第7話 キャラメイキング
「えーと、キャリブレーションはこれでOKかな。次はキャラのデーター入力……と。」
画面上に現れる指示に従って、必要事項を打ち込んでいく。
特に重要なのが、キャリブレーションと呼ばれる身体全体のデーター入力で、機器備え付けのスキャナーを使って身体のあっちこっちのサイズを計測する。
これが正確じゃないと、VR上での動きと実際の感覚に齟齬が出来てエラーが頻発する……らしい。
キャラエディトで変更する部分も、今スキャンしたキャリブレーションデータを基に計算されるので、キャリブレーションは慎重に正確に、と説明文に何度も書いてあった。
2度、3度と確認をしてキャリブレーションを終えた涼斗は、そのままキャラクターの種族を選択しステータスボーナスを割り振っていく。
各キャラクターには、STR・INT・DEX・SPD・LUKの5つの基本ステータスがあり、種族毎に基本数値が割り振られている。
ヒューマンの基本ステータスはAll10で、ここに20のボーナスポイントを自由に割り振ることによって、ステータスに差が付き、更には後程選択するスキルによって、各々の個性という物が出てくる。
ただ、ここで気をつけたいのは、各基本スキルの習得に必要な最低ステータス値というのが15に設定されているので、例えば戦士系の基本スキルを習得するのならば、この時点でSTRを15まであげておく必要がある。
バランスよく、とかいって、20ポイントをそれぞれ均等に割り振るとAll14となって、基本スキルが何もとれなくなってしまうので注意が必要だ。
ちなみに、ヒューマン以外の種族は、最初から15以上あるステータスを一つは持っているので、適当にボーナスを割り振っても、ヒューマンみたいにどのスキルも修得できないなんて事にはならない。
「STRに5ポイント、INTに10ポイント、そしてDEXに5ポイント………OK!」
最終的な数値を確認して決定ボタンを押す。
結局初期段階では上げづらい魔法関連を補佐するため、初期ステータスはINTをあげることにした。
これがいいのかどうかはやってみないと分からないけど、正解があるわけじゃないので仕方がなかった。
「次はスキルの習得だな。」
涼斗は画面上に表示された基本スキルの一覧を確認する。
空白になっている箇所があるが、これは現段階では修得できないスキルなんだろう。
涼斗は「戦士の心得」を選び、続いて「魔法使いの心得」「生産者の心得」「精霊使いの心得」「信仰の心得」を選ぶと、そこにスキルポイントを割り振っていく。
実は、ヒューマン以外の種族はこの時点で種族特性に応じた基本スキルを修得済みなので、ここでスキルを選ぶのはヒューマンとハーフエルフだけだったりする。
更に言えば、ヒューマンに割り当てられている初期のスキルポイントは他種族の倍あり、ステータスが低い分優遇されている。
涼斗は「魔法使いの心得」「精霊使いの心得」「信仰の心得」にスキルポイントをMaxまで降り、余ったポイントを残りの二つに割り振る。
スキルポイントをあげるには、それに適した行動をとる必要があるので、あがりにくい魔法系に優先して割り振った。
「後は……ん?ここからVR操作になるのか。」
涼斗はマニュアルに記載されているとおり、楽な服装に着替えて、ベッドに横になり、VRのスイッチを入れる。
目の前が色彩鮮やかな空間で埋め尽くされ、次の瞬間には何もない空間へと放り出される。
「ここは……?うわっ、キモッ!」
何もないところにぽつんと佇むマネキン……ハッキリ言って怖い。
よく見るとそのマネキンは涼斗ソックリで、違いと言えば、マネキンは褌以外は何も身に着けていないというところだけだった。
「下着は褌かよ。………まさか女の子も?」
涼斗の脳内に昨日会ったばかりの奈緒美や紅羽の褌姿が浮かび上がり、慌てて首を振ってその妄想を散らす。
