早く歩いたその先に、麺。
前北 由華
早く歩いたその先に、麺。
また今日も言われた。「いつまで緑色でいるつもりなの?」
緑色であることは悪いことのように聞こえる。
全く不幸なんかじゃないのにね、それに緑茶って誰からも愛されてるじゃんね。
緑の肌に、毛づくろいせず無造作に生えた茶色の毛が映える。
待ち合わせ場所に近づくと、背筋がぴしっと伸びた、赤色のきつねが先に着いている姿が見えた。「遅れてごめん、また虎ぶっちゃって。」きつねはいつも優しい。ただ、やみくもに優しいタイプではなく、芯がある。そこが好きだし、赤色にふさわしいと思っている。「また吠えちゃったの?虎ブルってことは、呻いてたっていうこと?」この世の終わりの様に返す。「また色のこと言われた。最悪。」
きつねはゆっくりと歩きだして言う。「緑でも赤でも、毛が茶色だから似合うよ。私は毛が黄色に近いから、緑色だったときは、ひたすらピーマンかなって思ってたし。」彼女はきつねの中でも、比較的明るい、はっきりとした黄色の毛が生えている。自覚はないようだけれど、光が当たると金色に見えて、輝いている様がきれいだ。私は、たぬきの中でも珍しい、青がかった茶色の毛が生えている。自分では気に入っているが、周りからは、赤の肌の方が似合うから早くそうすべきだ、と言われている。
今日言われた言葉を思い返して黙っていると、きつねは静かに言う。「赤色になって2年経って、緑色に戻りたいと思う時もたまにあるけど、世界の終わりではないよ。」周りの緑のたぬき仲間も続々と赤いたぬきに変身している。赤色の肌を携えた自分を想像してみる。それが似合っているのかどうか、自分ではもうよく分からない。「私、本当に赤色似合うかな。もし似合わなかったら恥ずかしいじゃん。」きつねは足を速める。「似合うかどうかなんて、他のきつねが、もちろんたぬきもそうだけれど、決めることじゃない。というかさ、今日はあったかいものにしようよ。」行き先は決まっているようだ。どんどん足が速くなっていく。きつねのスピードについていくのは大変だ。「ねえ、今向かってるところって、あの角の店?」歩みはとまらない。「当たり前だよ。こんな日は、麺しかないでしょ。」出されたお椀から立ち込める湯気に顔を当てるところ想像するだけで暖かくなってくる。今日は、暖かいものにつつまれて、良しとしよう。
早く歩いたその先に、麺。 前北 由華 @lli_722
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます