第25話 再び異世界へ
ぐおぉぉぉぉぉぉ~!
扉を開けた途端、中から獣のような雄たけびが地を震わすように響き渡る。
「サイクロプスかっ。みんな気合い入れて行けよっ!」
リカルドがそういって飛び出していく。
「うぉぉぉぉ!」
リカルドがヘイトを集めるスキルを使用すると、サイクロプスの攻撃がリカルドへと移る。
ガシッ!
サイクロプスが振り下ろした棍棒を、リカルドの大楯が受け止める。
「今よっ!」
アルビナスが、そう叫びながらサイクロプスに切りかかる。
それに続いてニャオも攻撃を仕掛ける。
二人とも一撃が重いタイプではないため、その分手数を増やす必要があり、二人は間断なく攻撃を繰り広げる。
「そろそろ行きますか。」
二人の攻撃のタイミングを見ていたニルスが火球を放つ。
その火球は、二人が攻撃を加え、離れた直後にサイクロプスを襲う。
一歩タイミングがずれれば、二人に当たり兼ねない絶妙なタイミングだった。
「さすがですね。」
ゲームのシステムが変わっても、長らく一緒に冒険をした間柄だけに、攻撃の呼吸はお互いつかんでいる。
「クレイウォール!」
サイクロプスが一歩踏み出した場所の床が盛り上がり、そのためにバランスを崩す。
サイクロプスの体勢が崩れたところにアルビナスとニャオの攻撃が叩き込まれ、二人が離れたタイミングでニルスの火球が命中する。
サイクロプスは何とか反撃を試みようとするが、その都度、リカルドの挑発に乱され、クレアによって体勢を崩される。
「いい感じだけど……ヒ-ル!」
戦闘のルーティンが安定してきたため、後は同じことを繰り返していくだけの簡単なお仕事だ。
しかも攻守のバランスがいいため、ヒーラーであるリオンはたまにリカルドにヒールをかけるだけで他にやることはない。
つまり暇だったため、周りを見る余裕があったことが功を奏した。
何十回と繰り返し攻撃を加え、サイクロプスの残りHPが1割を切った辺りでそれは起こった。
「危ないっ!みんな下がってっ!」
最初に気付いたのは、余裕があったリオンで、皆に危険を知らせるように叫ぶ。
いきなりの事だったが、お互いに慣れた間柄の為、考えるより早く体が動いた。
ただクレアだけは反応が遅れたため、ミュウがその身を引きずるようにして下がる。
グシャァっ!
目の前でサイクロプスが何かに踏みつぶされる。
どぉぉぉぉぉ~~ん!
踏みつぶした反動で地面が揺れ地響きが鳴り響く。
「きゃぁっ!」
足元がおぼつかなくなり倒れそうになるニャオとクレアを受け止める。
「二人とも大丈夫?」
「ウン大丈……えっ?」
三人の周りの空間が歪む。
前方ではサイクロプスを踏み潰した何かに弾き飛ばされる、リカルドの姿があった。
◇
「クッ……、今のは……皆無事か?」
リョウはそう言いながら周りを見回す。
「ウン私は大丈夫……ってセンパイ?」
ニャオが被った土を払いながら答え、リョウの姿を見て驚く。
「リョウに戻ってるわね。」
「えっ?」
クレアに言われて自分の身体を見直す。
身に付けているのは魔女っ娘ドレスではなくスタンダードな皮鎧だ。
鏡がないから分からないけど、顔の造作も戻っているのだろう。
「のんびりしている余裕無いみたいよ。」
ニャオがそう言って二人を庇うように立ち上がる。
前方には巨大な魔獣が此方を見ている。
「あれは……地竜か。」
亜竜と呼ばれる、竜族の中でも下位種に属する魔物だ。
ブレスも吐かないし、魔法も使えないが、竜族に連なるだけあって、その力と耐久力はそこらの魔物の比ではない。
USOでは大体LV30位が推奨とされていて、こんな始まりの街近くにあるダンジョンに出てくるような敵ではない。
「というか、ここってUSOの中……じゃないよな?」
装備は、先日買い揃えた物になってはいるが、この感覚は……。
「リョウの思っている通りよ。」
その声に振り向くと、ラビちゃんとアルを召還したクレアが身構えている。
「そいつ等がいるって事は、ヤッパリ……。」
「二人とも、そう言うのは後っ!」
ニャオの叫び声を聞いて、二人は意識を地竜に向ける。
ヒットアンドアウェイを繰り返すニャオだが、地竜の外皮は堅く、ダメージを与えているようには見えない。
「きゅいっ!」
ラビちゃんの電撃が迸る。
しかし、電撃は地属性に対しては、その威力がかなり減衰されてしまうため、矢張り大したダメージを与えられない。
「ちゅい、ちゅいっ!」
「ニャオ、下がってっ!」
アルの鳴き声を聞いて、クレアが叫ぶ。
その声に従い、ニャオが地竜との距離をとると、天井が崩れ瓦礫が地竜に降り注ぐ。
「今の内、コッチよ!」
不意に背後から聞こえる、聞き覚えのある声に従って、リョウ達はその場を離れる。
◇
「とりあえず、ここは安全よ。」
地竜が居た場所からかなり離れたところにある、小部屋のような少し開けた場所に着くと、リョウ達を導いていたピクシーがそう言って振り返る。
「説明、してくれるんだろうな?ミシェイラ。」
リョウは目の前のピクシーにそう声をかける。
「ミシェイラ、また会えて嬉しいけど……どう言うことなのよ?」
ニャオもミシェイラに詰め寄る。
