第21話 Re:スタート
STRかINTか……。
それともSPDに振って底上げをするべきか……。
涼斗は授業中にも拘らず、別のことで頭を悩ませていた。
STR 15→18
INT 20→26
DEX 15→18
SPD 10→13
LUK 10→20
ノートに書きこんだアルファベットと数値を何度も見直すがいい案が浮かばない。
時折、ちらっと隣からの視線を受けるのが気になるが、今はとりあえずスルーしてく。
涼斗が悩んでいるのはUSOにおける自分のステータスについて。
USOというのは先日リリースされたばかりの次世代型VRMMORPG のタイトルだ。
オープン直後にある事件に巻き込まれたせいで碌にプレイをしていないのだが、昨日いつものパーティメンバーのニャオとクレアを伴って狩りをしている途中にレベルアップし、そこで初めて自分のレベルがすでにいくつか上がっていることに気づいたのだった。
USOは究極のスキルという名を冠するように、スキルがモノをいうシステムになっているが一応キャラクターレベルも存在する。
キャラクターが1レベルアップする毎に1~3ポイントステータスがアップする。
どのステータスがどれぐらい上がるかは完全にランダムで、一説にはそのキャラクターの種族特性、ジョブ特性、行った行動などから計算されていると言われているが、はっきりと公言されていいない。
また自動で上がるポイントとは別に自由に割り振れるボーナスポイントが1ポイント付与される。
自由に割り振れるので、高いステータスをさらに伸ばすのもよし、低いステータスに割り振って底上げをするのもよし、……これが現在涼斗を悩ませている原因であった。
涼斗のキャラクター『リョウ』は昨日のレベルアップで11になった。
ノートに記した数値は左側がプレイ時の初期数値で右側が現在の数値だ。
1レベルで1~3ポイントのアップ、10レベル上がると10~30ポイントアップする中で『リョウ』のステータスは合計25ポイントアップしていた。
これは中々優秀なのではないかと思うが、Lukのステータスの伸びの大きさが少し気になっていた。
思い返してみれば、ニャオとクレアと一緒に過ごしている間、あんなことやこんなことなど、ラッキーといっても差し支えないことが多々あった。
そう考えれば、キャラクターの行動が影響を与えるというのもあながち間違っていないのかもしれない。
キーンコーンカーンコーン……。
授業の終わりを告げるチャイムが鳴ると同時に、教師は教室を出ていく。
すると教室内は途端にざわめきを取り戻す。
「涼斗クン。お昼どうするの?」
隣の席の加納紅羽が声をかけてくる。
と、同時に、教室内から羨望と嫉妬の入り混じった視線が涼斗に向けられる。
紅羽が教室で声をかけてくるようになって10日が過ぎようとしているが、いまだにこの手の視線はなくならない。
「あぁ、いつものところ。」
「じゃぁ私も一緒していいかな?」
紅羽がそういうと、周りの騒めきが大きくなる。
「あ、あぁ、そうだな、奈緒に用があるんだろ?早く行こうか。奈緒が待ってるぞ。」
涼斗は少し大きめの声でそう言うと、クレアの手をつかんで逃げるように教室を出る。
屋上に上がる階段の手前まで一息に移動し、周りに人気がいないのを確認してようやく一息つく。
「えっと、そろそろ手放してもらえる?」
言われて初めて、紅羽の手を握っていたことに気づく涼斗。
「あ、ごめんっ!つい……。」
「強引ね。」
紅羽がくすくすと笑いながら言う。
「仕方がないだろ。あの場にあれ以上いたら俺が視線で射殺される。」
「わかるけど、最近色々言われるのって私のせいじゃなくて涼斗クンのせいじゃないかって思うのよねぇ。」
