第31話 真・ダンジョン攻略 ~激闘 地竜~
ブォンッ!
大人の身体周りほどある巨大な尻尾が、目の前を掠める。
「フラッシュ・エッジ!」
その攻撃をかわしながら、足下に向けて魔法を放つ。
飛び出した光の刃が、地竜の皮膚を切り刻むが大したダメージを与えられない。
しかし、それでいいと、リョウは考える。
リョウの役割は、地竜の意識を引き付けておくことなのだから。
現に、怒り狂った地竜がリョウに狙いを定めて攻撃してくる。
本来であれば大楯などを装備する重戦士の役割なのだが、リョウたちのパーティに重戦士はおらず、代わりに回避盾としてタンクの役割をリョウが担っている。
回避盾として考えれば、リョウより機動力のあるニャオの方が向いているが、ニャオにはアタッカーとしての役割があり、今も地竜の背後から何度も斬りつけ、ダメージを蓄積させている。
「クッ!」
迫る地竜の前足を躱したと思ったのだが、フェイントだったらしく、躱した方向に尻尾の一撃が迫る。
「きゅいっ!」
横から飛び出したラビちゃんが、地竜の頭を蹴り飛ばし、地竜の意識を自分に向ける。
「ぴぃぃぃ!」
地竜がリョウとラビちゃんのどちらを攻撃しようかと迷った一瞬のスキをついて、ひよちゃんがエアロカノンを放つ。
「ちゅいっ!」
魔法の反動で一歩後ずさる地竜だが、その踏み込んだ足元が沈み込みバランスを崩す。
アルの土魔法『マッドプール』の効果だ。
地竜が足を下ろす場所をピンポイントで泥沼と化し、体勢を崩させたのだ。
アルの得意な戦術で、地味ながらかなりの効果がある。
1対1では使いどころが難しいが、多数との戦闘中であれば、目の前の敵に意識が集中している時にこれをやられると、見事にハマる。
「てぇぇぇいっ!ダンシングブレード!」
バランスを崩した地竜の背中に乗ったニャオが、連撃を叩き込む。
「グヲォォッォォォッ!」
地竜がその身体を振りまわし、背に乗ったニャオを振り払うが、ニャオは振り落とされる前に自ら飛び退き、間合いを開けて次のチャンスを伺う。
地竜の基本的な攻撃は、その大きな前足での振り払い及び踏みつけ、尻尾での薙ぎ払い、そして突進だ。
亜竜とはいえ、竜族に連なるその能力はバカにできるものではなく、攻撃手段が単調で乏しいとはいえ、その威力は絶大なものがあり、少しでも躱し損ねると、一撃で体力が根こそぎ奪われるのは間違いなく、それゆえに集中を切らすことが出来ない。
地竜が体勢を立て直し、リョウに狙いを定める。
あのモーションは突進してくる前動作だ。
リョウはアルとひよちゃんにアイコンタクトで意思を伝えると、二匹は軽く頷き、各々のやるべきことをこなすために最適な位置取りをする。
ラビちゃんはクレアの傍まで下がって、次の攻撃に備えている。
ドドドドドドドドッ!
地竜がリョウめがけて突進してくる。
もっと広い場所でならともかく、この場所では躱すのも中々難しい。
……が、それはまた反撃しやすいってことでもある。
「アルっ!」
「ちゅいっ!」
突進してくる地竜の足元に穴が開き、地竜を巻き込んで崩壊する。
「今ねっ!」
今まで待機していたクレアが、火炎瓶、爆発薬、炸裂弾などを投げ込む。
「きゅいっ、きゅいっ!!」
ラビちゃんが電撃を放つ。
土属性を持つ地竜に電撃はあまり効かないが、クレアの投げ込んだアイテムを誘爆させて威力を底上げしている。
「グゥゥゥ、グヲォォォッ……。」
「まだまだまだぁっ!……エアロ・カノン!」
「ぴぃぃっ!」
リョウとひよちゃんの魔法が唸る。
狭い穴の中で瓦礫に埋もれ、身動きの取れない地竜の身体を風の刃が切り刻む。
「今のうちに出来るだけダメージを与えるぞっ!」
リョウの叫びに応えるように、クレアがアイテムを投げ込み、ラビちゃん、アル、ひよちゃんが魔法を叩き込む。
もがきながらも、体勢を立て直そうと伸ばした前足をニャオの双剣が切り刻む。
「グゥゥゥ、グゥゥゥ……。」
リョウは地竜の様子を見ながら、時折魔法を叩き込み、この作り出した有利な状況を維持するために、地竜の動きを阻害することに全力を注ぎこむ。
「このままいけるか……。」
「センパイっ、それダメなフラグっ……。」
ゴォォォォォォォォォ~~~ン……
リョウの呟きに応えるニャオのセリフが終わらないうちに、部屋全体が揺れ地響きがが起きる。