クレアは何も言わないが、非難するかのようにじっと見つめている。
「ちょっと落ち着いてよ。ちゃんと説明するから……でもチョットだけ休ませて……。」
ミシェイラはそう言うとその場に崩れ落ちる。
「ミシェイラっ!」
クレアとニャオが慌てて近寄り、ミシェイラの身体をすくいあげる。
「怪我はなさそうだし疲れと魔力枯渇ってところか……彼の者に安らかなる癒しを……リフレッシュ!」
リョウはミシェイラの容体をそう見て取ると疲労回復の魔法をかけてやる。
「ミシェイラが起きるまで、俺達も身体を休めておいた方がいいな。」
リョウはそう言うと、その場で火を熾すための薪をアイテムボックスから取り出す。
それを見てニャオもクレアも、思い思いに野営の準備を始める。
薪に火がつくと、薄暗かったその場所が明るくなり、周りの様子が見て取れる。
その場所は、10m四方の小さな部屋となっていて、リョウ達がさっき来た道の行き止まりになっている。
つまり、警戒するのはその一方向だけで良いと言うことだ。
「ここはやっぱりアナザーワールドよね?」
クレアがラビちゃんを撫でながらそう呟く。
「そうだろうな。」
リョウは頷く。
ミシェイラが居るだけならともかくとして、ラビちゃんとアルが召還されているんだから間違いないだろう。
因みに「アナザーワールド」と言うのはリョウ達が勝手につけたこの世界の呼び名だった。
最初は「異世界」とか「あっちの世界」と言っていたのだが、名称があった方がいいだろうと言うことでリョウが勝手に名付けた。
「またミシェイラが呼んだのかな?」
ニャオが眠るミシェイラを見ながらそう言う。
「そんな感じには見えなかったけどな……っとあった。」
リョウはニャオに答えながら、アイテムボックスを探り、目的のものを取り出す。
鍋にヤカンに各種カトラリー。
つい先日までこちらで使っていたモノだ。
USOでは持ち物の中になかったので心配していたが、こちらでしまっておいたモノはそのまま残っている。
そして、USOで新たに手に入れたモノもちゃんと存在していた。
例えば、リョウやニャオの持っている剣は、以前ゴブリンから取り上げた物ではなく、帰還してからUSO内で新調したものだ。
「とりあえず、今はミシェイラが起きるまでまとうか。」
やかんに水を入れ、火にかける。
お湯が沸くのを待つ間に、ポットの中にハーブと茶葉を入れる。
そんな作業をしながらリョウは気持ちを落ち着かせる。
リョウも今の状況に混乱していたが、そんな事を言い出しても二人を更に不安にさせるだけと言うくらいは分かっていたので、あえて平静を装っていたのだった。
◇
「ふわぁぁ~……ん、どうしたの?」
ミシェイラが目を覚ますと周りの様子がおかしい事に気付く。
三人とも真っ赤な顔をしていて、ミシェイラと目を合わせようとしない。
怒っているというわけでも無さそうだ。
どちらかというと、気まずいとか照れているとか、そんな感じの様にも見える。
「えっと、みんな………?」
「あ、ウン、とりあえず気にしないで。それより服を着た方がいいよ。」
言われて初めて自分が服を着ていないことに気付くミシェイラ。
「えっ、何で?私いつの間に………。」
思わず呟く。意識を失う前はしっかりと衣類を身につけていたはず。
チラリとニャオを見ると、彼女は慌てて目を背ける。
「えっと………何かした?」
「な、何のことかなぁ?」
あからさまに惚けるニャオを見て、何かされたことは間違いないと確信する。
問題は何をされたか?と言うことだが……。
自分の裸体に、横にきちんと畳まれた服……。
「まさか……。」
「俺は止めたぞ。」
「だ、大丈夫よ。ギリギリセーフよ……多分。」
「せ、責任はちゃんととるからっ、ねっ、ねっ。」
いきなり慌て出す三人を見てミシェイラは叫ぶ。
「私、何されたのよぉ~!」
◇
「グスン……もうお嫁に行けない。」
ガックリと落ち込むミシェイラの頭をポンポンと軽く叩いて慰めるラビちゃん。
「ラビちゃんが責任とってくれるって。良かったね?」
「よくないよっ!……ホントに何されたんだろ、私……。」
「そんな事より、取りあえず事情を話してくれないか?何で俺達をまた呼んだのか?」
落ち込むミシェイラを見て、話題を変えるべく、と言うよりそろそろ本題に入れと、リョウが話を降る。
因みにミシェイラには何もしていない。
寝ているミシェイラを見て、悪戯心を起こしたニャオが裸に剥いただけだ、起きたらびっくりするだろうと……。
ただ、人間サイズであればクレアに匹敵すると思われるその膨らみを見たとき、ニャオの中で何かが切れたらしく、チョット色々あったところでミシェイラが目を覚ましたというだけだ。
「そんな事って……うぅ、そんな事って……。」
「いいから説明して。でないと本当にお嫁に行けない身体にするよ?」
落ち込むミシェイラを脅すニャオ。
「うぅ、分かりましたよぉ……。グスン。」
ミシェイラは、気を落ち着かせるために黙り込み、暫くしてから口を開く。
「今回の召還は予定外の事故です。」
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