第27話 真・ダンジョン攻略 ~序章~
むにゅ……。
無意識に動かした手のひらに伝わる、柔らかで弾力のある感触………。
むにゅ、むにゅ……。
手のひらを動かすと、それに併せて形を変える……暖かくて、柔らかくて……。
むにゅ、むにゅ、むにゅ、むにゅ……。
アッ、ア………ン……。
遠くで誰かの声が聞こえる気がしたが、構わず手の中の感触を楽しむリョウ。
その感触に酔いしれ、弄びながらも段々意識がハッキリしてくる。
ってか、俺は何を弄っているんだ?
意識が明瞭になるにつれ沸き上がってくる疑問。
手のひらに伝わる柔らかさと弾力………まさかこれはっ!
リョウはあることに思い当たり冷や汗が流れるのを感じる。
しかし、リョウの手は吸い尽いたように離れない……と言うか離したくない。
揉む度に形を変え、力を抜けば元の形に戻る。手のひらから溢れんばかりの大きな弾力のあるソレはまさしくロマンであり、その誘惑は絶ち難く、抗える者などいないだろう。
いつまでもこうしていたい……そうこの弾力のある柔らかさと、肌に感じる毛触りに溺れていたい………。
……ん、毛触り?
違和感を感じたリョウの意識が覚醒する。
目を開けると、抱きつくようにして眠っているニャオの顔がある。
その可愛らしい寝顔を見ていると良からぬ感情が沸き上がってくるため、慌てて顔を背ける。
右隣にはリョウの足下で寄り添う様にして寝ているクレアの姿が……。
そして、リョウの右手は、そのクレアの豊満な胸の上………で寝ているラビちゃんのお腹をむにゅ、むにゅとしていた。
「ホント毛触りは最高だよな……。」
暫くラビちゃんを撫でた後、二人を起こさないようにそっと起き上がる。
昨夜は、変な体勢のままそのまま寝てしまったせいか身体の節々が痛い。
リョウは、ぐっと伸びをすると焚き火のそばへと近付く。
火が消えかかっているので、新たに薪をくべて炎を大きくする。
このあと、朝食を作るので火を消すわけにはいかなかった。
「はぁ、また衣食住で悩むことになるとは。」
お湯を沸かしながらリョウは呟く。
ダンジョンの中とは言え、ずっと装備を着用したままでは疲れもとれない。
せめてセーフポイントにいる間だけでも、楽な格好をして、気を抜く時間を作らないと精神が持たない。
幸いにも、アイテムボックスの中に以前着ていた衣類が入っているから衣食住の「衣」については後回しでもいいだろう。
となると、当面考えることは「食」と「住」だが、住に関しては当面はこの小さいテントで我慢してもらうとして………。
リョウは、リヨンの街のギルドで用意したサバイバルセットを取り出しチェックをしていく。
「ヤッパリ食料だよなぁ。」
取り出した干し肉と凍らせた野菜を取り出し、鍋の中に適当にいれていく。
「ニャオとクレアが、どれ位しまい込んでるか分からないけど、あったとしても3日分が良いところだろうなぁ。」
前回、元の世界に戻る前にありったけの食材を使ってパーティーをしたことを思い出す。
今リョウが持っている食料はそのときの残りだった。
多分ニャオもクレアも似たようなものだろうと推測する。
「何が三日分なのかにゃぁ?」
不意に背後から声がかかり、柔らかな感触がリョウを包み込む。
「勝手に離れちゃヤダ。」
そう言って抱きつく腕に力を込めるニャオ。
その様子を見て、また不安定になっているのだろうと思い、ニャオの頭を優しく撫でながら数日前クレア……紅羽との会話を思い出す。
◇
「奈緒と一緒に暮らす?」
「えぇ、何でも昨日から小母様が長期の出張に出てしまわれたそうで。」
放課後の教室、涼斗と紅羽が珍しく話しているのを、暇なクラスメイトたちは遠巻きにしてみている。
と言うのも、涼斗は放課後になるとさっさと帰ってしまい、紅羽は数人の友人と図書館に行くのが常だったため、教室にいること事態稀なのだ。
