第4−6話 敵地へ
僕は【属性限定魔法】を再現すべく、5日間の時を費やした。あっという間に時間は過ぎて、約束の日がやってきた。
洞窟の中。
僕とフルムさんはウィンさん達が帰ってくるのは待っていた。ひやりとした岩肌に背を付けて座る僕にフルムさんが聞いた。
「それで――【属性限定魔法】は再現出来たのかしら? だいぶ遅くまで頑張っていたようだけど? 前日まで根気詰めて本番失敗するのだけは勘弁してほしいわね」
「……」
恐らくフルムさんは、夜遅くまで訓練していた僕を心配してくれているのだろう。その優しさに感謝しつつ、僕は自信を持って笑う。
「……まあ、見てのお楽しみということで」
「なに生意気なこと言ってんのよ。それで出来てなかったら容赦しないわよ?」
そんなやり取りをしていると、何もない洞窟の中心に【扉】が現れた。
ゆっくりとした足取りで洞窟に足を踏み入れるウィンさん。
「待たせたな。こちらの準備は終わったぞ?」
良かった。【獣人】達を捕えるスペースを確保できたようだ。
「あら、あら。てっきり逃げたのかと思ったわ」
「何故、私が逃げなければいけないのだ? 理由を教えてはくれないか?」
「……ちっ」
フルムさんの嫌味に対しても、真顔で真摯に応じる。
その純粋さがフルムさんは苦手なようで、口角を釣り上げて舌打ちをする。
……フルムさん、フルムさん。
今のところ、ただ単に嫌な奴になり下がってますよ?
舌打ちに首を傾げながらも、ウィンさんがデネボラ村の現状を説明する。
「今、アドが村に行っている。この3日間も偵察を続けて貰っていたが、今のところ【獣人】は村から動いてない」
「僕たちが戻ってくるのを待ってるのでしょうか?」
「恐らくな。だが、奴らもそろそろ動く頃だろう」
僕たちが準備をしているかのように、彼らもまた、なにか準備をしているとウィンさんは予想していた。
僕たちは今回、敵が待ち構える場で戦うというわけか……。
「私なりに作戦を考えた。君たちにも聞いて貰いたい」
ウィンさんは自身の考えを伝えると僕たちの顔を見た。
どんな作戦なのか。僕に出来ることはなんだろうか。
姿勢を正した僕の腰を折るように――フルムさんが言う。
「ちょっと待って。なんで私があなたの作戦に従わなければいけないの? その理由を教えてくれない?」
ニヤリとフルムさんは笑う。「教えてくれない?」と先ほどのウィンさんの台詞を借りている辺り、仕返しのつもりなのだろう。
だから、今はやめときましょうって……。
「私は伝えるとしか言っていない。従う、従わないは策を聞いてから考えて欲しいのだが……?」
話を聞く前から決めてかかるフルムさんに、ウィンさんは真顔で答えた。
「あなたねぇ……!!」
フルムさんが怒りの言葉を吐き出そうとするが、ウィンさんが言っていることは間違いではないと、理解はしているようだ。
完全に滑稽と化していた。
こんなフルムさんは、ちょっと新鮮だ。
僕は頬を緩めて2人のやり取りを見ていると――あ、睨まれた。
視線を逸らした僕を救う様にウィンさんが咳払いをする。
「では、いいか? 相手は数こそ多いが戦闘力は低いネズミの【獣人】。そいつらを私とアドが引き受け、牢獄へと運んでいく。君たちには、その間にイヌの【獣人】を抑えて貰いたいのだ」
「あら? 別に私は両方やったて構わないのよ?」
「いや、別れた方が効率はいい。この配置が適材適所だと思っている」
「へぇ~。あなたがあれだけの数の【獣人】を捕えられると思わないのだけど、本当に大丈夫なの?」
「心配には及ばんさ」
ヒュンヒュンヒュン。
風を切る音が響く。
この音は、クレスさんが連れていかれる時に聞こえた音。糸が空中を切っているのだ。僕はフルムさんを見ると、前回と同じように糸が巻き付き拘束されていた。
あのフルムさんが2度も同じ方法で、容易く拘束される。ウィンさんの力はそれほど協力ということで、本人の言う通り適材適所と認めざるを得ない。
「私は拘束は得意で、一度に何人も相手に出来る。更に君たちは、既に一度ならず二度、あの【獣人】と戦っている。だから、手の内を知っていると思ったのだが、どうだろうか?」
「……分かったわよ。だから、この拘束を解きなさい」
フルムさんが納得したことを確認すると、腰を下ろして瞳を閉じる。
「そうか、それは良かった。では、アドが戻ってきしだい村へ向かうとしよう。それまではゆっくり休んでおこうか」
フルムさんを拘束したまま瞑想を始めたようだ。
糸で絡み取られたフルムさんが叫ぶ。
「ちょ、だからこの糸を解きなさいって!!」
◇
それから数時間後。
アドさんが洞窟に戻ってきた。
「やっぱり、あいつらは残ってるね~。ただ、作戦は変更したほうがいいかも知れないんだよね~」
「どういうことだ、アド?」
「あのね、ウィンちゃん。【イヌの獣人】の他にもう一人――ヤバそうな奴がいるんだよ~!!」
アドさんは、大げさに身を震わせた。
「あいつは、この3日間、俺っちの存在に気付いてたんだよね。でも、何もせずに泳がせたわけ。これからくる強い奴を――正面から打ち破るためにね」
「問題ないわ」
フルムさんは、不敵に笑い髪を掻き揚げた。
「え? どういうこと、フルムちゃん?」
「もう一人、【獣人】が居ることは想定してたわ。だって、目の前で仲間を殺した場面を見たのだから」
そうだ。
確かにあの時、僕たちが捕えた【ハリネズミの獣人】を、何物かが【魔法】で殺した。あの時は、数の多い【ネズミの獣人】の誰かがやったのだと思っていたが、彼らにはそんな知性はない。
だから【魔法】を使った相手は別にいる。フルムさんはそのことに気付いていたのか。
「だから、最初から私は2人を相手取るつもりだったわ」
ようやく、見返せると思ったのかフルムさんは得意気に腕を組みウィンさんを見下ろした。
「そうか。ならば、任せた。もし、倒せなければ直ぐに逃げてくれ」
「誰が逃げるもんですか。あなた達よりも早く倒してみせるわよ」
一方的に火花を散らすフルムさんを見てアドさんが僕に話しかけた。
「あの2人……なんかあった?」
「いえ、特には……」
「そっか。でも、フルムちゃんは本当に心配だからさ、頼むよ、アウラっち!!。フルムちゃんがケガしたら、僕怒るからね!!」
「はい!」
「それでは――デネボラ村に出向くとしようか」
ウィンさんの言葉が合図となり、アドさんが扉を開いた。
そう言えば、僕が叔父さん以外に頼まれたのは初めてかも知れない。
僕は戦いの前に、些細なことで喜ぶ心を抑えて扉を潜った。
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