 さらに言えば、女性の身体の時は一回り小さくなっているのか、昨晩はゆったりとしていたそれらが、今では小さくギュウギュウに身体を締め付けるという、物理的にもダメージがある。

 こんな姿をニャオ達に見せたくはない。

 しかし、着替えるために動くとニャオが起きてしまう。

「これ、詰んでね?」

 なんとかならないか、と様々に思考を巡らせた結果が、その一言に集約されていた。

「それはそうと、これどうするか………。」

 腕の中のニャオ。安心しきったかのように眠るその姿が愛おしい。

 何だかんだと誤魔化していたけど、ニャオが……奈緒美が好きなんだと自覚する。

 そして、自覚してしまえば、その想いを抑えるのは大変難しい。特に今の状態では……。

 リョウは、ニャオを起こさないように細心の注意を払いながら顔を近づけていく。

 あと5cm……3cm……。

 後1cmと言うところで、ニャオと目が合う。合ってしまう。

「き……」

「き?」

「きゃぁ~っ!」

 バチーン!

 ニャオの大きな悲鳴と、頬を叩く軽快な音が、テントの中で響き渡るのだった。


「ゴメンってばぁ。ちょっと驚いただけなの。だから機嫌直してよぉ。」

 朝食の間中、ニャオはべったりとくっつき、謝罪を口にしていた。

 今も、背後から抱きつき甘えてくる。

 そしてリョウと言えば……。

「いいんだよ。どうせ変態だよ。」

 拗ねていた。

 拗ねながら、枕元に置いてあった置き手紙に目を通していた。

 差出人はハイエルフのアインベル……授力の魔女だ。

 手紙には、リョウが授かった力について書かれている。

 リョウが男性体の時は、物理的攻撃力や防御力、体力などを中心に従来の50%アップし、女性体の時は、魔力などの魔法関連及び機動力などが50%アップするとのことだった。

 そして肝心の変化については、現在はまだ力が安定していないため不定期にコロコロ変わるらしいが、力が安定すれば、自らの意思で変わることが出来るようになるらしい……それがいつになるのか判らないらしいが。

 後、置き土産として、エンチャントに関する書物が置かれていて、その中の「早替え」の項に印が打ってあった。

 これは、一瞬にして別の装備に切り替える為のエンチャントだ。

 ゲーム内では、使い道のない、死にエンチャントだったのだが、現実では、これほどありがたいエンチャントは他にはないという位便利なものだった。

 そして最後にリョウ宛のメッセージ……。


『………プー、クスクス。女性物の下着を着ている変態さんへ。

 私の授けた力、感謝して使いなさいよ。この変態!ザマァミロ!』


 今度出会ったときは、裸に剥いて逆さ吊りにしてやると、堅く心に誓うリョウだった。

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