第4話 オフ会 中編
「ねぇ、私もやる。」
「「えっ?」」
そんな二人の様子を見ていて、何を思ったのか紅羽がそんな事を言うものだから、二人は驚いて、紅羽の顔を見つめる。
「そんなおかしなこと言ったかな?私もそのゲームやるって言ったの。いいでしょ?」
「いや、やるのはいいけど……加納はゲームってやったことあるの?」
涼斗の勝手なイメージだが、紅羽はゲームなんて触ったこともないんじゃないかと思っていた。
「紅羽。」
「えっ?」
「名前で呼んでって言ってるでしょ。呼ばないんだったらクラスで『ネカマ』って話ばらすわよ。」
「……マジで勘弁してください。」
そんな事された日には、翌日から不登校になる自信が涼斗にはあった。
「だったら、私の事も名前で呼んで。……奈緒ばっかりズルいじゃない。」
「え?今なんて?」
「何でもないわよ。その……ゲームくらいやった事……あるわよ。」
「えーと、加納……じゃなくて紅羽。RPGってわかる?」
名字で呼ぶと睨まれたので、慌てて言い直す涼斗。
「あーるぴぃじー?光の三原色?」
「それはRGBだ……いや、いい。もう分かった。」
紅羽は完全な初心者だと理解し、どう説明しようかと悩む涼斗。
MMORPGは自由度が売りなので、初心者でも問題ないのだが、自由度が高いことが逆に、初心者にしてみれば何をしていいか分からない、と言うハードルの高さになっている。
「センパイが何悩んでるか分かるけど、大丈夫じゃないかなぁ。こういうのは、習うより慣れろ、だよ。私もそうだったし。それに私もセンパイもガチ勢じゃないでしょ?くーちゃんに合わせてのんびり楽しもうよ。」
「それもそうだな。」
奈緒美の言葉に涼斗も頷く。
「だったら、後は紅羽のキャラについて決めようか。」
USOのオープンは1週間後に迫っている。
正確に言えば、来週の金曜日の正午からなのであと5日と半日と少しだ。
自分自身ようやくキャラクターの方向性が決まったことを考えると、早くから決めておいた方がいいのは確かだ。
内容などについてはゲームを楽しみながら憶えていけばいいけど、キャラを作らないことには始まらない。
「そうだねぇ、くーちゃんはどんなキャラにしたいのかな?」
その後の時間は、紅羽にUSOの世界観を教えつつ、紅羽の望むキャラを形にしていくことに費やした。
幸いにも、紅羽はファンタジーについての造詣はそれなりにあり、また生来の頭の回転の速さから、世界観やMMORPGという概念、キャラクターやスキル、ステータスといったゲームに不可欠な要素については直ぐに理解してくれた。
また、ロールプレイという「別人になりきる」と言うことが、特に気に入ったみたいで、話の後半では涼斗が引くぐらいのやる気を見せていた。
「えーと、じゃぁ少しまとめるね。」
奈緒美が書き込んだメモを片手に、涼斗達を見ながらそう言う。
紅羽の希望を聞き取りながら、パーティー全体のバランスをとりつつ、ようやく決まったのはいいけど、話がアッチコッチに飛びまくっていたため、一度まとめようと言うことになったのだ。
「まず前衛が、ソードダンサーを目指す私で、種族はエルフかハーフエルフ、ステータスはSTRとSPDを重視したスピードでかき回すタイプね。スキルは戦士系を中心で一応精霊魔法も使えるけど、基本的なものだけに留めておく感じね。」
奈緒美の言葉に頷きながら、涼斗も自分用の覚え書きとしてメモを取っていく。
「それから中衛と言うか遊撃になるのかな?魔法剣士を目指すセンパイで、種族はヒューマン。剣と魔法、それから回復に生産と何にでも手を出す器用貧乏……ってことでよかった?」
「言い方が引っかかるけど、そんなところだな。」
「何でもできるって凄いね。私もその方がいいのかな。」
涼斗のキャラの説明を聞いて、紅羽がそんな事を言い出すが、奈緒美が即座に否定する。
「やめといた方がいいと思うよ。何でもできるっていえば聞こえがいいけど、実際は色々なことがちょっとだけ出来るだけっていう中途半端になっちゃうからね。剣の腕は剣士の足元にも及ばないし、魔法だって魔術師のように上級魔法が使えるわけでもない。その道一本でやってきた人に片手間でやってる人が敵わないのは、リアルと一緒だよ。」
奈緒美のいうことはもっともであるが、涼斗には涼斗の言い分がある。
