第9話 異変!?
「ふぅ、恥ずかしかった。」
「誰のせいだよ、……ったく。」
「センパイの所為?」
「違うだろっ!」
「ねぇ、それより、これから何をすればいいの?」
顔を真っ赤にしながらも、漫才のようなやりとりを続けているリョウとニャオに、クレアが呆れを隠そうともせず聞いてくる。
「そうだな、クレアは何がやりたい?」
一旦、ニャオとのやりとりはおいておいて、リョウが少しまじめなトーンで聞き返してくる。
「どういうこと?」
「この世界では、何でも出来るんだよ。何をやってもいいんだ……それが犯罪でもね。」
「犯罪でも?」
「そう、代表的なのがPK……プレイヤーキラーという存在。彼らは魔獣ではなく、一般のプレイヤーを襲ってその金品を巻き上げる存在。」
「そんな事が許されるの?」
「許されるから存在しているんだよ。勿論PKをやっている奴らの中にも奴らなりの矜恃を持っているものもいるし、逆に山賊と変わらない奴らもいる。だけど、それもプレイスタイルの一つだよ。魔王を倒す勇者を目指すのもいいし、森の中に家を建てて動物と戯れながらスローライフを送るのもいい。商人だってファッションモデルだって、何でもできるのがこの世界なんだよ。」
「そうそう、こうやって、センパイとゴロゴロしてるだけでもいいのにゃぁ。」
そう言って抱き着いてくるニャオ。
しかしその途端に警告音が鳴り響く。
「にゃにゃっ!にゃに?」
「あ、ハラスメント警告だ。」
リョウは眼前に出て来た『通報』のアラートメッセージをキャンセルし、ニャオとクレアをハラスメントから除外する設定に変える。
「何でっ!酷いっ!」
「いきなり抱き着いてくるからだろ。まだログインしたばかりで、そのあたりの設定弄ってないんだよ。ってか、お前だってそうだろ?」
「そう言えばそうでしたにゃ。」
「えっとどういう事なのかしら?」
訳が分からない、と聞いてくるクレアに説明をしながら、リョウたちはシステムの設定を使いやすいように変更する。
ついでにお互いのフレンド登録と、固定パーティの申請をギルド宛てに送っておく。
「さて、これで基本的な事は済んだからこの先の事について決めようか。」
「はいはーい、センパイの姿を『リオン』に変える!」
「あほかっ!」
ニャオがとんでもないことを言い出す。
「えー、でもセンパイ、その姿なら、少しメイクしてウィッグつけて、女の子用装備すれば行けると思うけどなぁ?」
このUSOでは性別を偽ることはできない。
しかし現実世界と同じように「女装」であれば可能なのだ……もちろん一式そろえるのにそれなりの資金は必要だが。
「それにぃ、さっきカリウスに会ったから、きっとカリウスから「アルビオン」の関係者に情報が流れるよ。そうしたら『リオン』の行方を探す人も出てくるんじゃないかなぁ?」
「うっ……リオンは急病のためUSOへの参加を見送ってるんだよ……。」
「……ふーん、じゃぁ、とりあえずそういうことにする。……それともセンパイが『ナオト』やる?」
覗き込むようにしてくるニャオの顔は笑っている。
「……考えておく。後、ここではセンパイじゃなくて『リョウ』な。」
リョウがそう切り上げたところで、黙っていたクレアが口を開く。
「そろそろいいかな?」
「あ、ごっめーん。クーちゃんのこと忘れてたよぉ。」
ニャオがわざとらしく大きなアクションをつけながら謝るふりをする。
「……いいけどね。それよりさっき言っていた『何をするか?』って事なんだけど?」
クレアも慣れているのか、軽いため息をつきながら話を軌道修正する。
「はいはーい。私家が欲しい。センパイとくーちゃんと一緒に住む家が。」
「ホームか。俺も欲しいけど、拠点として使いたいから、かなりかかるぞ?」
「そんなの、土地の権利だけ大きいのにしておいて、最初は小さい家にすればいいじゃない。後はお金を貯めて必要に応じて拡張すればいいでしょ?」
「あの……家ってどういうこと?」
「あのね、くーちゃん。この世界ではね、プレイヤーホームって言って、お家を建てる事が出来るのよ。内装とかも結構細かく凝れるみたいでハウジングマニアの人達はすでにいい物件を手に入れるために動き出してるんだって。」
「そうなの?でも家を建てるって、お金が凄くかかるんじゃ?」
「そうだな、今の所、街の傍の一等地で土地の価格が1G~5Gってところだな。街からかなり外れた場所なら50M程度でもなんとかなりそうだけど。」
「ごめんなさい。GとかMってなぁに?お金の単位?」
「いや、お金の単位はgp。正式にはゴールドポイントだけど、皆ゴールドって呼んでいる。で、Gというのはギガ、Mというのはメガと言って、ん~、なんて言えばいいのかな大きい単位を短縮するための記号?」
リョウは助けを求めるようにニャオに視線を向けるが、ニャオはぶるぶるっと大きく首を振って縮こまる。
「まぁ、細かい事は俺にも説明できないんだけど、とにかく100万ゴールドの事を1Mゴールド、10億ゴールドの事を1Gゴールドと呼び表しているんだよ。」
「なんか中途半端な区切りね?」
「深く考えないで、そう言うものだと割り切って。ヘタに説明を求めると、ああなるからね。」
リョウはそう言って、近くで身を小さくし、耳をぺたんと伏せているニャオを指さす。
