第41話 冒険者ギルドと酒場
「どうした?」
ぼーっとしているゆいゆいに声をかけるリョウ。
「いえ、ここまでテンプレ通りだと、かえって言葉が出ないもんだとびっくりしてました。」
「だよなぁ。気持ちはよくわかる。」
リョウは、足元で伸びている男たちを避けながら、ゆいゆいを連れてカウンターへと向かう。
ここは冒険者ギルド。
ゆいゆいの冒険者登録のためにやってきたのだが、登録の手続きをしようとしたときに、絡んできたのが、今足元でヒクヒクしている男だった。
その時の台詞も、テンプレその物だったので、ゆいゆいと二人して唖然としていたら、それをバカにされたととったその男が殴りかかってきたのだ。
思わずアクアカノンで吹き飛ばし、雷撃を放って撃退したのだが、ついでに周りの男たちまで感電してしまったのは……まぁ不可抗力だ。
「とりあえず、オレは悪くない……ってことで、改めてこの子の登録を頼む。」
リョウはニコニコとこっちを眺めている受付のお姉さんに声をかける。
「わかりましたわ。では改めて、そちら様のギルドカードのご呈示をお願いします。」
受付のお姉さんに言われて、リョウは自分のギルドカードを出して渡す。
「リョウ様ですね。……成る程、そう言うことですのね。」
リョウのカードを見て、得心がいったと言うように、何度も頷く受付のお姉さん。
「それで、今回登録するのが、こちらのお嬢さんでよろしかったですか?」
お姉さんがカードを返しながら聞いてくるので、リョウは頷く。
その後、差し出されたいくつかの書類に、ゆいゆいがサインするとギルドカードが出来上がる。
「もう出来たのか?俺達が登録した時は1日待たされたんだけどな。」
「それはきっと田舎の支部で登録されたからでしょう。」
お姉さんの説明では、ここのような大きな街の支部と違って、田舎に行けば行くほど設備が揃っていないため、どうしてもカードの発行に時間がかかるのだとか。
「あれぇ、リョウ先輩のカードと色が違いますぅ。」
ゆいゆいは、自分の白いカードとリョウの黒いカードを交互に見ながら言う。
「そりゃぁ、ランクが違うからな。」
ゆいゆいは、発行して貰ったばがりの初心者だ。
誰もが始めは、初心者の白……Fランクから始まる。
リョウの持つ黒いカードは、初級者のEランクだ。
Fランク冒険者がいくつかの依頼をこなすと自動的にあがる仕組みになっていて、リョウ達はアナザーワールドには、冒険者登録した後、数日しかいなかったため、それほど依頼を受けていない。
だから、カードの色が違っても、ゆいゆいと、立場的にはそれ程差はないのだが、ゆいゆいはそれが不満のようである。
ちなみに、Eランクの上には、黄色のカードの一般冒険者Dランク、緑のカードの中級冒険者Cランク、青のカードのベテラン冒険者Bランク、赤のカードの上級者冒険者Aランクと続いている。
噂ではAランクの上に銀色のカードのSランク、金色のカードのSSSランクがあるらしいが、真偽の程は定かではない。
「心配しなくても大丈夫ですよ、ゆいゆいさん。白のカードはいわば仮免のようなもので、依頼を3つこなしていただければ、すぐに黒のカードになりますから。」
「本当ですか?リョウ先輩、聞きました?早速依頼を受けましょう!くぅ~、冒険者ですよ~!テンション上がるぅ!」
「こらっ、落ち着けって。」
ご機嫌な様子で飛び出そうとするゆいゆいの肩を捕まえて止めるリョウ。
気持ちは分かるがはしゃぎすぎだ。
「後、リョウ様。そのぉ、出来ればなんですが……。」
背後から受付のお姉さんから声がかかる。
振り返ると、申し訳無さそうな表情のお姉さんが横を指差しながら言ってくる。
「ギルド内の揉め事は、なるべく控えて下さいね。」
指さされた方に視線を向けると、厳つい体つきの男が立っていた。
それを見たリョウは、もう一騒動を覚悟したのだった。
◇
「おぅおぅ、遠慮せずにもっと飲めや!そっちの嬢ちゃんたちも遠慮は無しだぜ!」
ガハハと豪快に笑いながら、リョウの肩をバシバシと叩いてくる男……ガイルが、追加のジョッキを一気に飲み干す。
ガイルは、最初絡んできた男の所属するパーティのリーダーで、受付で見たときは文句を言いにきたのかと身構えたが、パーティメンバーの無作法を謝罪したいということだった。
お詫びをかねて、奢らせてくれと言われたが、ニャオ達を待たせていることもあって、最初は断った。
しかし、呼べばいい、人数が増えてもかまわないと言われ、受付のお姉さんにも、小声で相手のメンツを潰さない方がいいと忠告されたため、言葉に甘えることにした。
「だが、お前さん達も災難だよなぁ。まぁ、お互いに古代遺跡には気を付けようや。」
「そうだな。」
リョウはガイルにそう相づちを打つと、ジョッキに口を付ける。
古代遺跡のトラップによって跳ばされて来た、と言うのがリョウが考えた、自分たちの設定である。
この世界の常識に疎いのは仕方がないため、そのあたりの説明が付くように、「すごく遠い大陸にすんでいて、ここのことは判らない」と言うことにしてある。
幸いにも、古代遺跡に眠る極悪なトラップの噂には事欠かないため、冒険者達の共感と同情が得られ、こうして昔からの仲間のように歓迎されている。