さらに言えば、今まで席が隣であるにも関わらず、会話をしたこともなかった二人が数日前から何かにつけて会話するようになったのだ。
しかも、よくよく注意してみてみれば、紅羽の方から積極的に話を振っているとなれば、先日の連休中に、二人の間に何かあったのだろうと邪推する者がいてもおかしくはない。
そうでなくても、美少女である紅羽が自ら積極的に男子生徒に話しかけていれば注目されて当然ともいえる。
流石に、ジッと不躾に視線を送ってくる者は居ないが、それぞれに会話をしながらもこちらの様子を伺っているのが分かり、涼斗としては落ち着かないことこの上ない。
(余り大きな声で言えないんだけど、小母様から内密に奈緒をよろしくって頼まれているの。)
大きな声で言えない、と紅羽が耳元に口を近づけて囁いてくる。
途端にざわめきが大きくなる教室内。
涼斗は直ぐにでも逃げ出したい衝動に駆られたが、奈緒美と教室で待ち合わせているため、動くに動けない。
(何かね、余り夜眠れないみたいで、小母様と一緒にいてようやく眠るんだって。それで一人にするのが不安でって。……ずっと連絡してこなかった小母様が連絡してくるぐらいだから、かなり重症なのかも?)
「なるほどね、だからその間だけでも奈緒と一緒にってことか。」
涼斗は紅羽と距離をとってそう答える。
「だからね、涼斗クンも一緒に暮らさない?」
紅羽の問題発言に、さらに教室内のざわめきが大きくなる。
「だから、そう言う冗談はやめてって。あー、もう行くぞっ!」
このままここにいたら収拾がつかなくなると判断した涼斗は、二人分の鞄と紅羽の手を取って教室から逃げ出す。
奈緒美とは途中で合流すればいいだろうと考えながら、教室を後にするのだが、その一連の行動がさらなる誤解を招いていると言うことに最後まで気付かなかった。
その二日後、涼斗は奈緒美のことで紅羽から相談を受けていた。
「……と言うわけで、夜は一緒に寝てるのよ。」
前回の失敗から学び、中庭で話をしているのだが、内容が内容だけに、余り人に聞かれたくはなく、自然と二人の距離は近くなっている。
「奈緒ね、夜中に起きて「お姉ちゃん」って呼ぶのよ。朝になると忘れてるみたいだけど……。」
「まぁ、原因はアレだな。それで情緒不安定になっていると思うんだけど……正直どうしていいか分からん。」
「私も分からないわ。ただ私も最近寝付きが悪かったけど、奈緒が来てからは不思議と安心できるの。だから奈緒も同じように感じてくれていたらいいなって思うわ。」
紅羽の言葉を聞いて、紅羽もトラウマを抱えていたことを初めて知る涼斗。
冷静になって考えてみれば、涼斗だって何度も悪夢にうなされて夜中に飛び起きているのだから、涼斗や奈緒美と同じように精神攻撃を受けていた紅羽だけが何事もないという事はないはずだ。
ただ、紅羽はその持ち前の精神力で表に出さないだけで、裏では苦しんでいたんだという事を知り、無意識に抱き寄せる。
紅羽も抗わずに身を委ねてくる。
「二人が一緒にいて落ち着くなら、とりあえずそれでいいんじゃないか。」
涼斗がそう言うと紅羽は何も言わず、ただコクンと小さく頷き、さらに体重を預けてくる。
今日はここで奈緒美と待ち合わせているのだが、奈緒美が来るまでまだ少し時間がある。だからそれまではこのままでいようと思う涼斗だった。
「うぅ、センパイの浮気者~!」
当然の事ながら、そんな二人を見た奈緒美が拗ねてしまい、ご機嫌を取るために一杯千円もするDXパフェを奢らされる涼斗だった。
ちなみに涼斗達のいた中庭は教室から丸見えで、涼斗が二股をかけていて、それがバレて修羅場だったという噂が流れる事になる。
◇
「よく眠れたか?」
リョウはニャオの頭を撫でながら声をかける。
「ウン、ここ安心出来るから……。」
まだ完全に覚醒していないらしく、トローンとした目でリョウを見つめたあと抱きついたまま胸に顔を埋めてくる。
