第24話 ダンジョン攻略
SLO時代の仲間と偶然出会ったリョウ達は、街外れのカフェにて昔話に花を咲かせていた。
とは言っても、喋っているのはニャオとSLO時代のギルドメンバーの3人、アルビナスとリカルド、ニルスの4人が中心だった。
「ねぇ、リョ……リオン。ニャオがあなた以外とあんなに喋るの初めて見たんだけど?」
「うん、そうね。ニャオとあの人達との付き合いは私より長いからねぇ。それにSLOの『ナオト』はいつもあんな感じだったよ。」
だから、現実の奈緒美が人見知りと言うのが信じられなかったとクレアに伝える。
「私からしてみれば意外すぎるわ。そのSLO?の時のあなた方ってどんな事をしていたの?」
ニャオが3人と話し込んでいるので、自然とクレアの話し相手はリオンになる。
そんなクレアの疑問に答えるべく、リオンは思い出しながら話し始める。
「えっとSLOでは「プレイヤーギルド」って言うのがあって、まぁ簡単に言えば仲良しグループだと思ってくれればいいんだけど、その内の一つ「アルビオン」って所に私とニャオは所属していたの。」
クレアを見ると、フンフンと頷きながら聴いている。
「で、あの3人がそのギルドの取りまとめ役みたいなもので、ニャオ……ナオトはギルド結成当時からのメンバーだから、あの3人とは特に仲がいいのよ。」
「そうなんだ。で、その「ギルド」って何をやってるところなの?」
「やってるところって言うか、単なる気の合う仲間が集まって雑談したりしてるのが殆ど。たまにイベントに行ったり狩りに行ったりしてるけどね。」
「そうなの?」
クレアがわかったようなわからないような顔をしていると横から声がかかる。
「リオンちゃん、ごまかしはダメだよぉ。色々やらかした武勇伝を語らないとねぇ。」
「そうだそうだ!」
「まぁ、アルビオンが有名になったのはリオンのせいだしな。」
「ゴメン、コレばっかりはフォロー出来ないよ。」
今まで4人で話していたはずなのに、いつの間にかこちらの会話に加わってくる。
「どう言うこと?」
クレアがリオンとニャオの顔を見る。
「………。」
「あはは……。」
リオンとしては色々やらかした自覚はあるが、知ればドン引きされること間違いないため自ら話す気はない。
それをわかっているためニャオは笑ってごまかしている。
「嬢ちゃん、SLO時代のリオンって言ったら、トラブルメーカーとして有名だったんだぞ。殲滅天使とか悪魔の鬼姫とか二つ名がたくさんあってだなぁ……。」
曰わく、イベント集会の真ん中で自爆テロを引き起こす。
曰わく、転売ヤー相手に喧嘩を売って壊滅させる。
曰わく、イベントの中心となる村のNPCになりすまして場を混乱させる。
曰わく、ミスコンを主催した上で優勝をかっさらう、等々………。
リカルド達によって過去の所業がバラされていく。
「私は提案しただけで、みんなノリノリでやってたじゃないの。それにいきすぎるのはいつも皆じゃないのよ。私は悪くないわよ。」
リオンは一応反論しておく。
ギルド・アルビオンには古参のプレイヤーが数多くいて、プレイ年数が長くなるほど娯楽に餓えるプレイヤーが多くなる。
そんな中で面白そうなことを提案すれば、皆ノってくる。
そして、更に悪ノリするのがわかっていて煽るのがリオンの役目だった。
結果としてアルビオンの悪名が高まっていくのは必然と言えよう。
「……。」
そして色々聞いたクレアはやはり引いていた。
「ナオト……っと、今はニャオだったか、とリオンは今後どうするんだ?」
リカルドが聞いてくる。
何でも、リカルド達は近々解放されるプレイヤーギルドイベントをこなしてプレイヤーギルドを立ち上げる予定なんだそうだ。
そのためにも今から情報を集めたり仲間を捜したりしているんだそうだ。
「よかったら、そっちの嬢ちゃん共々俺達のギルドに来ないか?」
ニャオは、そう誘ってくるリカルドを見た後、リオンに視線を向ける。
その視線を受けてリオンはリカルド達に答える。
「お誘いは嬉しいんだけど、私は今日偶々ニャオに誘われてログインしてるだけで、次いつログインするかわからないの。だからゴメンねぇ。」
正式アカウントじゃないからフレ登録も出来ないと告げて断る。
嘘は言っていない。実際リオンとして次にログインするのはいつかわからない、と言うか二度と無いであろう。
「そっか、残念だけど、色々事情があるんだろ。ニャオとそちらの嬢ちゃんは?」
「ゴメン、私達今はいないけどもう一人のメンバーと固定パーティー組んでるの。ギルドに入るとしても三人で新しく立ち上げると思う。」
「そうか、残念だけどそういう事情なら仕方が無いな。まぁ気が変わったらいつでも声をかけてくれよ。」
リカルドは本当に残念そうに肩を落とす。
「それはそれとして、三人ともまだ時間あるなら少しつきあってくれない?」
そう言ってくるのはアルビナス。
折角だから皆で近くのダンジョンを攻略しようと言うことらしい。
ニャオは、次いつ会えるかわからないから、記念に一暴れしようと、それを承諾。
ただ準備があるから、と30分後にダンジョンの入り口前で待ち合わせることにして、その場は分かれることになった。
◇
「はぁ、マジでダンジョンいくの?こんな格好で?」
「もちろん着替えるよ……ってそうかセンパイはそのままじゃないとマズいよね。」
変装キットの制約の一つに装備の変更不可と言うのがある。
変装キットを使ったときの装備から変更すると、変装キットの効果が解けるのだ。
つまり、リオンで居るためにはこのままでいるしかないわけで……。
「まぁ、NPCでかけれる限界までエンチャントかけてもらえば皮鎧程度の防御力は確保出来るでしょ。幸いにも目的にダンジョンのボスは物理主体みたいだしね。」
リオンがそういうと、ニャオはしばらく何かを考えた末に「私たちもこのままでいっか。」と告げてくる。
「今回は、リカルドって言うタンクがいるから大丈夫だよ。それに今のレベルで準備できる装備じゃぁ、あそこのボスにたいしては大差ないだろうしね。」
「そうなの?」
ニャオの言葉に、クレアが確認をとろうとリオンの方を向く。
「うん、予定しているダンジョンのボスはサイクロプスだから、この辺りで手に入れる装備では、強化したフルプレートアーマーじゃない限り、一撃も耐えられないよ。………ん、どうかしたの?どこか具合でも悪いの?」
クレアがすごく難しい顔をしているので、心配になったリオンはそう声をかける。
「あ、いえ、そうじゃなくて……本当に涼斗クン?なんか違和感がすごくて……。」
「……言わないで。考えないようにしてるんだから。我に返ったら羞恥心で10回は死ねる…………私はリオン、私はリオン。蔓延る悪にお仕置きする魔法少女よ!」
自己暗示をかけるかのように、そう叫ぶリオンを見ながら、クスクスと笑うニャオ。
「クー姉、リオンちゃんはリオンちゃんだよ。深く考えたらダメなんだよ。」
そう言って抱きついてくるニャオを優しく受け止め抱き返す。
端から見れば百合百合しい光景で、傍観者の立場であれば「ご褒美」なんだろうが、当事者としては複雑な心境だったりする。
まぁ、ぎゅっと抱きしめ返したときに感じるニャオの身体の柔らかさを、目一杯堪能出来たことは役得ではあるが。
素面では……リョウの姿では、こんなことは絶対不可能だとわかっているので、余計にそう感じるのだった。
結局、街中でニャオの双剣とクレアの杖とリオンの装備を強化し終えて、待ち合わせ場所のダンジョン入り口に着いたのは、約束の時間を10分ほど過ぎてからだった。
「遅いよ、待ちくたびれたよ。」
「ゴメンねぇ。リオンちゃんとイチャイチャしてたら遅れちゃった。」
文句を言ってくるアルビナスに悪びれもせずにそう言うニャオ。
その様子を不思議そうな表情で見つめるクレア。
普段の奈緒美とのギャップを感じているのだろうが、「そう言うもの」と割り切って貰うしかないので、あえて放置するリオン。
「あー、一応ロールを確認するぞ。」
リカルドがリオン達を見ながらそう言う。
(ねぇ、ロールって何?)
(戦闘時の役割みたいなもの。聞いてればわかるよ。)
小声で聞いてくるクレアに対し、やはり小声で答えるリオン。
「タンクが俺で物理アタッカーがアルビナスとナ……ニャオ。スペルキャスターがニルスとそっちの……クレア?で、ヒーラー兼バッファーがリオンでよかったか?」
「えっと、私まだ補助系の魔法使えないからバッファーは無理。後エリア使えないから回復も時間かかるからね。」
リオンがそう言うとリカルドはわかったと頷く。
そして、細々とした取り決めをした後、ダンジョンの中に潜っていく。
先頭は斥候スキルを持つアルビナス。
そのあとにリカルド、ニルスと続き、リオンとクレアが並んで進む。
殿はニャオが務めている。
ヒーラーと魔法使いを中央に置く、スタンダードな隊形だ。
「そういえば、クレアは戦えるの?」
リオンは隣を歩くクレアに訊ねる。
向こうではラビちゃんとアルという召喚獣がいたが、こちらではまだ召喚獣を得ていない。
初級の魔法も習得をしていなく、以前は弓で攻撃をしていただけなので少し心配になったのだ。
「う~ん、まだ慣れないわね。見た目との違和感がないのが余計に……。」
「ここを攻略するまで我慢してよ。私だって我慢してるんだから。」
「あは、ごめんね。それと戦えるかって話だったわよね。これがあるから心配ないわ。」
そういって、クレアはリオンに奇麗な石がはまったアクセサリー……腕輪とネックレスを見せる。
「それは?」
「あの子たちの召喚石よ。こちらでは償還できないみたいだけど、代わりに力を使えるみたいなの。」
クレアの説明では、そのアクセサリーを身に着けていればラビちゃんの電撃とアルの土魔法、水魔法が使えるようになるらしい。
「それなら大丈夫そうね。少なくとも私より火力がありそう。」
リオンはそう言い、自分はヒーラーに徹すればいいかと考える。
「着いたぞ。」
大きな扉を目の前にして、リカルドが歩みを止める。
この扉の向こうがボス部屋らしく、ここで最後の点検と確認をするとのこと。
最も、ここに来るまでに数回の戦闘があったが、殆どリカルドとアルビナスで仕留めていたので消耗は皆無だ。
「じゃぁ、行くか。久しぶりに暴れるぞ!」
「「「「おー!」」」」
「お、おぉー。」
リカルドの号令に、皆の声が重なる……そのノリに慣れていないクレアの声が遅れているのはご愛嬌というものだろう。
一同はそんなクレアを生暖かい目で見守りつつ、ボス部屋の扉を開けるのだった。
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