第3話

「そんな人形は捨ててしまった方がいいんじゃないのか」

父親にそう言われたが、もちろん卓也は断固反対した。

しかし父も母も全くゆずらない。

話し合いは平行線で、まるで解決しないかと思われたが、母がふいに言った。

「しばらく田舎のじいちゃんに預かってもらえばいいんじゃない」

そこから話が進展し、祖父の了解ももらえて、人形をしばらく預かってもらえることとなった。

さっそく次の日、父が一人で車に乗り込み、隣の県に住む祖父の家まで人形を預けに行った。

「しばらく人形と遊べないけど、人形の顔をはがれるよりはましでしょう」

母にそう言われ、卓也は「うん」と返した。


そして五件目の事件が起こった。

近所なのだが卓也が会ったこともない見知らぬ小学生の女の子の人形が被害にあった。

女の子の名前は聞いたのだが、忘れてしまった。

マスコミはもちろんヒートアップし、警察は違う意味でヒートアップした。

もうその辺のコンビニ強盗なんか知ったことではないという勢いで捜査をしたのだが、あい変わらず何が何だか皆目わからないままだ。

小さな家に親子三代、六人が住む家。

そこに誰にも気づかれずに侵入し、人形数体の顔をはいだのだ。

とても人間業とは思えない。

まるで大掛かりなマジックでも見ているかのよう。

侵入された家族もひたすら不思議がり、ひたすら気味悪がっていたと言う。

とにかく足跡や指紋はもちろんのこと、一切何の痕跡も残さずに、犯行時と思える時間帯にも物音一つたてていない。

これを不可解と言わずしてなんと言おうか。

謎は深まるばかりで、一向に解けない。

そして犯人の目的も相変わらず全くわからない。

容疑者らしい容疑者も、誰一人浮かんでこないのだ。

そして近隣の住民はただただ怯え、ただただ不安な日々を過ごすばかり。


「やっぱりあの男が犯人だ」

なにがやっぱりなのかはまるでわからないが、隣の主婦はそう言い張る。

それに賛同するものもいれば、何の証拠もないと言う者もいて、意見はおおよそ二つに分かれたようだ。

しかし共に警察でも何でもない一般市民だ。

なにか行動するわけでもなく、ただ噂話に花を咲かせるだけだ。

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