「何が……チッ、咆哮かよ。」
『龍の
耐性を持つものでも、その力に耐えるために一瞬動きが硬直する。故に形勢逆転の隙が生まれ、歴戦の勇者でもこの咆哮対策に苦慮しているという。
また、物理的効果としては、その凄まじいまでの咆哮がソニックブームを巻き起こし、範囲内にあるものを粉砕・破壊する。
ブレスほどの威力はないが、それでも警戒すべき竜族の切り札の一つだ。
そして、地竜の現在置かれている状況下でその咆哮が放たれれば……。
「こうなるんだよな。みんな下がれっ!」
リョウは、みんなに指示を出すと自らも下がり、地竜との距離を置く。
「さて、第二ラウンド開始と行くか。」
リョウは、体勢を立て直した地竜に向かって駆け出す。
よくよく見てみれば、地竜の体表はボロボロだ。
「確実にダメージは入っている。このまま押し通すぞっ!」
「きゅい!」
「ちゅいっ!」
「ぴぃぃ!」
リョウの檄に召喚獣たちが応える。
「ファイアーボール!」
リョウの放つ火球を受けて地竜が振り向く。
「きゅいっ!」
そのまま前足を振り下ろそうとしたところに、ラビちゃんの電撃が襲い掛かる。
「ぴぃぃぃぃぃぃっ!」
ラビちゃんとリョウの攻撃を受け、どちらに対応しようかと迷う地竜の隙を狙って、ひよちゃんのフェザーアタックが地竜の体表を切り刻む。
「グゥゥゥッ。」
地竜が尻尾で辺り一面を薙ぎ払う。
しかしすでにその場からリョウたちは飛び退いていて誰もいない。
「甘いよっ!〇〇〇のハニトーより甘々だよっ!ソニックブレードっ!」
攻撃直後の硬直の隙を狙って、ニャオが連撃を叩き込む。
地竜がニャオに攻撃しようと振り返る。
「俺に背中を向けるなんて余裕のつもりかよっ。切り刻めソニックエッジ!」
リョウが地竜の背中に浮向けて剣を振り下ろすと、剣先から真空の刃が飛び出し、無防備な地竜の背中を切り裂く。
「どりゃぁっ!」
そのまま力任せに剣を振るい、地竜の身体を滅多切りにしていく。
「グワァァッ!」
尻尾でリョウを振り払う地竜。しかし横合いからひよちゃんとアルの魔法が襲い掛かってくる。
そちらに意識を向けると、また逆方向からニャオの攻撃が加えられる。
「まだまだまだっ!」
ニャオの攻撃に対応しようとすれば、リョウに背中から切り刻まれ、リョウの方へ意識を向ければラビたち召喚獣とクレアの攻撃を受ける。
ならばと、召喚獣たちの攻撃に備えようとすれば、空いた背中をニャオに狙われる。
そうやって、リョウたちは絶妙のコンビネーションで地竜を翻弄していった。
「ハァハァハァ……まだくたばらないのかよっ!」
リョウが地竜の尻尾攻撃をかわしてカウンターで切り込む。
あれからすでに3時間が過ぎている。
お互いに死闘を繰り広げ、肉体的にも精神的にもボロボロだった。
「往生際が悪いわっ!ダンシングブレードっ!」
ニャオが、今日何度目になるかわからない連撃を叩き込む。
しかし、相当疲労が溜まっているのか、最初ほどの威力はなくなってきている。
「私たち……本当に勝てるの?」
肩で息をしながら、弱音を吐くクレア。
「諦めるな。諦めたらそこで終わりだ。苦しいのは俺たちだけじゃない。相手だって限界なんだよ。」
リョウはクレアを励ましながら、召喚獣たちと地竜に視線を向ける。
召喚獣たちも体中血まみれで相当疲労が溜まっているはずだが、地竜の攻撃をかわしながら魔法を打ち込んでいく。
対する地竜もボロボロだ。
尻尾は切り刻まれ、右の前足は切り落とされてすでになく、左の前足も、辛うじてくっついているだけという状態で碌に動かない。
しかし、その巨体を生かしたボディプレスと、威力の弱い咆哮を巧みに使い分けながら反撃をしてくる。
どこにそんな力が残っているのだろうかと思うぐらいボロボロの筈なのに、その眼だけはいまだ闘志が衰えていない。
「あんたはよく頑張ったよ。でもね、そろそろ眠りなさいっ。これ以上センパイとイチャつく時間を奪わないでよっ!」
ニャオが地竜に向かって大きくジャンプする。
地竜は迎え撃つため首を回し、頭上のニャオに対し咆哮を放とうとする。
しかしそのタイミングでひよちゃんがトルネードカノンを放ち、目標を逸らさせる。
「ひよちゃんありがとねっ。これで終わりよっ、シャイニングクロニクルっ!」
ニャオの現在使える最大の双剣術『シャイニングクロニクル』その機動力のすべてをインパクトの一瞬にすべてをぶつける8連撃の技。
力とスピードが必要とされるその技は、決まれば大きいが、技を放った直後の硬直時間が致命的な隙となる。故にファイナルアタック以外では使いどころが難しい技なのだが、ニャオはここが勝負どころと踏んだのだろう。
リョウは、ニャオが技を放った直後のフォローをするために飛び込んでいく。
「グ、グォォォォ!」
「何っ、まだ動けるのっ!」
ニャオが迫りくる地竜の咢を辛うじて躱す。
「今のうちに建て直せっ。」
リョウが地竜とニャオの間に割り込み、その咢を弾き返す。
「奴に力はもう残っていないっ!」
「ウン、分かったよ。」
ニャオは一旦下がりリフレッシュポーションを飲む。
「センパイ、スイッチ、いつでもいいよっ!」
「了解っ。じゃぁ、タイミングあわせろよっ……3、2、1……。」
「「スイッチ!」」
リョウが魔力をぶつけて地竜との間合いを開ける。
そのタイミングでニャオは間に入り込み、ダンシングブレードを叩き込む。
そして、連撃の最後、剣を振り切ったところで、そのまま地面に伏せるように沈み込む。
「シャイニングランサー!」
ニャオに襲い掛かろうと大きく開けた地竜の口に、ニャオの背後からリョウが放った光の槍が突き刺さる。
「アルちゃん、ラビちゃん、ひよちゃんっ!」
崩れ落ちる地竜めがけて、召喚獣たちの魔法が次々と襲い掛かる。
「トドメっ!」
倒れ込んでくる地竜の首を、地面スレスレから斬り上げるニャオ。
地竜の首が、空を舞い……そして地面に転がる。
「……終わった……の?」
「あぁ、俺たちの勝利だ……といっても冒険者としては三流もいいところだろうけどな。」
倒れ込みそうになるニャオを抱き留め、「お疲れ」とねぎらう。
「三流?どういうことなの?」
召喚獣たちを抱えたクレアがやってきて聞いてくる。
「あれを見なよ。」
クレアの疑問に答えるため、リョウは倒れた地竜を指さす。
首を飛ばされた地竜の身体は、激闘の後を示すかのように、鱗は剥がれ、ところどころ焼け落ち、体中に切り傷が刻まれている。
「地竜がどうしたの?」
「地竜といえば、亜竜とはいえ竜種に連なる魔物なんだ。その鱗、皮、牙、爪、あらゆる部位が高級素材となる。そして、その肉は大変美味な上、ステータスアップの料理材料にもなるらしい。」
「つまり?」
「あんな状態じゃぁ、せっかくの素材も台無しってこと。今回は状況が状況なので仕方がなかったけど、もっと奇麗に倒せる様にならないと赤字なんだよ。つまり今の俺たちじゃぁ、竜種相手はまだまだってことさ。」
「そうなのね。勝てばいいってわけでもないのね……奥が深いわ。」
「もぅ、難しいことは後だよっ!今は地竜に勝った。地上に戻っておうちに帰れる。明日から、またいつも通り学校に通う。それでいいじゃない。」
「そうね。とりあえずかえりましょうか。」
「あぁ、その前に少し休めよ。立ってるのも辛いだろ?」
「うん……少し寝る……起こすときはセンパイの口づけでお願いね。」
「あのなぁ……ってもう寝ちゃったよ。」
「一番大変なポジションだったもの。リョウも疲れてるんじゃない?」
「あぁ、でもせっかくだから、アレを解体しておきたい。」
リョウはニャオを地面の柔らかいところに横たえてから地竜のもとへと向かう。
「手伝うわ。二人でやった方が早いでしょ。」
「悪いな。疲れているだろうに。」
「ううん、私は今回サポートに回っていたから、MPは切れてるけどスタミナはまだ余裕があるから大丈夫よ。」
クレアは笑いながらそう言うが、召喚獣三匹を維持し続けるのはMPの消費以上に精神に負担があるはずで、疲れていないはずがない。
だけど、クレアが大丈夫と言っている間は、下手な口出しをしないことに決めている。
だからリョウは黙って、解体の指示を出す。
この場合、下手な問答で時間を無駄にするよりは、さっさと終わらせた方が効率もよく、結果としてクレアを早く休ませることが出来ると考えたからだ。
結局、地竜の解体を終え、ニャオが目覚めるのを待って帰還の魔法陣を使い、地上へと戻ることが出来たのは、さらに3時間過ぎてからだった。
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