第30話 真・ダンジョン攻略 ~ボス戦前夜~

「ぴぃっ!」

「きゅいっ!」

「ちゅいっ!」

 ひよちゃんが風を巻き起こし、その風と共にアルの放った水しぶきが辺り一面に降り注ぐ。

 そして、トドメとばかりにラビちゃんの電撃が撃ち落され、その場にいたすべてのモンスターの動きを止める。

 体力のないものは今の一撃で生命活動を止めてしまい、耐性のあるものでも、身体がマヒして碌に動くことが出来ない。

「……こいつら、絶対俺たちより強いよな?」

「うぅ、ケモケモに負けるのはやだぁ。」

 リョウは頭の中でシミュレートしてみる。

 まずはラビちゃん。

 素早い動きと電撃が武器のライトニングホーン。

 その動きについて行くために、風の加護で機動力をアップするか……、いや広範囲の電撃を何とかしないと。

 だったら土の加護で防御力をあげて電撃を無効化するか……。

 しかし、その場合はこちらの動きが鈍くなり、ラビちゃんの動きについて行けなくなりそうだ。

 お互いに決め手に欠け、千日手になりそうだな。


 じゃぁ、アルならどうだ?

 アルの攻撃手段は水と土の魔法だが、本当の恐ろしさはその知略だ。

 相手の動きを阻害するのに、土と水の魔法は非常に相性が良く、あの手この手で動きを止めて、大技を当てるというのが、アルの基本戦術。

 被弾覚悟で突っ込むにしても、空を飛べない身では、広範囲で地面に細工をされたらどうしようもない。

 そうすると、遠距離からの魔法の撃ち合いしかないが……やはり千日手か相打ち以外のビジョンが見えない。


 ならば、ひよちゃん相手ならどうだろうか?

 ひよちゃんは、その類稀な身体能力で相手をかき乱しつつ、ヒットアンドアウェイでダメージを蓄積させていく戦闘スタイルだ。

 相手にするならば、ひたすら防御に徹し、疲労が溜まり動きが鈍くなったところを狙う……しかし上級魔法という隠し技もあるので、一歩間違えれば防御しきれないと言う可能性もある。

