第2-1話 畑の復活

 森から、街に帰る道のりは1人の時よりも速かった。と、いうのも、フルムさんは馬車を使っており、僕も一緒にお供させて貰ったからだ。

 なにから何まで感謝しかない。

 今後、一切、僕はフルムさんに逆らうことは出来ないな。


 あっという間に僕は畑に帰ってきた。

 泥水の溜まる畑は何度見ても気分を重くする。


「あら、あなたは中々立派なゴミ処理場を持ってるわね。ひょっとして、結構、良い所の子なのかしら?」


 フルムさんへの恩で溺れていた僕に対して、畑を見たフルムさんの第一声がそれだった。

 サァー。

 一瞬で恩が引いていった。 


「……」


 確かに。

 確かに、今、僕の畑はフレアに荒らされて、とてもじゃないが、作物さくもつが育てられる状況じゃない。

 でも、だからってゴミ処理場はないんじゃないか……?


「ここが僕の畑です」


「……ごめんなさい。また、癖が出てしまったわね」


「今のは本気でしたよね!?」


 失言を『癖』に擦り付けたフルムさんは、しゃがんで土に手を触れる。土に紛れていた作物の葉に気付いたのか、そっと摘まみ持ち上げた。


「それにしても、酷いことするわね。フレアも……」


 酷いこと言うのはあなたですけどね。

 そう言いたくなったが、こうして畑を戻すために寄ってくれたのだ。

 なんとか堪えて別の言葉を口にした。


「本当に、【陽】属性で元に戻るんでしょうか?」


「さあ? そればかりは、試してみないとね。でも、私の傷は治ったのだから、少なくとも人に作用することは間違いないわね」


 フルムさんは摘まんでいた葉を離して、再び地面に手を触れた。身体を流れる【魔力】に意識を集中させ、【陽】の属性に変換させる。


「【回復キュア】」


 指先から橙色をした光が地面を伝い、枯れた葉と身に流れ込んでいく。


「う、うそ……」


 光を浴びた野菜を掴んで僕は驚愕する。

 さっきまでの身が削れ、痛んでいたのが嘘のようだ。まるで、今、採れたばかりの瑞々しさを誇っていた。


 野菜だけじゃない。土もそうだ。水で濡れ、泥となっていたのだが、程よく乾き、僕が手入れしていた状態に回復していた。

 これでまた――野菜が作れる!!


「ありがとうございます!! 本当に、本当になんと言っていいか!!」


 畑が無ければ、作物が育てられずに、その間は無収入だ。

 叔父さんは、駄目になった野菜を自分たちで食せばいい。そう笑っていたけど、でも、やっぱり、叔父さんには、バランスのいい食事を取って貰いたかった。

 もう、若くないんだから。


 これからの生活に安堵し、改めて礼を言うべくフルムさんを見る。

 額に汗を浮かべて立ち上がった。


「ふぅ。意外に疲れるのね、これって、あれ……?」


 額に流れる汗を拭う――と同時にその場で倒れてしまった。恐らく【魔力】の使い過ぎによるものだろう。

 僕は慌てて駆け寄り、呼びかける。


「だ、大丈夫ですか!?」


 僕の声に反応はない。

 耳を口元に近付けて呼吸しているか確認をすると――、


「すやすや」


 フルムさんの寝息が聞こえてきた。

 良かった。【魔力】の使い過ぎて寝ているみたいだ。





「ただいま帰りました」


「アウラ!! お前、二日間も何処に言ってたんだ! 儂がどれだけ心配したことか――って、フルム様!?」


 叔父さんは立ち上がり、転びそうな勢いで駆け寄ってきた。いつも穏やかな叔父さんの焦った表情。

 それだけで、どれだけ僕を心配していたのか伝わってくる。


 だが、僕が抱える少女を見て、青白くなった表情から、更に血の気が失われていく。


「一体、この二日間で何が起こったんじゃ!? なぜ、お主とフルム様が一緒に!?」


「ごめんなさい。ちょっと、色々あって……。僕もまだ、整理出来ていないんですけど」


 眠っているフルムさんを暖炉の横に置いて、そっと毛布を掛けた。暖かさを感じたのか、フルムさんの表情が少し柔らかくなった気がした。

 眠るフルムさんの横で僕は叔父さんに、何が起こったのかを話す。


「実は僕、【願いの祠】に行ってきたんです」


「【願いの祠】……。とは、なんじゃ?」


「あ、えっと……」


 叔父さんは【願いの祠】の存在を知らなかったようだ。確かに、僕もあの本に出会うまでは知らなかったし。

 僕は森の場所と、そこでフルムさんに出会い、不思議から力を授かったことを説明した。


「力を授かったって……。そんな話、信じられんわい……」


「僕もまだ実感は湧いていないんだけど」


 でも、力があることに違いはない。

 僕は玄関を開けると、手の平を外に向けて意識を集中する。


 ドッ。


 青白い光が弾となって【放出】され、近くにあった木に当たり、幹を大きく抉って消滅した。


「な、なんじゃ!? そりゃ!?」


 見たこともない力に叔父さんは腰を抜かしたかのように、尻餅を付いた。


「赤ん坊曰く、【放出】というらしいんですけど……」


「よく分からん【放出】とかいう力に、意識を失ったフルム様……。駄目じゃ、年の儂には理解が追い付かん。とにかく、今日はもう休むべきじゃ……」


 叔父さんは頭を抑えながら自分の寝室へと向かった。

 そうだよね、こんなことが一度に起きたら誰だって混乱する。僕は椅子に座り、静かに瞳を閉じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る