「えーと、取りあえず分かったわ。つまり安い所でも5千万ゴールド必要って事ね。……そんなにお金貯めれるのかしら?」
「まぁ、この手の世界はすぐにインフレ起こすからね。溜まり出せば1G位はあっという間だよ。」
「そうなの?じゃぁ、取りあえずの目的はホーム購入って事でいいのね。」
「大目標はね。その大目標を叶えるためには……。」
「分かってるわ。大目標を長期的目標に据え置いて、其処へ至る為の中期的目標、短期的目標を定める、でしょ?」
クレアが、ドヤ顔をしながらそう言う。
流石は学年トップレベルの秀才。この手の事においても如才ないというか、何というか……。
「まぁ、その通りなんだけどな。で、合流する前に見て来たんだが、冒険者ランクがCランクで受ける事が出来る依頼だと報酬は1万~10万ゴールドぐらいなんだよ。だから中期目標としては冒険者ランクをCランクまであげるって事でどうだろう?」
「そのあたりは分からないから任せるわ。そうすると短期目標は……。」
「俺達のレベル上げと当面の金策だな。」
「そうなのね。でも、どうやってお金を稼げばいいのかしら?」
「取りあえずはモンスターを倒すんだよ、くーちゃん。」
ようやく自分でもわかる話題になったと思ったのか、ニャオが会話に加わる。
「そうなの?」
「そうなの。モンスターを倒して経験値とお金を手に入れる。RPGの基本だよ。」
ドヤ顔でそう説明するニャオだが、リョウは軽く首を振って否定する。
「ニャオ、残念だがこの世界はそんなに甘くないらしいぞ。」
「えっ、そうなの?」
「モンスターがお金を持っているなんておかしいだろ?というコンセプトらしい。」
「確かにそうよね。」
「そんな事言ったって……じゃぁどうやってお金を稼ぐのよ?」
「基本はギルドで請ける依頼の報酬だな。後は倒したモンスターの素材を売却したり、採集した素材を売却したり、後は商品の転売とかも出来るな。」
リョウがそう言うと、ニャオは諦めたように頷く。
「まぁ、そう言うことなら仕方がないよね。でも町に戻る前に少し狩りしていかない?モンスターの素材も売れるんでしょ?」
「そうだな。三人での連携も確認しておきたいし。」
そうして、リョウ達は狩りをするべく、森の方へ足を向けるのだった。
◇
「見つけた!前方やや右方向距離約10m。」
そう言うが速いか、ニャオは音も立てずに飛び出していく。
その先にはホーンラビットが2匹いるが、まだこちらに気づいている様子はない。
「いきます!」
クレアがつがえた矢を連続で放つ。
遅れてリョウが飛び出すが、その時には既にクレアの矢がホーンラビットの急所に突き刺さり、逃げ出そうとしたもう一匹のホーンラビットは、ニャオのナイフによって絶命していた。
「にゃはっ!大漁ですにゃぁ。」
ニャオが、ホーンラビットを解体しながらそう言う。
「俺の出番がない。」
「センパイの風の加護、助かってますにゃ。」
「無理やり語尾に『にゃ』をつけなくても……。」
「可愛くない?こういうの嫌い?」
ニャオが上目遣いに見上げてくる。
少し力をなくして垂れているネコ耳も加わり、破壊力は抜群だった。
「イエ、可愛いデス。あざといけど、そのあざとさが却ってツボにハマります……だから勘弁してクダサイ。」
「はーい。(……あんまりやり過ぎると逆効果かな。)」
「ん?何か言った?」
「いーえ、なんでも無いですにゃ。」
「ねぇ、そろそろ戻りたいんだけど。」
ニャオとリョウがそんな会話をしていると、向こうからクレアの声が聞こえてくる。
「あ、そうか。そろそろ時間。」
ニャオの呟きに、時間を表示してみると現実時間では1時間が経とうとしていた。
「何かあるのか?」
「あ、うん、ちょっとね……。」
「まぁいいか。取り合えずまた戻ってくるんだろ?」
「うん、一度家に帰ってからだから、寝る前22時頃になるかなぁ。」
「私もそれくらいね。」
「そっか、じゃぁ俺も一旦落ちてそれぐらいに出直すか。」
「うん、そうしようよ。」
「じゃぁ街に戻ってログアウトするか。」
リョウの言葉に二人は頷き、一緒になって街まで戻る。
街中であればどこでログアウトしても問題ないのだが、運営は宿屋でログアウトする事を推奨しているので、最初ぐらいはと、宿の部屋を借りてログアウトする事にした。
「へぇ、しっかりと作り込んであるねぇ。」
「このソファーの座り心地もいいわね。」
二人は部屋に入るなり、部屋の中を物色し始める。
リョウはそんな二人の様子を苦笑しながら眺めていた。
「あ、こんなことしてる場合じゃなかった。」
しばらくして、クレアが思い出したように言う。
「そうだった、ログアウトしなきゃ。」
クレアの言葉にニャオも思い出したかのように言う。
「じゃぁ、二人とも、また後で。もし先にログインしてたらフレンド通信にメッセージ残しておくから。」
「うん、お願いね。」
ニャオはそう言うと、システムメニューを出してログアウトの操作を始める。
クレアもリョウも、それに倣いログアウトしようとするが、ログアウトのボタンを押した途端に、激しい揺れを感じ、意識が遠くなっていった。
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