第37話 ゆいゆいと混乱

「さて、コッチも準備するか………ってクレアはついて行かなくて良かったのか?」

 ニャオ達から離れて、自分のやるべき事をしようとしていたリョウだが、いつの間にか戻ってきていたクレアに気づき、声をかける。

「えぇ、魔法関連であなたに相談したいこともあるから……。」

「召還魔術について………か?」

「それも含めて……よ。」

 クレアのジョブ『召喚師』はSLOにはなく、USOで初めて実装された職業の為、詳しい情報はあまり出回っていない。

 現在判っていることと言えば……。


・魔獣と契約し、召喚獣とすることが出来る。

・召喚獣は、普段は『召喚石』と言う特殊な魔石として存在し、この魔石を身につけていれば、召喚獣に応じたステータスがあがる。

・召喚師は、召喚石を身につけている間は『召喚獣の特殊能力を使える。

・召喚師は、召喚石を使用することによって、召喚獣を呼び出して、共に闘うことが出来るが、召喚獣に応じたMPと触媒アイテムを消費する。


 大体こんな感じだが、召喚獣との契約条件が様々で、判明していない事柄も多くあることや、支払うコストの割に、有益な能力が少ないなど『割に合わない』と思うプレイヤーが多く、オープン早々で既に、「死にスキル」「ネタジョブ」と認識されつつある。

 クレアの場合、向こうに召喚獣がいるため、召喚師である事を辞めようとはしないが、それはそれとして、召喚術以外で何か出来ないか模索中とのことだった。

「クレアの場合、戦力アップはやっぱり召喚獣を増やすことだよな。」

「えぇ。でも、それは向こうで探した方がいいのよね?」

「まぁな。こっちで契約した召喚獣が向こうでどういう扱いになるかも判らないし、何より、向こうで契約した方が召喚獣の質がいい。」

 現在のクレアの召喚獣は3匹ともレア級の魔獣だ。

 向こうではあっさりと仲間になってくれたが、USO内では、そもそも見つけだすのすら困難な魔物たちである。

 近々、向こうを訪れる予定でもあるので、新たな召喚獣についてはそれからでも遅くはないだろう。

「なら、先ずは……っと、ここがいいかな。」

 クレアと共に街中を歩いていたリョウは、ある店の前で足を止める。

「ここは……アクセサリーのお店?」

「あぁ、折角質のいい召喚石を所持してるんだからな、先ずは装備でステータスアップしておくのがいいんじゃないか?」

 そう言いながら、いくつかのアクセサリーを見繕って、クレアに見せる。

「俺の細工レベルがもう少しあがれば、素材によっては、此処よりいい物が出来るんだけどなぁ。」

 リョウは、並んでいる商品を見ながらそう呟く。

 残念ながら生産系のスキルレベルは時間とお金が掛かるものであり、プレイ時間の殆どを生産スキルアップのためだけに費やした者が、トッププレイヤーとして名を馳せるのだ。

 だから、片手間にやっているリョウではNPCの高級品に劣っても仕方が無いのだが……判っていても、モヤモヤが残るのである。

「そうなんだね……うーん、あんまりピンとくるものが無いわねぇ。リョウに作ってもらったほうがいいかも?」

「そうかぁ……。あっ、これはあった方がいいな。」

 リョウはいくつかのアクセサリーと素材を購入する。


「クレアはやりたい事とか目指すスタイルなんかは無いのか?」

「そう言われても、よくわからないのよ。普通はどうなの?」

 クレアは物珍しそうに、露店を覗き込みながら、リョウの質問に答える。

「うーん、普通って言われてもなぁ、俺もニャオも趣味に走ってるから普通からはかけ離れてるんだよな。」

「そうなの?」

「そうなんだよ。まぁ、でもクレアなら精霊魔法を覚えるのはどうだ?召喚師のスキルとの相性もいいし、種族特性でのボーナスもあるしな。」

 精霊魔法を極めれば、攻撃・防御、補助に回復とオールラウンドに活躍できる。

 場所によって制限される場合もあるが、召喚魔法と併用すれば、欠点を補いつつ戦うことも可能だろう。

「精霊魔法ね。……いいかも知れないわね。」

 リョウの言葉に光明が見えたのか、先程までとは打って変わって明るい表情で微笑む。

「決まりだな。じゃぁ、次は魔法屋に行くか。」

 リョウはクレアの手を引き、魔法屋へと向かう。

 自然と掴まれた手に戸惑いつつ、どことなく嬉しさがこみ上げてくるクレアだった。


 ◇


「遅いよぉ。」

 ニャオ達との待ち合わせ場所は、何故か人集りが出来ていた。

 その人混みをかき分けて、何とか進むとそんな声が聞こえてくる。

「悪い、ちょっと手間取った。………しかし、これはいったい何の騒ぎなんだ?」

 リョウの目の前には、ぽっかりと空間があり、その中央にゆいゆいがぽつんと立っている。

 そしてその目の前で、数人の男が大立ち回りを演じている。

 正確に言えば一人の男に対し5人の男が取り囲んでいると言う感じだ。

 さらに言えば、その5人の後ろにも多数の男たちが群をなしている。

「何だありゃぁ………って、アッチのやつリカルドか?」

「あら、彼を知ってるの?有名になったものね。」

 横合いから声をかけてくる女性に、アルビナス、と呼びかけようとして慌てて口をつぐむリョウ。

 思わずリオンの時のように振る舞いそうになったが、今のリョウはリオンではない。

「あ、えーと、ニャオから聞いていて……。」

「そうなのね、あなたが「もうひとり」なのね。私はアルビナス。ナオト………ニャオの友人で、あそこのバカの連れよ。」

 アルビナスがそう言いながらリカルドを指さす。

「初めまして。リョウです。ニャオ達と固定パーティ組んでます。」

 リョウの態度が可笑しいらしく、背後でニャオがクスクス笑ってる。

「笑うなよ。」

「兵が見てるから?」

「だから、そのネタ古いってのっ!」

 ニャオが時々振ってくる古いネタ、一体どこで仕入れてくるんだろう?

 不思議に思いつつ、ニャオに説明を求めるが、アルビナスとのネタ振り合戦に入ってしまったようで、ろくに話を聞いていない。

 仕方がないので、ゆいゆいにこっちに来るように視線を送る。

 リョウの視線に気づいたゆいゆいは、そっとその場を離れ、リョウの元にやってくる。

「リョウセンパーイ、助けてくださぃ~。」

 リョウの元に辿り着くなり泣きながらしがみついてくるゆいゆい。

「一体何があったんだ?」

「それが私にもよく判らないんです。ニャオちゃんに装備を整えてもらって、先輩たちを待っていたら、声をかけてくるプレイヤーさんがいて……。」

 

 ゆいゆいの話では、「ねぇ、君たちのジョブ何?良かったら一緒にダンジョン行かないか?」とか「俺達効率のいい稼ぎ場所知ってるんだぜ。特別に教えてやるよ。」とか「写真撮らせてって言うかもう撮ってる、ゲシシシ………。」などあっと言う間にプレイヤーに囲まれてしまったんだそうだ。

「ニャオちゃん可愛いから仕方がないと思うんですけど、私が護らないと、と思って前に出たんですよぉ。そうしたら……。」

 ゆいゆいはいつものように、「私の嫁に手を出すなっ!」ってやったそうなのだが「ロリ巨乳キターーー!」とか「合法?合法?」だとか「ロリと巨乳天国はここに……。」だとか一層騒ぎが大きくなり、更にはニャオが「胸かっ!やっぱり胸のかっ!あんなのはただの飾りよっ!」と喚いて、ゆいゆいの胸を揉みだして収集がつかなくなったそうだ。

 って言うか、ニャオは何やってるんだよ。

 痛む頭を押さえながら、ゆいゆいの胸元に視線を落とす。

 確かに立派な物をお持ちでいらっしゃる。髪とか眼の色以外、エディタでは殆ど触っていないと言ってたから、リアルも同じなのだろう。十分紅羽とタメを張れるんじゃないだろうか?

 更に言えば、背が高めの紅羽と違い、唯の背は奈緒美より低めで、そのせいで、より胸の大きさが強調されている。

 加えて、リアルの唯はやや幼さが残る童顔で、USOでは、その童顔を強調させているため、一部紳士が騒ぐのも無理はない。

 VRの基本として、体格は大幅な変更は出来ず、1~2cm程度の誤差ぐらいしか許容されないため、リアルで「ロリ巨乳」でない限り降臨することはないのだ。

 トドメにゆいゆいの姿。

 カレンさん作であろうその装備一式は、素晴らしいの一言に尽きる。

 メイド服を基調デザインとしたドレスアーマー。

 白と黒のコントラストに、胸元が強調されているデザイン。ミニスカートとニーソの間の絶対領域…………全てが計算され尽くし、露出が少ないのに、いや少ないからこそ醸し出される色気と、幼い見た目のギャップが見事にマッチして奇跡を呼び起こしている……。

「成る程、よく判った。」

「判ってもらえたのはいいんですが、………先輩どこ見てるんです?」

「ん?ゆいゆいの胸。」

「…………先輩って、ゲームの中だと性格変わるんですね。清々しいまでのオープンセクハラ、アリガトウゴザイマス。」

 ゆいゆいが、腕で自分の胸元を隠しながら言う。

「それはいいとして、何でリカルドが?」

「良くないですよ。後できっちり話を付けますからね。リカルドさん?は、囲まれて困っていたニャオちゃんを見て、助けに来てくれたんです。でも私を見た途端、『テメェら、この子はオレのモンだ!手を出したいならオレの屍を越えていけっ!』って言いだしてこのような有り様に………。」

 私いつのまに人様のモノになったのでしょうか?などと呟くゆいゆい。

「リカルドだから仕方がないだろう。」

 リカルドはロリコンのオッパイ星人だったことを思い出しながら、慰めるように、ゆいゆいの頭をポンポンと撫でるリョウ。

 思い返せば、SLO時代、リオンの魔女っ娘スタイルに、一番狂喜乱舞していたのはリカルドだった。

「まぁ、いつまでもこうしてるわけにもいかんだろう。クレア、雷撃いけるか?」

「いつでもいけるけど……ホントにやるの?」

「アレが収まるの待ってるとそれだけで時間が過ぎるぞ?」

「………仕方が無いわね。」

「じゃぁ、オレの後によろしく。」

 リョウは、クレアにそう告げると群衆に向かって詠唱を始める。

「………水よ来たれ、タイダルウェィブ!」

 その場に生じた大量の水が、激流となって群衆を飲み込む。

「はぁ………気が進まないけど……『雷撃!』」

 クレアの放った雷撃が水を伝わり、その場にいた全員を感電・麻痺させる。

「よし、にげるぞっ!」

 リョウはクレアとゆいゆいの手を握り走り出す。

「あーっ!ズルいっ!」

 それを見たニャオが慌てて追いかけてくる。

「後始末、押しつけんなやぁ!」

 後に、残されたアルビナスが何か喚いているが、気にせずその場を駆け抜けていくのだった。

 




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