「確かにそうだけどな、だけど戦士に使えない魔法が使える。物理攻撃が効かないアストラル系のモンスターを相手に出来る。また近接戦闘だって出来るから、魔法使いみたいに間合いに入られたら終わるってことにはならない。確かに得意分野では敵わないけど、その分苦手もない。トータルバランスで戦ってるんだよ。」
奈緒美の言い方が気になった涼斗は、思わず反論してしまう。
「トータルバランスって言うと聞こえがいいけどさ、物理、魔法両面において決定打がないって言うのは致命的でしょ?」
「そんな事はない。別に制限があるわけじゃないし、最終的には同じレベルまでたどり着ける……ただ時間がかかるだけで。」
「その時間が問題なんじゃないの。まずは一点に絞って伸ばすべきなのよ。時間を掛ければいいなら、一つづつ伸ばしていく方が効率いいと思うよ。」
「それじゃぁ魔法剣士って言えないじゃないか。魔法と剣、同じように使えるからこその魔法剣士だろ?それがロマンってものじゃないか。」
これは涼斗の持論であり、決して譲れない一線だった。
SLO時代の『リオン』も基本的な戦い方は魔法主体だったが、一応剣も扱えた。
まぁ、システム的に魔法と剣の両立が出来なかったために、剣の腕は大したことはなかったが。
「ロマン?それを言うなら、極振り一点集中大火力でしょ!当たれば一確というのが本当のロマンよ。」
「そんなん、外れたらデスペナ確定だろうがっ!それはロマンじゃなくギャンブルって言うんだ。」
趣味や性格が似通っていて、気の合う涼斗と奈緒美だったが、この件についてだけは以前から話が合わない。
得意不得意とか関係なく、圧倒的火力で問答無用で倒すべし、と言う一点集中型の『ナオト』と、相手の弱点に応じて戦い方を変える『リオン』は、事ある毎に対立を繰り返していた。
実のところ奈緒美は、自分の強引な戦い方では被害が大きく、リオンのように相手に弱点に応じて対応できる臨機応変さが必要だというのは分かっていた。
涼斗もまた、自分のやり方では時間がかかりすぎ、そして場合によっては倒しきる決定力がないので、ナオトのような圧倒的火力が欲しいと思っていた。
お互いに相手を認めているからこそ、譲れないものがあるのだった。
「「うぅ~!」」
「ハイハイ、二人が仲良しなのはよく分かったから。それで私はハーフエルフでいいのよね?」
これだけは譲れないと睨み合う二人の間に、割って入る紅羽。
さっきから、事ある毎に言い合いをしているのを見てきたため、いい加減慣れてきた事と、また話が飛んだらいつまでたっても終わらないと懸念したのだ。
「ん、くーちゃんはサモンテイマー志望のハーフエルフね。ヒューマンでもいいけど、魔力の底上げをするならエルフかハーフエルフの方がいいからね。ステータスはINTとLUKを中心にってところかな。」
これ以上言い合いをしていても答えが出ないのは分かり切っているので、奈緒美はあっさりと紅羽に応える。
「後、戦い方は手懐けたり召喚したモンスターに戦ってもらうって事だけど……。」
「何か問題あるの?」
言い淀む奈緒美に紅羽が訊ねる。
「いや、正直な所サモン・テイマーって情報が流れてこないんだよ。だからステータスもそれでいいか分からないしスキル構成も、今の段階では、たぶんこうだろう、という予測しかできないから……。」
黙ってしまった奈緒美の代わりに涼斗が答える。
正直言って素人が手を出すべきジョブじゃないと涼斗は思うのだが、紅羽は涼斗が印刷してきた資料の中のフェンリルの幼生体とホワイトベビードラゴンが戯れているビジュアルアートを見て、自分もこんな可愛いのをモフモフしたいと言い出して譲らなかったのだ。
きっと紅羽はケモナーの素質があるに違いないと、密かに涼斗が考えていたことは内緒だ。
「ま、まぁ、オープン当日は私がくーちゃんの家に行って一緒にログインするから。」
奈緒美が、言外にフォローは任せて、と言っている気がしたので、涼斗はそれ以上何も言わなかった。
「そうだな。最初のログインで躓いたら、折角のゲームが楽しめなくなるからな。」
涼斗はそう言ってグラスに手を伸ばす……が、そのグラスの中身は空っぽだった。
「あ、私ドリンク取ってくるよ。何がいい?」
それに気づいた奈緒美が、自分のグラスと涼斗のグラスを持って立ち上がる。
「あ、あぁ、任せる。」
「OK!じゃぁ、とっておきのスペシャル持ってくるね。」
そう言って、ドリンクコーナーに向かう奈緒美。
その後姿を見つめる涼斗を、紅羽もまた見つめていた。
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