こうなってしまうと、リョウは動くに動けず、目の前の鍋が焦げ付く前に、クレアが起きるかニャオが離れてくれることを祈る事だけだった。
「取り合えずは情報収集が必須だな。」
食事を終え、一息ついたところでリョウが今後の予定を話し出す。
「これ以上どんな情報が必要なの?それより食料の方が大事だと思うんだけど?」
クレアが疑問を口にする。
「それも大事なんだけど、まずは聞いてくれ。今回の最終目標は一ヶ月半以内に地上へ戻ることだ。そのためにこなすべき大目標は、ボスである地竜を倒すこと。ここまではいいか?」
リョウの言葉にクレアとニャオが頷く。
ビジネスマンの父親から薫陶を受けて育った紅羽には、こういう話の持って行き方が分かりやすいらしい。
「そして地竜を倒せるだけの条件を整えること、つまりレベルをあげたり装備やスキルを整えたりする事が中期目標になる。具体的に言えば、俺達のLvを最低20以上、ニャオは『疾風斬』の取得、クレアは風属性か木属性を持つ仲間を得るか魔法を取得、俺は風属性の魔法の取得と中級の回復薬の作成ってところか。」
ニャオとクレアはウンウンと頷く。
「その中期目標を達成するために必要なのが、どこにどんな魔獣が出て、どの魔獣を倒すのがレベルアップ効率がいいか?とか、どこにどんな素材があるのか等の情報を集めて分析することだ。勿論どこに食べ物があるのか?食べることができる魔獣はいるのかって言う情報も必要だよな。」
「よく分かったわ。それでまずどうすればいいのかしら?」
「まずはマッピングだ。」
「まっぴんぐ?」
「地図を作ることだよ、クー姉。」
聞き慣れない言葉を聞いたと、不思議そうな顔をするクレアに説明をする。
「ミシェイラの話では、ボス部屋を囲むように通路が巡っていて、その途中途中に広場が存在しているとのことだった。そして今俺達がいる場所は一番最奥のセーフティエリアだ。だから先ずはこの先の様子を探りながら、何がどこにあるのか?どこにどんな魔獣がいるのかをチェックする。それが出来てからその先のことを考えようか。」
「ウン、了解。出来れば食べれる魔獣がいるといいね。」
「新しい子に会えると良いわね。」
「きゅいぃぃぃ……。」
「ちゅいぃぃ?」
「あはっ、その子達拗ねてるよ。」
「ハーレムを作るなら序列の管理をしっかりな。」
「ち、ちがうのっ。ハーレムとかそんなんじゃないわよっ!」
「こいつ等はその気のようだぞ?」
「えっ?」
クレアが振り返ると、そこでは一触即発と言った感じでラビちゃんとアルが睨みあっていた。
「きゅいっ!」
ラビちゃんの背に稲妻が輝く。
「チュイッ!」
アルの周りに無数の石礫が浮かび上がる。
「きゅいぃぃぃ!」
「チュィィィィ!」
2匹の魔力が中央でぶつかり合い、膨れ上がっていく。
「いい加減にしなさいっ!」
パシッ!パシーンッ!
小気味よい音が響き渡る。
「きゅい……。」
「ちゅぃ……。」
二匹が頭を抱えてうずくまる。
「相変わらず芸の細かい奴らだなぁ。」
「うーん……。」
呆れるリョウとニャオ。
「仲良くしないと置いていきますよ。」
クレアがハリセンを片手に二匹を睨む。
「きゅぃぃ……。」
「ちゅぃぃ……。」
2匹が床に頭をすり付けてクレアに謝っている。
「ホント、どこであんな芸を覚えてくるんだよ。土下座する魔獣なんて始めてみたぞ。」
「あはっ、あはは……。」
「なんか、色々台無しだな。」
「私達らしくていいんじゃない?楽しくいこうよ。ねっ、センパイ。」
「そうだな、……行くか。」
「ウン!」
ラビちゃんとアルに説教をしているクレアをおいてリョウとニャオはダンジョンの通路へと足を踏み出すのだった。
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