狭い隙間を縫って進みながら屋上への階段を上っていく。
「あん?どう考えても紅羽の人気のせいだろ?」
屋上へ続くドアを開けると、少し肌寒い風が吹き込んでくる。
「ん~、でもね、さっきみたいに私の手を握ったり、この間は奈緒をお姫様抱っこしたんでしょ?」
「あれは不可抗力だ。」
あの時は、知らない男子生徒に声をかけられて困っていた奈緒を、たまたま通りがかって見つけた涼斗が連れ出して助けただけという話だ。
ただ、その連れ出すときに、奈緒を抱えて逃げるようにしてその場を後にしたため、それを目撃した女生徒から、噂が広まったらしい。
「だからと言って、お姫様抱っこはないんじゃない?」
「そうそう、アレで私の彼氏だって噂が広まったんだよ。」
先に来ていた奈緒美が、涼斗たちに手を振りながらそう言って会話に加わる。
「……そんなことになっているのか。悪い、迷惑かけた。」
「大丈夫だよ。否定してないからね。」
笑いながらそう言う奈緒美。
「いや、否定しろよ。」
「ちなみに、涼斗君は『可愛い後輩の彼女がいながら、私に言い寄っている二股男』という風に言われてるらしいわ。」
「マジか……。」
涼斗はその場に膝をつき、がっくりと項垂れる。
そんな涼斗を見て紅羽は笑いながら話す。
「大丈夫よちゃんと否定しておいたから。」
「助かる。」
「涼斗君が私に言い寄ってるんじゃなくて、私が涼斗君に言い寄ってるのって。」
「おいっ!」
「くーちゃんっ!」
涼斗と奈緒美がツッコむが、当の本人は「なんてね」と言いながらぺろりと舌を出し、にこにこと微笑む。
最近、かなり強かになってきた紅羽を見て、奈緒美の影響を受けすぎているんじゃないかと疑る涼斗だった。
「とりあえず食事にしようぜ。」
「ウン、待ってたよ。早く早く!」
奈緒美に急かされ、持ってきた荷物から三段重ねの重箱を取り出す涼斗。
今日は、奈緒美のたっての願いで涼斗が昼の弁当を用意することになっていたのだ。
「うわぁ~豪華だねぇ。」
「弁当箱がなかっただけだ。それに三人分って量が判らんから適当だ。余っても晩飯にするから、遠慮なく好きなだけ食べてくれ。」
そういって重箱の蓋を取り、中を開ける涼斗。
一段目には少し小さめにカットしたサンドウィッチが並んでいて、それをどけると2段目のおかずが見える。
卵焼きにから揚げ、ツナとポテトのサラダにエビフライなどが並んでいる。
以前約束していたことに加え、先日のある出来事に対してのお詫びも兼ねて、涼斗なりに気合いをいれてみた。
その甲斐あってか、奈緒美の反応は良好だ。
「あ、たこさんウィンナーだ。」
奈緒美が嬉しそうに声を上げ、さっそく口に入れている。
「お弁当の定番だろ?」
そういいながら2段目のお重をわきに寄せると三段目の中身が見えてくる。
「これは肉じゃがね。……美味しいわ。」
三段目には肉じゃがと筑前煮などの煮物と焼きシャケにひじきなどの和風のおかずが詰め込まれている。
統一性がないのは、紅羽や奈緒美の好みがわからず、結局「とりあえず定番物を入れておけばどれかは好みにあたるだろう」と迷走した結果だったりする。
「はい、センパイ、あーん。」
奈緒美がエビフライを涼斗の顔の前まで持ってくる。
「どうしたの?約束でしょ?」
涼斗がためらっていると、奈緒美がニマニマしながらそう言ってくる。
それでも、尚躊躇っていると「私じゃ……いや?」と、急に萎れたような口調でそう言う奈緒美。
シュンとした表情がまたいじらしくも可愛らしいので涼斗は白旗を上げる。
「たくっ……。」
涼斗が観念して、あーんと口を開く。
「はい、どうぞ♪」
嬉しそうに差し出してくる奈緒美。
そして……エビフライが口の中に入れられた瞬間
パシャっ!
