第4−9話 共にいる理由

「どう!? あんた達よりも先に【獣人】を倒してやったわ! これで、あなた達より私たちの方が強いって証明になったわね!!」


 戦いを終えたフルムさんは、鼻を高くしてウィンさんに言った。


「早く倒すのはいいが、それで自分が倒れてしまっては意味がない。ましてや、相手を拘束もせずに倒れるなど、以ての外だ」


「はぁ!? なにそれ、負け惜しみですか? 悔しいんですか?」


「私は事実を述べているまでだ」


 フルムさんとウィンさんはデネボラ村の一角で互いの意見を言い合っていた。

 僕は意識を失ってしまっていた為に、フルムさんの戦いがどうなったのか、見ることはなかったが、彼女も【獣人】を倒して直ぐに、意識を失ってしまったらしい。


 全員が倒れていたところにウィンさん達が駆けつけた。ウィンさんのいう通り、【獣人】のうち1人でも目が冷めていたら僕たちは死んでいたという訳か……。

 それでも、無事、【獣人】達を拘束し、牢獄にへと連行できたようで良かった。


 因みにだが今回、一番苦労しているのはアドさん。【獣人】の数が多く、移動に手間とっているらしい。

 目を覚ました僕は、手伝いを買って出たのだが、


「いや、俺っちは戦いたくないから、これ選んでんの。強者は休んでてよ!」


 と、笑顔で全て引き受けてくれた。

 遊び人風ではあるが、優しい。

 ありがとう、アドさん!!


「いいか? これはアカデミーで行われる試合ではないんだ。相手を倒せば終わりではない。もし、次に敵が出てきたらどうしていた?」


「……そ、その時はそいつもぶっ飛ばすわよ」


「倒れていた状態で倒せるのか!? それは凄い!! 是非、私にも方法を教えてくれ!」


「……うっさい!!」


「……」


 フルムさんとウィンさんは仲良くていいな~。

 全て真に受けるウィンさんと、隙あらば毒を吐くフルムさんの相性はいいようだ。良いと言うことにしておこう。

 僕は2人の会話を微笑ましく聞いていると、「なあ」と背中から声をかけられた。

 振り返ると立っていたのはユエさんだった。


「ユエさん!! 良かった、無事だったんですね!」


 今回の戦い。

 狙われていたのはユエさんだ。その本人が無傷で歩けていることが僕は嬉しかった。

 無事……守れたんだ。

 喜ぶ僕とは対照的に、ユエさんの表情は暗く思い詰めているようだった。


「……ちょっと、お願いがあるんだよ」


「どうしました?」


 ユエさんは重い視線を持ち上げて言う。


「私を、私を王国まで連れてってくれないか?」


「え?」


「村が壊滅したのは私の所為……なんだろ?」


 ウィンさんが説明してくれていたのだろう。

 今回の【獣人】が、どういう目的で動いていたのか知っているようだった。王の隠し子であるユエさんを殺すこと。

 そのために村が壊されたことに責任を感じているのか……。

 ユエさんに悪い所など一つもないのに。


「だから、私が王国に行って、この村の復興に力を貸して貰えないかお願いしたいんだ。私の所為なら、私が責任を取りたいんだよ」


「……」


 ユエさんに取ってこの村は思いでの詰まった地。

 親同然のマルコさんとエースさんのために、今度は自分が恩返しすると決意していた。


「駄目でも、私は1人で行こうと思う……。考えておいてくれないか?」


 ゆっくりと背を向け去っていく。

 この小さな背中にどれだけの思いを背負っているのか。

 何も言えずに見送っている僕に、フルムさんが言う。


「いいじゃない。行きましょうよ」


 行くことが当たり前だとでも言わんばかりのフルムさん。

 だが、その選択を拒むようにして声が聞こえてきた。


『駄目だよ、ダメダメ!。 そっちの王国では今のところ【獣人】の気配はない。先にネディア王国が先!!』


「……そうですよね」


 本来、デネボラ村を出た僕たちは、ネディア王国に現れた【獣人】を倒すべく向かっていたのだ。

 あれから既に四日間。

 この村と同じく膨大な被害が生まれているかもしれない。


「じゃあ、さっさとそっちを片付けてから行きましょうか? あ、それかそっちはこの糸女にでもやらせればいいのよ。ということで、任せたわ」


 ポン。

 ウィンさんの肩に手を置いて任せた。

 頭に響く声は僕たちだけでなく、ウィンさんにも聞こえているのか、


「ふむ。最善を尽くそう」


 二つ返事で請け負ってくれた。

 良い人過ぎるよ、ウィンさん。


『勝手に話を進めないでよ。君たちには君たちで別のミッションがあるんだからさ』


「そうか、しかし、私達ならば、2つ同時にこなすことは出来るぞ?」


『今までならね。でも、今回の一件がある。【獣人】にも動きが活発になってるから、無理だよ』


 今回のような意思を失う代わりに獣の力を手に入れた【獣人】。今までにないタイプを見て、戦力は無駄に避けないと言う。

 確かに、数が多くなれば監守を買って出ている2人に更に負担が掛かることになる。


 駄目駄目とこちらの意見を全て否定する声に、フルムさんが苛立ちの声をあげる。


「あなたねぇ。無理無理いうなら、願いを叶える力でこの村を戻せばいいだけでしょう?」


「あ」


 僕はフルムさんの言葉に、声を出して納得してしまった。

 そうだ、その手が有ったか。

 この【声】がいる場所は【願いの祠】。その名の通り、願いを叶えてくれる場所なのだから。


『う~ん。少し前までならいいんだけどね。最後に君たちに力を与えたことで、僕は全てを出し切ったんだよ。それもギリギリで、【陽】とか【放出】なんて原始の力を与えたんだから。本当はもっと【糸】とか【扉】とか、フルムちゃんに与えたかったよ』


