第11話 異世界転移!?
「それは私が説明してあげるわ。」
不意に頭上から声がかかる。
「誰っ!…………妖精さん?」
その声の主を見つけたクレアが驚く。
「お前っ!」
「リョウ、知ってるの?」
リョウ達の前に現れた、小さな女の子。
それは、先程クレアとニャオの危機をリョウに伝えたピクシーだった。
「いや、俺もよくは知らない。」
リョウはニャオにそう答え、そしてピクシーに問いかける。
「説明って言ったな?どう言うことだ?」
「そんな怖い顔で睨まなくても、ちゃんと説明するわ。この世界は、ゲームの中ではなく現実……あなた方で言う『異世界』で間違いないわ。」
ピクシーは、女神ミシェイラと名乗り、この世界の事を語り出した。
「この世界は、創造神様から管理を委ねられた女神アスティア様の下、健やかに繁栄してきました。しかし、いつからか魔物と呼ばれるものが蔓延し、気付いた時には魔族を名乗る新しい種が生まれていました。そしてその魔族の中から魔族・魔物をを統べる『魔王』が生まれたのです。魔族の前に人族は余りにも脆弱で無力でした。困り果てたアスティア様が最後に取られた手段が「異世界からの勇者召喚」なのです。」
「ねぇ、これって……。」
「あぁ、USOに酷似した世界観だな。」
リョウとニャオが小さな声で囁き合う。
「今までに何度も勇者は召喚され、その度に魔王は封印されてきました。そしていつしか、『魔王が復活したときには勇者の召喚』というのが当たり前になっていました。」
リョウ達の囁き声を気にもとめず、話を続けるミシェイラ。
「それで、今回は俺達が呼ばれたってことか?」
リョウが訊ねるとミシェイラは力なく首を振る。
「イエ、それが大変申し上げにくいのですが、あなた方がこの世界に来たのは手違いなんです。」
「「「はぁ?」」」
リョウ達三人の驚愕の声が揃う。
「その、なんと言いますか、あなた方の世界で言うVRの波動と召喚の術式がシンクロしてしまったようでして……。」
ミシェイラが言うには、召喚の術式が発動した、まさに同じタイミングでリョウ達がログアウトしたことにより、本来の身体に戻るはずの意識が術式に取り込まれ、こちらに来てしまったとのことだった。
「本当に大変だったんですよ。意識だけでは遠からず四散してしまうので、あなた方のVRのアバターをこちらの世界での身体として再構築して最適化をかけて………。」
ブツブツと説明なのかグチなのか判断が付かないことを呟くミシェイラ。とにかく大変だったという事がいいたいらしい。
特に、USOの仕様をこの世界に合わせるのが大変だったらしく、涼斗達が魔法やスキルが使えるのは、ミシェイラの奮闘の賜物らしいのだが、被害者の立場からしてみれば、そんなこと言われても、と苦笑いするしかなかった。
「それで肝心なことを聞きたいんだが、俺達は帰れるのか?」
リョウがそう問いかけると、ミシェイラは視線を逸らす。
「どうなんだ?まさか帰れないってことは無いだろうな?」
「か、帰れますよ………ただ条件が……。」
リョウが再度詰め寄ると、ミシェイラは言い辛そうにそう言う。
「条件って?」
それまで黙っていたクレアが、ミシェイラをつかんで詰め寄る。
「えーと、言わなきゃダメ?」
クレアは無言で掴んでいる手に力を込める。
「い、痛っ、言う、言うから力を緩めて……。」
クレアが力を抜くと、ミシェイラが諦めたように話し出す。
「あなた方が、元の世界に帰る為の方法は3つあるわ。まず一つ目は、召喚の条件でもある『魔王を倒すか封印する』事。これが出来れば目的を達成したことになるので、召喚された者達の願い事を叶えることが出来るの。そこで帰りたいと願えば無事に帰れるって訳。」
「まぁ、定番だな。それで後二つは?」
「……送還の術式を組んで、あなた方を送り返す方法があるわ。」
「だったら、それで直ぐ私たちを帰してっ!」
ニャオがそう言うが、ミシェイラは首を振り「今は無理」という。
何でも、ミシェイラのマナが枯渇していて、新しい術式を編むのに3ヶ月はかかるのだそうだ。
しかも、術式に必要なBランク以上の魔種と呼ばれるアイテムが必要なんだとか。
とにかく、今すぐには無理だと言うことは理解できた。
「それで3つ目は?」
「……時間が経てば帰れるわ。」
「どう言うことだ?」
聞いてくるリョウ達に、ミシェイラは言い難そうにしながらも説明をする。
今のリョウ達は、涼斗、奈緒美、紅羽の意識だけがこの世界に来ている状態で、そのままでは存在が維持できないため、USOのリョウ、ニャオ、クレアを依り代として定着させている。
これは口で言うほど簡単な事じゃなく、普通では出来ないことらしい。
涼斗達の場合は、運良くUSOと言う疑似世界が精密に作り込まれていたため、その世界を取り込んでベースにする事によって術式を構築することが出来たとのことだ。
USO内のスキルや魔法が使えたり、アイテムがあったりするのはその副産物という事だ。
そして、USOに組み込まれた『4時間で強制ログアウト』と言う仕様も術式に組み込まれてしまったために、涼斗達の意志とは関係なく、向こうの現実時間で4時間経つと、強制的に世界から意識が弾き出される、と言うことらしい。
「何だ、よく分からんが、このまま4時間ボーッとしてれば帰れるって事か。」
リョウは安心したように呟く。
「あー、もぅ!そう言うと思ったから言いたくなかったのよっ!」
「まぁ、だれも好き好んで危険な目にあいたいとは思わないだろうからな。」
「ホント、それよ。……で、魔王倒してくれゆ?」
リョウの前に回り込み、両手を握りしめ、瞳を潤ませながら、上目使いに見上げてそう言ってくるミシェイラ。
その、わざとらしくあざといと分かっていても可愛らしい仕草に、思わず頷きそうになるリョウだったが、横からニャオが止めに入る。
「倒さないわよっ!センパイもこんなのに引っかからないのっ!」
「チッ、もう少しだったのに。」
「大体Lv1の私たちが魔王を倒すのにどれだけかかると思ってるのよ。それに4時間で向こうに戻るならLv上げしてるだけで時間切れでしょ!」
「ねぇ、その事なんだけど、おかしくない?」
ニャオとミシェイラの会話に割り込むようにクレアが言う。
「おかしいって?」
「私たち、気がついてから結構な時間経っているよね?」
クレアの言葉にリョウは、クレアの言いたいことを理解する。
リョウが二人を助け出した時から考えても、かなりの時間が過ぎている。
体感ではあるが、USOにログインしてからであれば、すでに4時間以上経っているはず。
ミシェイラの言葉を信じるのであれば、すでに強制ログアウトしていてもおかしくないはずだ。
「どういうことだ?」
リョウがミシェイラに詰め寄ると、ミシェイラは事も無げに答える。
「そんなの時間の流れが違うからに決まってるじゃない。あなた達の向こうの現実では、まだほんの数秒しか経ってないわよ。」
ミシェイラの話では、強制ログアウトの術式が組み込まれた段階で時間の流れをねじ曲げる術式を割り込ませたそうだ。
普通はそんなことできないが、時空魔法を管理するミシェイラだからこそ出来た裏技だと、本人が自慢げに言っていた。
何故そのようなことをしたのか?
理由は、直ぐ帰られては魔王を倒してもらえず、召喚魔法を使用したコストが割に合わないからだという。
そのあまりにも身勝手な理由を聞いた途端、クレアが無言でミシェイラを捕らえ、ニャオが、どこからともなく取り出した細い糸を使って縛り上げ、現在は三人の前で逆さ吊りにされている。
ちなみに、真下に焚き火があるため、少しでも高さを下げるとかなり暑くなる。
「酷いじゃない!女神にこんな事したら罰が当たるわよっ!……って熱っ、熱っ!ゴメンナサイ、ゴメンナサイ……。」
ミシェイラが文句を言う度に、吊り下げる高さを下げるクレア。
そのあまりにもの熱さに、直ぐネを上げて謝り倒すミシェイラを見て、高さを戻すニャオ。
「ゴメンナサイ、ゴメンナサイ……。アンタも黙ってみてないで止めなさいよっ!……わわっ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ……。」
何があったか分からないけど、二人の闇落ちしている姿を見て止めに入れるほどの勇気は、リョウにはなく、聞こえない振りをしながら、近くの薬草を採集するのだった。
「リョウ、助けてよぉ。アンタのカノジョ達止めてよぉ。」
ミシェイラの何度目かの助けを求める声に、リョウだけでなく、ニャオ達の動きも止まる。
「悪いが、彼女達は俺のカノジョってわけじゃないんだ。だから俺に止める権利は無い。」
「そんなこと言わずに……あ、そうだ!助けてくれたら、ずっとリョウの望む格好でいてあげるよ。ゴスロリでもメイド服でも……だから彼女達を説得してよ。」
「よし分かった!あー、キミタチ、幼気な妖精を苛めちゃいけないよ…………。」
「「…………。」」
ミシェイラの提案を受け入れ、すぐさまニャオ達の説得にかかるリョウに対する二人の視線は、酷く冷たかった。
◇
「ふぅ、ヤッパリ風呂はいいなぁ。」
リョウは樽になみなみと注がれたお湯の中に身体を沈め、そんなことを呟く。
リョウが今浸かっているのは、いわゆる『五右衛門風呂』と言う奴だ。
あれから、ミシェイラを解放することに成功したものの、非常に機嫌が悪くなった彼女たちの機嫌を取るために急遽拵えたものだった。
ジト目で見てくる彼女たちの意識を反らそうと何かないかと考えていたときに、小屋の中に樽があったのを思い出して、思わず「お風呂にでも入って、落ち着こうじゃないか。」と提案したのが功を奏した。
「「お風呂!?入れるのっ?」」
二人の声が見事にシンクロする。
まぁ、女の子なら、お風呂に入って身体を綺麗にしたいと考えるのは当然だろうなと、リョウはその反応を見てそう思う。
実際のところ、リョウだって出来ることなら汗を流したいと思っていたのだから、年頃の女の子であれば尚更だった。
「あぁ、少し時間かかるけど用意できると思うよ。」
リョウはそう言って五右衛門風呂の事を話す。
五右衛門風呂は簡単に言えば、窯の上に水を張った樽を乗せて沸かすだけと言う簡単な仕組みだ。
樽はあるが、窯と落とし蓋は作らなければならない。しかし、幸いにも「生産の心得」のスキルのお陰で何とかなりそうだった。
結局、1時間程度で五右衛門風呂は出来上がり、先程までクレアとニャオが使用していた。
二人が出てきたので、ようやくリョウがこうしてのんびりとお湯に浸かることが出来たのだが……。
「これからどうするかなぁ……。」
思わず口に出して呟いてしまうリョウ。
ミシェイラから聞き出した内容をまとめると、この世界は、魔王復活により、魔物たちの活動が活性化して、人々の生活を圧迫しているという事、リョウ達が帰るためには魔王を倒すか封印する、もしくはミシェイラに送還の術を使ってもらうか、強制ログアウトを待つしかないと言う事。
しかし、向こうでの現実時間の1時間がこちらでは約100日と言う時差のため、強制ログアウトまで約1年程こちらで暮らさなければならない。
ミシェイラの送還術を使うにしても最低3ヶ月は必要とのことで、直ぐに戻ることが出来ない。
どうするにしても、この世界での生活基盤が必要になることだけは間違い無いのだが……。
明確な答えが出ないまま風呂から上がり、外の焚き火の場所まで戻るリョウ。
そこにはニャオを抱えて座り込んでいるクレアがいた。
「ニャオは寝ちゃったのか?」
リョウはクレアの横に腰を下ろして焚き火の調節をしながら言う。
まだ乾ききっていない湿った銀髪が、炎を反射して煌めいている。
湯上がりの火照った肌は薄く紅が差し、そこはかとない色気を醸し出している。
そんな美少女の姿をリョウが直視できるはずもなかった。
「うん、疲れていたみたいね。正直言えば私もだけど、流石にこんな所でふたりして意識を無くすのはちょっと……ね。」
苦笑しながらそう言うクレア。
襲われた実体験からして、こんな所では安心できないのだろう。
「俺が見ておくから、小屋で休んだらどうだ?あそこなら一応鍵もかかるし。」
「ううん、ここでいい……暖かいから………。」
その言葉とともにリョウにもたれ掛かるクレア。
何か言おうと、クレアの顔を見たリョウは、すでに可愛らしい寝息をたてているのを見て、抵抗を諦める。
「ずるいよなぁ………まぁ「可愛いは正義」だから仕方がないか。」
無意識にニャオとクレアの頭を撫でるリョウ。
その無防備な寝顔を見ながら、俺が護らなきゃいけない、と心に固く誓うリョウだった。
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