第17話 悪夢!?

 アルがパーティに加入?したお陰でその後の探索は予想外にスムーズに進んでいた。

 アルが斥候役を務め、この先は行き止まりだの、そこに罠があるだのを教えてくれるからだ。

 また、アルの活躍?に嫉妬したラビちゃんが、リョウ達が見つけるよりも早くモンスターを発見しては殲滅してしまうため、リョウ達は歩く以外にやることがなかった。

「えーっと、こんな楽していいのかなぁ?」

 何度目かの休憩中、ニャオがそんなことをボソッとつぶやく。

「言いたいことは分かる……がいいんじゃないの。」

 クレアに、いい子いい子、してもらって、嬉しそうに喉を鳴らしている2匹を見ながらリョウが答える。

「残りはこの先だけだよね。」

 ニャオが、広げた地図の一角を指さしながら言う。

「あぁ、2階層に降りる道もこの先にあるだろうな。」

 色々と書き込んだ地図の外周はすべて埋まっており、ニャオが指さした中央付近だけがまだ空白となっている。

 今まで回ってきたところには下層への道がなかったので、この先にあるのは必然だろう。

 問題は今日この先へ進むかどうかだ。

 ここまでわかれば、この階層の情報は網羅したといってもいいだろう。

 次回はここまで消耗もせず30分程度で来られるという目途も付いた。

 だったら今日はここで切り上げて、次回に回してもいいかもしれない。

「うーん、リョウ何か考えてる?」

 地図を見ながら黙り込んでしまったリョウに、心配そうに声をかけてくるニャオ。

「うん、いや、ここで切り上げるべきかどうか迷っててな。」

「そっかぁ。でも、ここまで来たんだから地図埋めちゃおうよ。2階層へ行くのもスロープなのか階段なのかもわからないし、ひょっとしたら何かトラップがあるかもしれないしね。だから最低でも2階層を確認するところまでは行った方がいいと思う。」

 アルちゃんとラビちゃんのおかげでほとんど消耗してないしね、と笑いながらニャオが言う。

「2階層の確認か?しかし下層に着いた途端スピリットテイラーと戦闘という可能性だってある。」

「それでも、下層への道は見つけておいた方がいいでしょ?なんなら、道が見つかったら私が先行して偵察してくるよ。」

「いや、先行偵察するなら俺が行く。ニャオたちを危険な目にあわせるわけには……。」

 途中でニャオが睨んでいるのに気付き、リョウは口を閉ざす。

「ねぇ、センパイ。そういうのやめようよ。センパイと私なら、どう見たって私の方が偵察に向いてるでしょ?センパイは気遣ってくれているつもりかもしれないけど、それって信用されてないって思っちゃうよ。」

「信用してないってことあるわけないだろ。ただ心配で……。」

「それが信用されてないってことだよ。私たちは何?センパイの子供?違うでしょ!パーティだよね?対等の仲間だよね?」

「そうだよ!大切な仲間だ。だから危険な目に合わせたくないんだよ!」

「言ってることおかしいよっ!何のためのパーティなのっ!お互いに助け合ってのパーティでしょう?私は守られてるだけのお姫様じゃないよっ!」

「あー、なんでわからないかなぁ!俺が出来ることをすれば危険な目にあわせなくて済むだろうがっ!」

「だから、それが間違ってるっていうのよっ!」

 ニャオとの言い合いがだんだんとヒートアップしていく。

 何かがおかしいと、心のどこかで警鐘を鳴らしているのだが、気持ちを抑えることができずにいる。

「大体センパイはいつもそうっ!何でもできるよって顔をして、本当は私たちなんていらないって思っているんじゃないのっ!邪魔だと思っているんじゃないのっ!」

「誰がそんっ……。」

 リョウが反論をしかけた時、いきなり回りが暗転し何もかもが消え去っていく。

 薄れゆく意識の中でリョウが最後に見たのはニャオの泣き顔だった……。 

 