「……使えな。私に搾りかすを与えるとか更に使えな」


「……」


 フルムさんの言葉に、すねたような口調で代案を提案した。


『酷い言い方するなぁ。だったらさ、君たちが二手に別れればいいじゃないか。元々、僕が戦いに必要だと思っているのはフルムちゃんだけなんだからさ』


「……」


 僕とフルムさんが別行動をすればいい。

 突き放すように声は言った。


 名前を覚えて貰って喜んだが――そうだ。僕はあくまでもオマケなのだ。【獣人】との戦いに必要なのはフルムさんであって、僕ではない。

 いざとなったら不必要な存在で、僕が勝手に一緒に動いているだけ。


 フルムさんは声に、反論をしようと口を開けたが、思いとどまる様に占めて、ゆっくりと言葉を出した。


「……それもそうね」


「フルムさん!?」


 フルムさんは声に同意した。


『でしょ、君たちが3人で組めば、今よりも効率は上がるよ!』


 赤ん坊の言う通りなのは考えるまでもない。

 自在に移動できるアドさん。

 そして、ウィンさんとフルムさんという2人の天才。

 僕がいなくても――大丈夫なんだ。


「じゃあ、そうしましょう。という訳で、アウラくんはあの子を送り届けたら、そのまま自分の畑に戻りなさい」


「でも……! 僕はフルムさんと一緒に居たいんです!!」


「それはなんで?」


「なんで……?」


 言うまでもなく、返しきれない恩を返すため。


「それは畑を元に戻したからでしょう? じゃあ、もし、私たちの力が入れ替わってなかったらどうなのかしら?」


「それは――」


 畑を自分の力で治し、フルムさんは【放出】を使って【獣人】を倒すミッションを言い渡された。

 そうなったら、僕はフルムさんを助けるのか?

 そう問いたいらしい。


「ほらね。悩むくらいなら無理しないでいいのよ」


「で、でも――!」


 食い下がる僕の言葉を消すようにして、何もない空間に扉が現れた。


「お待たせ~。俺っちのお仕事終わり~。偉いっしょ? 褒めて、褒めて!」


 両手で汗を拭う仕草をしながら扉を潜るアドさんをフルムさんが睨んだ。


「良い所に来たわね。あなた達の元に連れて行きなさい」


「え?」


「さあ、行くわよ!」


「ちょ、ちょっと、俺も休ませてって! 一番、頑張ったの俺だよ・ 褒めてって!」


「いいから!!」


 フルムさんが叫んだ。

 その迫力に負けたのか、


「分かったよ~。もう、そう言うところも好き!」


 と、アドさんが扉を開いた。

 そして、僕に近付き肩を組む。


「いや~。4人で行動を共にすることになったんだね。嬉しいよ! アウラっちもよろしくねぇ!」


 どうやら、今回の一件で僕たち4人で行動するようにしたと勘違いしているらしい。

 フルムさんがアドさんの首を掴み引きずる。


「彼はこないわ」


「え? なんで」


「黙りなさい。――【ファイアウィップ】」


 フルムさんは炎の鞭を作り上げると、地面に向かって振るった。鞭は地面を削り、水分を含んだ地面が真っ直ぐ浮き出た。


「そこから入ってきたら、容赦なく痛めつけるわ」


 この線が僕とフルムさんを分ける境界線というわけか。

 僕とフルムさんは互いに視線をぶつけ合う。


 その脇で、線を飛び越えはしゃぐアドさん。


「え、ご褒美じゃん! ほら、ほら、俺を痛めつけて~!!」 


「アド……。空気を読め。私達は先に帰るぞ」


 ウィンさんは僕たちの関係を察したのか、何を言うでもなく、アドさんを連れて扉を潜っていった。


「え、ちょっと、ウィンちゃん!? これも悪くないけども!!」


 糸で首を固定されたアドさんは、恍惚とした表情で消えていった。

 残された僕は、決意を決めて線を飛び越えた。


「僕はフルムさんを助けたいんです」


 僕が地面に足を付けた瞬間――腹部に岩の弾丸が放たれた。


「……ッガぁ」


 フルムさんが本気で僕を攻撃したのだ。フルムさんが本気で痛めつけるはずがない。心のどこかでそう思っていた僕を嘲笑うかのような痛みが襲う。

 ひっくり返った僕を見下して言う。


「充分、助けてもらったわよ。ありがとう」


 フルムさんはそう言い残して、扉に消えていった。


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