フラッシュが光る。
エビフライを加えたまま光の方を見ると、スマホを構えた紅羽が「ゴチソウサマ」と言ってニヤニヤしている。
「クーちゃん撮れた?」
「バッチリ……今送るね。……もちろん涼斗クンにも。」
ほどなくして涼斗と奈緒美のスマホから着信音が響く。
「えへっ、恥ずかしいなぁ。」
真っ赤な顔をしながらも嬉しそうに呟く奈緒美。
涼斗は送られてきた画像を一瞥した後、すぐに画面を閉じる。
……これはマル秘フォルダ行きだなと思いつつ、話題を変えようと思考をめぐらせる。
「でも、ほんとに美味しい。これ全部涼斗クンが?」
しかし、何事もなかったかのように、お弁当についての話題を振ってくる紅羽。
取り合えずばその流れに乗ることにする。
「大したことないよ。こっちのおかずなんて、サンドウィッチの具材の残りを詰めただけだしな。」
大したことがなさそうに涼斗は言う。
ただ、2段目のおかずは確かに紅羽に言った通りだが、三段目の肉じゃがと煮物に関しては昨日の夜から仕込んでいたことは内緒である。
隠れた苦労を悟らせない、それもまた男のプライドというものだろう。
「センパイいつも購買の残ったパンだよね?毎日お弁当作ってくればいいのに。」
「こんな面倒なこと毎日やってられるか。」
不思議そうな顔で言う奈緒美に涼斗はそう答える。
涼斗としては可愛い女の子の手作り弁当には憧れるが、自分で作るのは甚だ不本意なのだ。
涼斗がそう説明すると「そういうことね」と奈緒美が納得して何度も頷く。
「どういうこと?」
よく理解していない紅羽が奈緒美に訊ねるが、涼斗としてはこれ以上掘り下げてもらいたくない話題だったりする。
「あのね、『リオン』はセンパイの理想の女の子なの。」
「えっと、『リオン』って涼斗クンの?」
「もういいじゃないか、その話は。」
訳が分からず首をかしげる紅羽に、涼斗が話を打ち切ろうと声をかける。
「ダメだよぉ。それに、ここで話しておかないと、私いつどこでポロっと喋っちゃうかわかんないしぃ?」
上目遣いにそんなことを言う奈緒美に対し涼斗が何も言えるはずもなく、奈緒美による「ネタばらし」は続けられる。
「つまりね、センパイは『リオン』ちゃんみたいな女の子ならこういうお弁当も作れるだろうっていうのがあるわけ。でもリオンちゃんは架空の人物だから本物っぽく見せるためには実際に料理してお弁当を作るリアリティが必要なわけで、センパイはそのためだけに料理を覚えたのよ。……そうでしょ、センパイ?」
「……。」
まったくもってその通りなので涼斗は何も答えられない。
「だから、センパイが作るお弁当はリオンちゃんの愛情弁当ってことで……あ、あぁ~、センパイごめんっ!怒った?」
立ち上がる涼斗を見て、慌てて奈緒美が抱き着いてくる。
「ごめんなさい。悪く言う気はなくて、そんなセンパイが素敵だなぁって……。だからごめんなさいってばぁ。今度お弁当作ってきてあげるからぁ。機嫌直してよぉ……。」
奈緒美がだんだん涙目になってくる。
「はぁ……怒ってるわけじゃないから。」
ただ、恥ずかしかっただけだ。といい、涼斗はそのままその場に腰を下ろす。
「ばかぁ……。嫌われたかと思ったじゃない……。」
そういう奈緒美の目は完全に潤んでいる。
「だったらバラすなよなぁ。」
涼斗は誤魔化すように奈緒美の頭を撫でる。
「うぅー、だって……ゴメンナサイ。キスしたら許してくれゆ?」
思わず息をのむ涼斗。
奈緒美を見ると頬を赤く染めながら涼斗を見つめている。
そしてその目が閉じられ、涼斗が引き寄せられるように近づいていく……。
「コホンコホン!あー抹茶が飲みたいのってこういう時かしらねぇ。」
紅羽の声に、二人はばっと離れて距離を置く。
「口の中が甘くて甘くて……バカップルってこういうのだっていうのがよくわかったわ。」
「カップルじゃないし。」
「そうだよぉ。まだ、カップルじゃないもん……。」
「ハイハイ、分かったから……アンタら早く付き合っちゃいなさいよ、でないと……。」
紅羽が呆れたように何か呟いていたが、小声でよく聞き取れなかった。
「あ、そうそう、二人とも今週末空いてる?」
お弁当を食べ終え、奈緒美が持ってきたデザートを食べながら紅羽がそう言ってくる。
「私は空いてるけど?」
奈緒美がチラッと涼斗を見る。
「一応空いているが、話の内容によっては急用が入る可能性もある。」
涼斗がそんな風に答えると紅羽はクスリと笑う。
「あのね、お父様が可愛い奈緒美を毒牙にかけた男の顔が見たいって。」
「ごめん、1ヶ月ほどかかる急用が入った。」
涼斗はそういってその場から逃げ出そうとするが、いつの間にか奈緒美にがっちりと捉えられていて立ち上がることが出来ない。
「嘘よ。冗談よ。そんなに慌てることないのに。」
そんな涼斗の慌てる姿を見て呉羽が笑う。
「心臓に悪い冗談はよしてもらいたい。」
「で、くーちゃんほんとは何なの?」
「ウン、あのね……また二人と一緒にUSOにログインしたいの。」
紅羽の言葉と同時にお昼休みの終了を告げるチャイムが屋上に鳴り響いた。
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