「バカなこと考えてないで……っとここで操作するのか。」
マネキンに近づくとコンソールが浮かび上がり目の前に身体の各部のパーツなどが浮かび上がる。
「取り敢えず髪型を少しワイルドにして……。」
涼斗は悩みながらも、自分の分身となるキャラクターの外観を設定していく。
「うーん、瞳の色はやっぱりオッドアイにしたいけど……。」
悩みに悩んだ末に、榛色に決める。
よくある無難な色合いにもかかわらず、光の当たり方によっては金色に見えなくもないその色の瞳は、涼斗のお気に入りトップ3に入る。
ちなみにトップは言うまでもなく、紅と蒼のオッドアイなのだが。
その後何度もやり直して、ようやく満足のいくキャラクターが出来上がった時には、接続してから3時間が過ぎようとしていた。
「おー、これは中々……。」
鏡に映った自分(キャラクター)を見て、涼斗は満足げに頷く。
開始時点では初期装備なのだが、今の涼斗は伝説の装備を身に着けているため、ハッキリ言って格好良い。
キャラ本人というより、伝説の装備が醸し出すオーラが半端ないのだ。
「なるほどね。こんなの見せられたら、みんなこれを目指すよなぁ。」
いつの間にかカメラが現れていて、涼斗はポーズを取りながらセルフタイマーで撮影を繰り返す。
この写真のデータはパソコン内に保存され、後で確認したり壁紙として利用することも可能らしい。
と言っても自分をパソコンの壁紙にするのはイタすぎるのでやらないけど、と思いつつ、ナオや紅羽のデータがもらえたら壁紙にするかもしれない、等と考える涼斗だった。
その後は背景を街中やフィールド、ダンジョンなどに切り替えては、歩き回り時には剣を降り、時にはファイアーボールを撃ったりして、USOの雰囲気を十分に堪能した。
◇
「うー、すげぇ。もう待ちきれないぜ。」
接続限界時間が過ぎて、現実に戻った後も、涼斗は先程までの興奮を引きずっていた。
「4時間があっという間に過ぎるけど………仕方がないんだよな。」
現実に体感してみて、涼斗は何故接続限界が設けられているのかをイヤと言うほど理解した。
ハマり過ぎるのだ。多分接続限界がなければログアウトする気も起きないだろう。
そして、食事もとらずにログインした状態が続けば……。
ゲーマーにとっては、ある意味幸せな結末かもしれないが、世間的には大問題になるに違いない。
「それはそれとして……この感動を誰かと共有したい!」
涼斗は『誰か』と言っているが、涼斗がこの手の話が出来る相手と言えば1人しか居ないのだが。
涼斗はスマホを手に取ると、チャットアプリを立ち上げようとして、その手が止まる。
おかしい、と涼斗は思う。
今までは何も考えず、アプリを起動していたのに、ナオの中身が女の子と分かった途端に、メッセージを送るのも躊躇うようになってしまった。
「……いつもと変わらないよな。別に問題ないよな。」
涼斗は一人でぶつぶつ言いながらチャットアプリを立ち上げてメッセージを打ち込む。
リョウ:『メチャ感動!明後日が待ちきれない。』
涼斗は、メッセージを送った後しばらく待ってみるがレスがつかない。
いつもなら直ぐに反応があるのに。
「ひょっとしたら、今VRの中かもな。」
それなら仕方がない、と涼斗は自分を無理矢理納得させる。
結局、日付が変わる頃になっても、ナオからのレスはつかなかった。
◇
「ヤバい、遅刻する。」
涼斗は学園までの裏道を走り抜ける。
今までにもゲームのやり過ぎで寝過ごしてしまい、遅刻ぎりぎりでこの道を駆け抜けることはよくあったが、ゲーム以外の原因で寝過ごしたのは初めてで、そのことが涼斗の脚を鈍らせていた。
原因は、ナオからのレスが無かったためで、何故返事がこないのだろうか?嫌われてしまったのだろうか?等と考えれば考えるほど寝付けなくなり、空が白み始める頃ようやく眠気がおそってきたのだった。
ガラガラーっ!