因みに、召喚者と言う事実はギルドのトップと国王をはじめとする一部の貴族には知らされているが、トップシークレットのため、一般冒険者が知ることはないし、リョウ達も話すつもりはない。
「そうそう、良かったら俺達とパーティ組もうぜ。」
ガイルとリョウがしみじみと話している横で、隣に座っていたもう一人の男、ザコバが調子のいい声で、リョウの横に座っているニャオに声をかける。
「間に合ってるからノーサンキューです。」
しかしニャオは取り合わず、目の前に置いたアルにクラッカーをあげている。
ちなみに、このザコバと言う男は、最初に絡んできた男で、ニャオ達が来たときもすり寄っていき、ラビちゃんに撃退されていた。
そんな目に遭いながらも、こうして近くで声をかけてくるのだから、中々タフでめげない男である。
「そう言えば知ってるか?この先にある遺跡なんだが……。」
ガイルの話にあわせて頷きを返すリョウ。
隣ではニャオがアルの相手をしながら、同じように相づちをうっている。
このガイルという男は、とにかくよく喋る。
しかも、酔いが回ったこともあり、話があっちこっちに飛びまくる。普通であれば気疲れからグッタリとなるところだが、コミュ障のリョウやニャオにとっては、頷いているだけで、様々な情報を教えてくれる、大変有り難い相手だった。
ちなみに、リョウ達程コミュニケーションを苦手としていないクレアとゆいゆいは、離れた席で女性冒険者達と話をしている。
テーブルの真ん中に、ひよちゃんとラビちゃんが陣取っている。たぶん会話の中心はあの2匹なんだろうか。
「……って、オイ、聞いてんのか?」
「いや聞いてない。ゴメン、なんだって?」
「だから、時間があるなら、明日一緒に一緒に依頼を受けないかって言ってんだよ。」
ガイルの話では、「近隣の街道の安全確保」と言う依頼を受けているらしい。
なんでも、近々領主の娘が視察に来るらしく、この街近辺で何かあっては大変だという事で、街道沿いにやっかいな魔物が発生していないか、とか、盗賊団が彷徨いていないかなど、周辺をパトロールして、危険があれば報告、出来ればそれを排除すると言うものだ。
この手の依頼は定期的に出ていて、複数のパーティに向けて発注されており、難易度は高くない割に報酬がいいので人気は高い。
「おもしろそうだけど、即答は出来ないな。他のメンバーとも相談したい。」
「構わねぇよ。もしその気があるなら、明日2の鐘までに門前に集合な。」
ガイルはそう言うと席を立つ。どうやら他のパーティのメンバーにも声をかけるつもりのようだ。
リョウ達も、この期に席を立ち酒場を後にすることにした。
急に色々なことがあったため、一度情報を整理した方がいいと判断したからだ。
決してニャオやクレアが飲み過ぎて、目が据わってきていたからではない。
「……と言うことで、情報整理と話し合いをしようと思う……のだが、無理だな。」
リョウは周りを見回して溜息を吐く。
「にゃんでよぉ~……、お話ぃ、しようよぉ。」
ニャオがはソファに腰掛けたリョウのとなりにすわり、もたれるようにして体重を預けながら言う。
「その状態でよく言うよ。まともな話し合いできないだろ?」
「そんにゃぁことぉ、にゃいかもぉー……。」
そう言いつつも、頭をリョウの胸に埋めて程なくすると、すぅー、と穏やかな寝息が聞こえてくる。
「ニャオちゃん寝ちゃったねぇ。」
この期にとばかりに、ニャオの耳を触りまくるゆいゆい。
気持ちはよく判るので、敢えて止めずにいる。
「くーちゃんセンパイも寝ちゃったし、どうしましょ?」
「どうもこうも……細かいことは明日にして、今日はもう寝るしかないだろ?」
訊ねてくるゆいゆいにそう答え、ニャオを抱き起こそうとしたら、ゆいゆいに毛布を被せられる。
「ニャオちゃん起こすの可哀想だし、今日はそのままですよぉ。」
「そのままって……大変寝苦しいのですが?」
リョウはそう言いながらも、まぁいいかと思う。
正直、リョウもガイルにつき合わされてそれなりに飲んでいたため、考えるのが億劫になっていた。
「いいから、いいから。」
ゆいゆいはそう言いながら、反対側に回り込み、毛布の中に潜り込んでくる。
「あの、ゆいゆいさん?ベッドは向こうにあるのですが?」
「いいから、いいから。お休みですよ。」
そう言って、ギュッと抱きついてくるゆいゆい。
「ちょ、ちょっとマズい……ってもう寝たのか?」
ゆいゆいの柔らかさを感じながらも、動けずにいるリョウ。
仕方がなく別事に思考を向ける。
これから先のこともそうだが、当面の生活についてだけでも考えることは一杯ある。
とは言うものの、アルコールで濁った頭ではまともな思考は続かず、段々眠くなってくる。
両側に女の子がしがみついている状態に、流石にこれはマズいだろう、と思っていたリョウだが、時間が経つにつれ、何がマズいのかがわからなくなってきていて、今ではリョウから抱きしめていたりする。
「柔らかいし暖かいし……問題ないだろ。」
そう呟きながら目をつぶるリョウ。
左右から、すぅ、すぅと、規則正しく聞こえてくる寝息をBGMにして、いつしか眠りにつくのだった。
なお、リョウが朝起きたとき目にしたのは、自分だけ仲間外れだと、拗ねるクレアの姿だった。
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