 ガチの殴り合いになれば、辛うじて勝てるだろうが、こちらもかなりの被害を覚悟する必要がある。


「リョウ~……負けることはないと思うけど、勝てるイメージも出来ないよぉ。」

 ニャオが半泣きで縋り付いてくる。

 多分ニャオも自分なりにシミュレートしてみたのだろう。

 リョウと違って、スピードに特化している分、勝機もあるが、魔法に対する防護策がないと言う弱点もある。

 魔法で弾幕を張られたら、流石のニャオでも苦戦は必至だ。

「奇遇だな。俺もまともにやったら千日手になる未来しか見えない。」

「まともにやったら?」

「そう、まともにやったら、だ。奴ら相手に勝つだけなら色々手はある。」

「センパイが悪い顔になってるよぉ。」

「まぁ見てなって。」

 リョウはそう言って、魔物を解体しているクレアのそばに行く。

「あ、分かっちゃったかも?」

 ニャオがボソッと呟くが、その言葉を無視して、クレアに三匹と模擬戦をしたいと言うことを伝える。

「いきなりね。どういう風の吹き回し?」

「いや、何か三匹の活躍が目立っているから、ここらで誰がリーダーか教え込んでおいた方がいいんじゃないかと思って。」

 その言葉が聞こえていたのか3匹がいきり立つのが分かる。

「はぁ……、『どっちが上か思い知らせてやるぜ』『お前は飯だけ作ってればいいんだよ』『女神様の側を彷徨くんじゃねぇ!』って言ってるけど?」

「上等だァ!コラァ!」

 リョウが放った火球が戦闘の合図となり、リョウvs召喚獣の戦いが切って落とされる。


「きゅいっ!」

 先手必勝とばかりにラビちゃんの電撃が放たれる。

 しかし、それを予期していたリョウは慌てずナイフを投げると、電撃はすべてナイフへと注がれる。

 所謂「避雷針」代わりだ。

「ちゅい、ちゅいっ!」

 すかさずアルがリョウの足下に穴をあけるが、リョウは咄嗟にジャンプしてそれをかわす。

「ぴぃ!」

 間をおかずに、ひよちゃんが風魔法のエアロカノンを放ってくる。

 空中なら避けられないだろうと考えたのだろうが、まだまだ甘い。

 リョウは、魔法障壁を張ってひよちゃんの魔法を弾き返す。

「今度はこっちから行くぜ……、炎よ来たりて降り注げ!ファイアーアロー!」

 無数の炎の矢がラビちゃん達に降り注ぐが、アルの張った水の障壁によってダメージはない。

 魔法を壁にして、近接攻撃をするために剣を抜き近づこうと試みるが、三匹のコンビネーションは絶妙で、近づく隙を与えてくれない。

 それならやはり、と遠距離からの魔法攻撃に切り替えるが、アルの張る障壁により、殆どの魔法は無効化され、逆にこちらの隙をついて、魔法が降り注いでくる。

「チッ!中々やるじゃないか。」

 その後も魔法の応酬がかわされるが、互いに決め手に欠け千日手の様相を見せ始める。


「やっぱりこうなるよなぁ。じゃぁここらで奥の手を。」

 ラビちゃんたちの魔法を防ぎながらリョウはつぶやくと、その呟きを聞いていたニャオから声がかかる。

「なんとなく想像ついちゃったけど、やめておいた方がいいんじゃない?」

「いや、男には引けない戦いというのがあるんだよ!」

 リョウはそういうと、一際大きな火球を放ち、相手の隙を作る。

 そして……。

「お前らっ、これで勝負ありだっ!大人しく降参しなっ!」

 リョウはクレアを羽交い絞めにして、自らの盾として目の前に突き出し、三匹に降伏勧告をする。

「きゅいっ!」

「ちゅい、ちゅいっ!!」

「ぴぃぴぃ!!」

 三匹から抗議の声?が上がるが何を言っているかはわからない。

 だから、リョウはさらに降伏を迫る。

「あのね、リョウ。あの子たち、かなり怒ってるんだけど?」

「センパーイ、それはどうかと思うよぉ?」

クレアもニャオも呆れた声を出す。

「勝てばいいんだよっ!クレア、あいつらに降伏してこっちへ来るように伝えてくれ。」

「……センパイがすごく悪役顔になってる。」

 ニャオの呟きを無視して、リョウは三匹に対して叫ぶ。

「どうした?早くしないと、お前らの大事なクレアが嫁にいけない体にされるぞ。」

「わぁ、センパイが悪役の雑魚キャラみたいな台詞を……。」

「えっと、お嫁に行けない身体って、私なにをされるの?」

 ニャオとクレアがかなり引いている気がするが、とりあえず後回しだ。

「さぁ、どうする?」

 リョウは再度降伏を迫る。

「きゅぃぃ……。」

「ちゅい……。」

「ぴぃぃ………。」

 三匹がうなだれながら近くまで来て、降伏だと言うようにお腹を見せる。

「よしよし、俺の勝利だな!」

 リョウは満足げに頷き、三匹のお腹を撫でる。

「うっわぁ~……ないわ~。」

「ないわね……。あなた達も泣かないのよ。」

 ニャオはこめかみを押さえ、クレアは召喚獣達を宥めている。

 引かれている気がする……ではなく、明らかにドン引きされていた。


「いや、あのな、こういう風に人質を取られるという可能性も考慮しないと、と言う教訓をだなぁ………おかしい、何でこうなった。」

 二人及び三匹からのジト目に耐えられずに、リョウは頭を抱える。

「センパイ、鬼畜の所業だよ?」

「違うんだぁぁぁぁ~~~~!」

 リョウは叫びながら走り出していった。


 ◇


「ということで、明日はいよいよボスに挑みたいと思う。だから今夜は遠慮なく食べてくれたまえ。」

 リョウはそういって召喚獣の前にご馳走を積み上げる。

「センパイがラビちゃんたちの御機嫌取りしてるぅ私の御機嫌も取ってよぉ。」

「なんか必死過ぎて哀れだわね。」

「お前らうるさいっ!仕方がないだろ。こいつらがへそ曲げたらボス戦が大変なことになるんだから。」

「ハイハイ、そこは素直にお姉ちゃんが心配って言えばいいのに。」

 ニャオが拗ねた口調で言う。

「違うぞ。俺はただ単に戦力的な問題をだなぁ……。」

「ハイハイ、そこは素直にお姉ちゃんのEカップが気になるって言えばいいのに。」

「さっきより酷くなった!?」

 

 結局、リョウは拗ねているニャオと、ドン引きしたままのクレア、怒っている召喚獣達のご機嫌を取るために駆け回る羽目になったのだった。


「えーと、ニャオさん?何か怒ってらっしゃいます?」

 山程あった食材も、大半がラビちゃん達召喚獣の胃袋に消える頃、リョウは、片隅でムスっとしながら飲み物を口にしているニャオに声をかける。

「べっつにぃ~。センパイが厚い胸部装甲にフラフラ~と引き寄せられてあんなことやこんなことをしようとしてるなんて思ってませんよぉ。」

「酷いいいがかりだっ!」

「お姉ちゃんを酔わせて、お嫁に行けない身体にするんでしょ!鬼畜だよぉ。」

「しないからっ!大体アルコールも無いのに酔わせる………なんて……こと……。」

 リョウの脳裏に嫌な予感がよぎる。

 ニャオのこのメンドクサい絡み方をどこかで見たような……。

「お姉ちゃんばっかり、ずるいよぉ。やっぱり胸なの?胸なんだねっ!」

 向こうを見ると、ラビちゃんがクレアに酌をしている。

 それを受けて飲んでいるクレアの頬が赤いのは、焚き火のせいだけじゃないだろう。

「クッ、またお前の仕業かっ!」

 止めに行こうと立ち上がろうとした時、ニャオが抱きついてくる。

「行っちゃ、やだぁ。」

「いや、しかし………。」

「私より、お姉ちゃんがいいの?」

 潤んだ瞳で見上げ、体重を預けてくるニャオ。

 ほんのりと桜色に染まった頬、艶やかな唇が色っぽさを醸し出している。

 そしてそのまま押し倒してくる……。

 抗うのは簡単だが、なぜかそんな気も起きずにジッとニャオを見つめる。

「いいよ………?」

「えっ?」 

「センパイになら……お嫁に行けない身体にされても……いいの。」

 そう言って、顔を近づけてくるニャオ。

 リョウは避けない……避けたくなかった。

 二人の距離がゼロに重なる……。

「く~………。」

 ニャオの安らかな寝息が聞こえる。

 ニャオの唇がリョウに触れるか触れないかと言うタイミングで、ガクッと力が抜けてニャオはリョウの胸元に突っ伏して寝てしまったのだ。

「チキショー!またこのパターンかよっ!」

 リョウの叫びはダンジョン内に響きわたるのだった。





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