はじめてのとまどい
日記を読んでくださいとは言われたけど、一体どこから読めばいいのか。
律儀なことに、この子は1年ごとに区切りをつけて暮れているようで、読みやすいには読みやすいが、4年分を一気に読むのは気が引けた。
試しに1年前の5月19日を開いてみる。
文章が短い。
簡潔な表現でただ一言
“冬になったらいいなぁ”
冬、ふゆ、フユ
この人は冬を待ち望んでいる。
頭がそう解釈してから行動に移すまでは早かった。
すぐに検索アプリで「冬」を調べる。
ヒットしたのは
12月22日
と言う日付。
少し下にスクロールしてみると
“四季のひとつ”
“一年の中で最も低温な季節”
など、常識のように文字が並んでいる。
ここで久しぶりに、私は冬というものを知らないことを恐ろしく思った。
「あぁ、私ってこの世界だと何にも知らない赤ちゃんなんだ」
ポツリと出た、独り言。
『じゃあ、ぼくがせきにんをもってあかちゃんのおせわをしますね。』
冬真さんの、声が聞こえた気がした。
冬真さんが来たのだろうか。
独り言を聞かれていたのは少し恥ずかしいな。
扉の方を見ても誰もいない。
いっそ来てくれればいいのに。
冬ってなんなのかを教えてくれればいいのに。
一緒にゆっくりお話ができたらいいのに。
もやもやした気持ちが私の中を渦巻いている。
先ほど話したばかりなのになぜ会いたがっているのか。
そんなことを考えていると、なんだか日記を読む気にもならず、ふかふかのベッドへと倒れ込んだ。
「また今度っていつだろう。」
1人、ベッドの上で寝転びながら冬真さんとの会話に思いを馳せた。
ーはじめて編 終了ー
はじめてのふゆと、にどめのこい くりら @anne_
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