 ◇


「……ん……ここは……。」

 リョウが目を覚ますと、そこは薄暗い部屋の中だった。

「よう、お目覚めかい?」

「誰だっ!」

 リョウは腰の剣に手をかけながら声のした方を向く。

「おっと、そんな物騒なもの抜かないでくれよ。それに俺が誰かなんてことより、今の状況の方が知りたいんじゃないのかい?」

 薄暗がりの中、かろうじてシルエットだけは見える男(?)にそう言われて、リョウは少しだけ冷静さを取り戻す。

 そうだ、まずは現状を把握しないと。

「ここはどこだ?俺は捕まったのか?」

「焦りなさんなって。出たきゃほら、後ろの扉から帰れるよ。鍵もかかってないし。」

 男の言葉に、後方を振り返ると、そこには確かに扉らしきシルエットが見える。

 脱出出来るならこんなところに用はない、と扉に手をかけようとして思いとどまる。

 なぜかは分からないがこのまま出て行ってはいけない気がした。

「ん?帰らないのかい?」

 シルエットの男がそう聞いてくる。

 ニヤニヤと笑っている気がするのはきっと気のせいではないだろう。

「ニャオは、クレアはどこにいる?」

「知らないね。ここに来たのはアンタ1人だけだ。」

「そうか。」

 ならば、益々ここに用はない。早くあの扉から外に出て二人を捜さないと。

 そう思うのだが、どうしても何かが引っかかり、それが分からない内は出て行ってはいけない気がする。

「どうした?探しに行くんじゃないのか?」

 男が聞いてくる。

 やはりニヤニヤしている気がする。

「お前には関係ないだろ!」

「そうだなー、関係ないよなぁ。関係ないけど一つ聞いて良いか?お前何であの二人と一緒にいるんだ?」

「なん、だって……。」

「だってよぉ、お前独りならリヨンの街まで行けただろ?それにお前がいなくて女二人だけなら、カナドの村に受け入れてもらえたかもしれないんだろ?」

「お前、何で……どうして……。」

 男が言ったことは、以前リョウ達の間で話題に上った事だった。

 カナドの村から、更に三日ほど南に向かった先にリヨンという大きな街があるという事をマリアさんから聞いたとき向かおうと言う案もあった。

 ただ、その時は三人で旅するだけの食糧を用意することが出来なかった。

 森にいればその日の食料は手に入れられるが、森から離れてしまえば、食糧を得るあてもなく、現在の備蓄では3人分は無理と言う事で諦めたのだった。

 一人分なら何とかなると言うことで、リョウ一人で行くという案もでたのだが、二人を残していくのは心配だから、とリョウ自身が却下した。

「ニャオがあれだけ大丈夫だっていっても意見を曲げなかったよなぁ。あの時リヨンの街に行けば今よりましな生活が出来ていたのになぁ。いや、分かってるよ。心配なんだよな……必要ないって言われるんじゃないかって、いなくても良いって言われるんじゃないかって、な。」

「お、お前……何を……。」

「分かってるんだよ。誰かに頼りたいけど頼れない。だって裏切られるから。だから一人で何でも出来る必要があった。誰かに必要だって言って貰いたい。だって必要とされている間は裏切られないから。だから誰にも必要とされるように、何でも出来る必要が有った。」

「お前……誰だっ!」

 リョウは剣を抜き構える。

「まだ分からないか?俺は……お前だよ!」

 その時一筋の光が射して陰の男の顔を照らす。

 その顔はよく見知った顔……浅羽涼斗の顔だった。

「ネカマをやっている時は気分良かったよな?いつも誰かが声をかけてくれた、必要だって言ってくれた……望むものを手に入れたんだから最高だよなぁ!」

「黙れぇ!」

 リョウは男に切りかかるが難無くかわされる。

「奈緒がコミュ障って聞いたときは喜んだよなぁ。あんな美少女がまともに会話できるのは自分だけだと思うと優越感半端ねぇもんな。」

「黙れ、黙れ、黙れぇっ!」

 リョウは剣を振り回すが、男には一向に当たらない。

「学校では話すことも出来ない、高嶺の花の加納紅羽が、ここではお前を信頼し頼りにしている。嬉しいよなぁ。ずっとこの世界にいたいよなぁ。」

「黙れと言っているっ!」

 何度振るっても、剣は男に掠りもしない。

「なぁ、もう一度聞くぞ。お前は何であの二人と一緒にいるんだ?」

 リョウは思いっきり剣を打ち降ろすが、その剣は虚しく空を切るだけだった。


 ………

 ……

 …。


「はぁ、はぁ、はぁ………。」

「無駄だって。いい加減諦めろよ。」

 もう何度振ったか分からないが、この剣もするりとかわしながら、涼斗の顔をした男が言う。

「お前には自分を傷つける事が出来ない。出来るのは傷つかないように殻に籠もって小さくなっているだけ、違うか?」

 ブンッ!

 またもや簡単にかわす男。

 リョウはすでに何も喋らなくなっている。

 ただ黙々と目の前の男を斬り伏せるために剣を振るっている。

「後ろの扉から出ていきなよ。そして何もかも忘れて生きていけばいいじゃないか。」

 ブンッ!ブンッ!

「あの子達なら心配いらないよ。放っておいても半年もすれば帰れるんだろ?」

 ブンッ!ブンッ!ブンッ!

「元々お前には分不相応だったんだよ。」

 ブンッ!ブン……ッ、ブ………。

「やれやれ、ようやく解ってくれたかな。」

 剣を降ろしうずくまるリョウを見下ろしながら男はしゃべり続ける。

「もう良いじゃないか。キミはよくやったよ。後は最後の時までゆっくり過ごせばいいさ。」

「……。」

「ん?何だって?」

「………は………る。」

「よく聞こえないよ。」

 男が聞き取ろうとリョウに近づく。

「………ったんだ……。」

「だから聞こえないよ。」

 更に近づいて、リョウの顔をのぞき込む男。

 ズシャッ!

 のぞき込んできた男を下から斬り上げる。

「奈緒は俺が守るって約束したんだよっ!」

 のぞけってギリギリかわした男に追撃するように横薙ぎに切り払う。

「これはびっくり。まだそんな元気が残っていたんだねぇ。」

 リョウに斬られた右腕を押さえながらも、涼斗の顔をした男はニヤニヤ笑いをやめない。

「奈緒も紅羽も、こんな俺と一緒にランチを食べたいと言ってくれた。その約束を守る為にっ!」

 ズシャッ!

 男の右腕を切り落とす。

 そこで初めて男の顔が歪む。

「ハンッ!そんなの口先だけだって、お前がよくわかってるんだろ。」

 男の右腕の切り口から棒状の何かが伸びる。

「社交辞令って言葉知ってるんだろ。」

 男が右腕だったものを振るう。

「それでもっ!俺が奈緒を守ると言ったこと、それは唯一無二の真実だ!」

 男の右腕をかわしその胴を薙ぐ。

「グッ……。女を守る事で必要にされていると思うってか、欺瞞だな。一歩間違えばストーカーだぞ。」

「それでもっ!」

 リョウの剣が男の首をはねる。

「どうせまた裏切られるんだ。その時まで夢を見てるがいいさ。」

 男は首だけになり床に転がっても、まだしゃべり続けている。

「そろそろ黙れ!」

 リョウはその頭に剣を突き刺すと、ようやく静寂が戻ってくる。

「ハァハァハァ……。くそっ!」

 リョウは鬱憤を晴らすかのように、2度、3度と男の首に剣を突き立て、しばらく瞑目する。

「わかってるんだよっ!」

 しばらくして気持ちが落ち着いたリョウは、男が座っていた場所の背後に、いつの間にか現れていた扉を開いて外に出る。

「クッ、眩しい。」

 薄暗い部屋からいきなり明るい大広間に出たため、リョウの目が眩む。

 ガシッ!ガシッ!キィーンッ!

 激しく打ち合う音が聞こえてきたので、リョウは薄眼をあけながらあたりを伺うと、前方で双剣を振り回すニャオの姿と、それを必死になって躱したり受け止めたりしているクレアの姿があった。

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