教室の扉を勢いよく開けて中に飛び込む。
良かった。先生はまだ来ていない。
ほっと一息つく涼斗に、隣の紅羽が何か話しかけようとしたところで、ガラガラーっとドアが開き「席に着けー」という声が響く。
そのため、何か言いたげだった紅羽の口が閉じる。
その後も休み時間になると、紅羽は涼斗に話しかけようとするのだが、その度に他のクラスメイトが話しかけてきたりと、中々涼斗と話すタイミングが掴めないまま時間だけが過ぎていった。
「涼………あ……。」
そして、お昼になってもそれは変わらず、授業の終わりを告げるチャイムが鳴ると、普段はのんびりしている涼斗が一目散に飛び出していき、紅羽はまたもや声を掛けそびれるのだった。
「はぁはぁはぁ……。」
いてくれよ、と願いつつ、涼斗は屋上へ通じる扉を開く。
「あ、はは……ははは……。」
いつもナオが座っていた貯水塔の陰まで行き、がっくりとうなだれる涼斗。
「何だよ………一体何があったんだよ……。」
いつもは密かに楽しみにしていたお昼時なのに、今日だけは何もやる気が起きず、まるで世界が闇に覆われた気分だった。
「顔を見て話したのはたった1日だけなのに……。たった一晩連絡がつかないだけなのに……。何でこんなに気分が重くなるんだ?」
ナオと連絡が取れない日は今までにも何度かあった。
充電し忘れていたり、旅行に行っていて電波が届かなかったり………。
時には、言い争いをして気まずくなり1週間ほど連絡を取らなかったことだってあった。
それに比べれば、たった一晩連絡が無いくらい何だって言うんだ………。
高くなってきた秋の空をボーッと見上げる涼斗の瞳には、いつの間にか涙がにじみ出す。
「あー、センパイ、ヤッパリここにいたっ!」
突然響く女性の声に、思わず振り返る涼斗。
そこには、ずっと探していた人の姿があった。
探したんですよ、といいながら近づいてくるナオ。
「えっ、あれっ、どうしたんですか?泣いてるんですか?もしかして誰かにいじめられた?」
急にオロオロしだすナオを見て思わず笑ってしまう涼斗。
「いや、昨日寝てなくて欠伸をしただけだよ。」
瞳ににじんでいた涙の理由をそう言ってごまかす涼斗。
「ホントですかぁ。それならいいですけど、もしいじめられたらちゃんと言って下さいね。」
「ん?仕返しでもしてくれるのか?」
「いえ、一緒に泣いてあげます。」
「なんだよそれ。」
「だって私に仕返しなんて、出来るわけ無いじゃないですかぁ。」
笑いながらそう言うナオの顔を見ていると、今までの重い気分がどこかに飛んでいくのがわかる。
「それもそうだな。……それより昨日は何かあったのか?メッセ送ったけどレスがなくて心配したぞ。」
涼斗は何でもない風を装いながら、気になっていたことを聞いてみる。
「そうそう、そのことを話そうと……ってあれっ?ひょっとして、さっき元気なさそうだったのってその所為?」
「そんな事はない。」
妙なところで勘の鋭い奴だと、涼斗は驚く。
だからこそ、返事がなくて寂しかったんだなんて絶対バレるわけにはいかない。
「そっかぁ、エヘヘッ。ゴメンねぇ、返事がなくて寂しかった?」
ナオは涼斗の腕に自分の両腕を絡ませ、ギュッと引き寄せながら、上目遣いで見上げる。
「だ、だから、気安くそんな事すると勘違いするって言ってるだろ。」
「勘違い、しても……いいよ?」
奈緒は小さな声でそう呟くとそのままそっと目を閉じる。
涼斗はパニックを起こしていた。
心臓が早鐘のようにドクドクと波打っている。
直ぐ目の前に軽く顔を上げて目を閉じている女の子……コレってヤッパリ……そう言う意味だよな。
抱き寄せられている腕を包み込むような柔らかい感触の中に、微かに彼女の心臓の鼓動が伝わってくる。
彼女の鼓動も自分と同じように速くなっていることがわかり、少しだけ落ち着きを取り戻す。
落ち着いて見てみると、彼女の閉じられた瞳の前にある、細いまつげが小刻みに震えている。
そっか、緊張してるのは自分だけじゃない、そう思ったら、不思議と気分が落ち着いた。
そして涼斗はゆっくりと顔を近づける。
キーンコーンカーンコーン……。
後、数mm……唇が触れるか触れないかというところで昼休みの終わりを告げるチャイムが無情にも鳴りひびく。
ナオはその音に反応するかのように、サッと涼斗から離れる。
「アハッ、お昼休み終わっちゃったね。また夜連絡するねー。」
ナオはそれだけを言うと、振り返りもせずに走り去っていく。
「なんだったんだ……。」
取り残された涼斗は、その場で呆然と佇んでいた。
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